食物連鎖の変わる日
茹で毬藻
第1話
20XX年、12月31日。
世界は1年の最後の日として人々は残り少ない時間を楽しんでいた………。
だが、その日は食物連鎖の頂点が入れ替わる日でもあった。
深夜3時17分、太平洋に何かが着水した。
フワフワした金色の毛に包まれた50センチほどの球体は水に浮かび、そのまま波に乗って浜辺へと流れ着く。
島には狩猟民族がいた。1人の男が毛に包まれた球体を拾い上げたその瞬間
島が閃光に包まれた。
そして6ヶ月後の6月3日。
「えーここで速報です、今日東京湾に直径20メートルの巨大な氷塊が流れ着いているのが発見されました。警察は南極などの流氷という可能性は極めて低く、人為的な可能性もあるとして調査しています」
朝7時40分、ごく普通の高校3年生の芹澤隼人はニュースを見ながら支度を整えていた。
「氷塊って今6月だぞ、そんな事あるのか?」
独り言を呟きながら制服に着替えてリュックに財布と課題を入れて靴を履いた。
玄関の鍵を閉めてアパートの階段を下ると、下の二輪車置き場に停めてあるスクーターに跨った。エンジンを掛けて隼人は駐輪場を後にした。
20分後、隼人は高校の駐輪場にスクーターを止めるとヘルメットを脱いだ。
「隼人おはよっ!」
「うぉ!?」
隼人の肩にコーラを差し出したのは幼馴染であり、ガールフレンドの宮瀬彩香だった。
「ったくビビらすなよ冷てーし」
「いつも朝に弱いんだから少しは刺激してあげないとね?」
「相変わらずいいコンビだな、早く結婚しろよ」
2人に割り込んできたのは隼人の親友の大野竜太郎、生徒会書記のすごい人(?)である。
「うるせーなするわけねーだろ」
「まだ1年も経ってないもーん」
顔を赤くしながらも隼人と竜太郎、彩香はいつも通り教室へと向かった。
4限目の12時4分、世界史の自習中に事件は起きた。
「………おいアレなんだ?」
「流れ星?」
「…隕石だろ?」
「こっち……来てねーか!?」
「やばい早く逃げ」
校舎が一瞬にして貫かれ、大きな揺れと爆音と共に校舎が崩れ落ちた。
隕石は校舎を貫き、後ろの畑に着弾して衝撃波を放ち、辺りの民家を吹き飛ばした。
「ここで緊急の速報が入りました、先程埼玉の県立高校に隕石のようなものが落ちたという情報が入りました。まだ生存者は分かっておらず、現在警察と消防が全力で捜索を進めているとの事です」
高校に隕石が落ちた事はあっという間にお昼のニュースなどを通じて全国を駆け巡った。
<隕石落ちたってマジ?
<高校に直撃かよ、こりゃ大勢死んだな
<人類は災害には敵わない
<隕石が高校とかに直撃って史上初じゃね?
<ある意味歴史に残るな
<人生これからって時に…ご冥福をお祈りします
<これ隕石って見つかってるん?
<とりあえず隕石の大きさが気になる(笑)
<貴重なサンプルだろうから丁寧に回収してほしい
SNS上では隕石落下のニュースはトレンドに入る程盛り上がり、心配する声や隕石が気になるという話で一気に膨れあがった。
「ううっ………あ…」
隕石落下からどれほど経っただろうか、隼人は意識を取り戻した。頭から生温かい液体が垂れてくる。口に入ると鉄の味で口の中が一杯になる。
「痛ってぇ……」
全身が酷く痛む、隼人は深呼吸して何とか呼吸を整えると力を入れて瓦礫から左足を引き抜いた。頭上は奇跡的に抜け落ちた天井が屋根となり、最小限のダメージで済んだ。
「おい、しっかりしろ、おい!」
隼人は床に倒れている隣の席の女子生徒に声をかける、しかし
「……は、隼人…君……ちょっと…」
「な、何だ、助けてやるぞ」
「足に……力…入らな……くて」
「あ、足?足って……」
隼人が女子生徒の足を見ると、おぞましい物が写っていた。
ミチャ……チャグッ…
不吉な水音と共に緑色の鱗に包まれたトカゲのような生物が女子生徒の左足を食べているのだ。血に染まった小さな口からは鋭い牙が生えている。
「……………!」
隼人は咄嗟に口を塞いだ。血生臭い匂いが立ち込め、吐き気と共に恐怖が込み上げてくる。隼人は物音を立てないようにゆっくりと後退りで距離を取る。
「隼人…君……」
女子生徒が隼人の左足を掴む。
「ば、バカ離せ…!」
左足を掴むその手は、下半身を食べる爬虫類と同じ緑色の鱗が生え始めている。
「助ケテ……」
女子生徒の口が裂けて二股に裂けた舌が伸びて蛇のような毒牙が生えていく。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
隼人は渾身の力で女子生徒の顔を蹴り飛ばして怯んだ隙に逃げ出した。
瓦礫に埋もれた廊下を必死で走ると3年4組の教室に辿り着いた。
「そ、そうだ、彩香!竜太郎!居るなら返事しろ!!」
教室に向かって隼人は必死に叫ぶが返事は無い。
「嘘だろ…!」
隼人は慌てて瓦礫を退かして教室に飛び込むと、周りにはバラバラになった人間の手足が散らばっていた。
「う、うぁ…ぁぁぁぁぁぁぁぁ……!!!」
隼人は慌てて教室から飛び出した、その時だった。
足に何かが当たった、見るとそれは10センチ程の恐竜の牙のような物だった。
「な、何だこれ…化学室から出てきたのか…?」
だが、手で握るとじんわりと温かみを感じる。隼人はポケットに牙のようなものを入れると急いで廊下を走って外へと向かう。そして正面玄関のガラス戸を全身で体当たりしてぶち破ると外へと脱出した。
「動かないで!」
転げ出た隼人の周りを黒い装甲に包まれた男達がマシンガンを突きつける。
「な、何だよ俺は人間だぞ!?」
「おい、検査しろ」
「はっ」
マスク越しに聞こえる男の声、1人の男に腕を掴まれると、吸盤のような物が付いた筒を腕に押し付けられた。
ピリッとした痛みが走ると、吸盤を付けた所にほんのりと赤い痣が出来た。
「陰性か、なら大丈夫だ。すまない」
「あ、アンタらは…?」
「話は後だ、とりあえず装甲車に乗ってくれ」
そう言われると隼人は強引に自衛隊の装甲車に乗せられた。
「隼人!無事だったか!」
「竜太郎!よかった…!」
隼人は思わず竜太郎に抱きついた。
「おい頭から血が出てるじゃねえかよ、タオル貸してやるよ」
「わ、悪い、それより彩香は…!?」
「彩香は大丈夫だ、隣の車両に乗ってるよ」
「ほ、本当か…?」
「ああ、安心しろ、俺が連れてきたから」
「良かった…」
隼人は座り込むと、思わず涙を流した。
「おいおい泣くなよ、お前も助かって良かったな」
隼人が座り込むと同時に装甲車にまた別の男が乗ってきた。
「これで生存者は全員だ、これから埼玉の駐屯地に向かい、皆さんの傷と再検査を行い、完全に陰性反応が出たら帰宅できます」
「駐屯地?何でそんな所に?」
「……いいですか、これから話す事は全て真実です、落ち着いて聞いてください」
遡る事3ヶ月前、アメリカの生物研究所から信じられないニュースが舞い込んだ。
「人間を捕食する完全新種の大型爬虫類を発見、これまでに数々の犠牲者が出ている模様」
そしてもう一つ、新種の人間にのみ効果のある肉体を異常発達させるウイルスの発見。それはその人間を捕食する爬虫類の体内から発見された。
そのウイルスが日本にやってきている。
「そ、それって……」
隼人は思い出した。小さな爬虫類が目の前で女子生徒の足を食べ、そして女子高生が異形な姿になった事を。
「とりあえずこれから駐輪場に向かいます。ご協力よろしくお願いいたします」
そう言うと、装甲車はゆっくりと動き出した。
動き出すと同時に、隼人のポケットに入れられた牙のような物が少しずつ大きくなっていた。
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