第4話

 ジリリリ・・・!

 けたたましい目覚まし時計に目を覚ます。今日は土曜日なのでモーニングはない。まだねていてもいいのだが、生活リズムが崩れるので同じ時間に起きるようにしている。

 春の冷たい水で眠気を払い、瑠璃色の空が朱に染まっていくのを眺めながらトーストエッグとコーヒーを流し込む。今日のコーヒーはブラジルピーベリーベースのブレンド。ミドルローストでバランスの良い酸味と苦みが心地よい。多めに淹れた残りをタンブラーに注ぎ、早朝の散歩に出かける。


 まだ冬の名残を感じさせる冷たい空気が頬をなでる。まだ街は起きては居ないような静けさをたたえているが、ポニーテールを揺らしジョギングする姿や、公園で太極拳をする一団など、普段とは少し違う景色を楽しむ。


 近くの河原まで歩くと色んな鳥たちが集まっているのが見える。鳥たちに囲まれているのは、サングラスに派手なネックレスとブレスレットに指輪をギラつかせた・・・雀さんではないか。


「おはようございます。朝から賑やかですね。」

「お、おっちゃんか!おはようさん。」

「今日はお休みですか?」

「そそ。おかげでこうして鳥たちと戯れていられるって訳よ。そっちこそ今日は休みかい?」

「いえいえ、昼からは開けていますよ。」

「今日の日替わりランチは何だ?」

「ポークステーキのジンジャーソース添え、ポテトのポタージュ付きです。」

「おぉ、いいねぇ。そしたら昼頃に行くから席開けといてね。」

「承知しました。まぁ・・・埋まることも有りませんがね。」

「へへ、よろしくな。」


 雀さんと別れ街の外れをのんびり歩く。向かいから緑と黒に彩られた大型バイクがやってきた。


 キッ!ドゥロロロロ・・・

「よっ!大将じゃないか!」

「これは兎さんでしたか。おはようございます。お出かけですか?・・・それに新しいバイクですか?」

「ああ、このカーボンに呼ばれてな。思わずサインしてしまったんだ!で、これから慣らしで大間まで行って来ようと思っている。」

「いいですね。」

「何か土産でも買ってこようか?」

「そうでしたら、むつの関の井酒造で下北半島限定銘柄、しずく酒が手に入るようでしたら、お願いしてもよろしいでしょうか?無ければ田子町のニンニクを・・・」

「まるでお使いだな。」

ケラケラと笑う。

「ま、わかったよ。見つかったなら買ってくるさ。んじゃあな!」

フュンフュン・・・カシャッ!プァァァァ・・・パァァ・・・パァ・・・


 普段は疲れた顔をしているのに、バイクにまたがっているときだけは元気な人だな。ここから大間まで往復およそ1000km。慣らしとしては丁度いい距離ではあるが・・・、高速区間は半分くらいだから、帰ってくるのは夕方くらいだろうか?関の井酒造はマイナーだがいい蔵だ。うまく手に入れてくれたなら何かごちそうでもしようか。


 山に入り、少しきつくなってきた傾斜を登る。

「おや大将、散歩ですかな。」

 

 鉄棒に笹をくくりつけた竹箒で、境内を清めていた和尚が出てくる。なぜか上半身裸になっているが、これも修行だそうだ。この和尚は竹箒よりも薙刀でももたせたほうが似合いそうだと思う。


「和尚さんおはようございます。この先の展望所まで行こうかと。」

「ほほっ。佳いですな。」

「ところでどうじゃ?」

 バックダブルバイセップスしながら聞いてこないでください。


「素晴らしい筋肉ですね・・・。」

「そうじゃろう、そうじゃろう。」


「・・・はぁ。あんまりにもごつすぎてさ、子どもたちが泣くんだよねぇ。」

「これは奥様。おはようございます。」

「弛み切った身体よりはいいんだけどさ、何もここまでゴツくしなくてもいいのにねぇ・・・。幼稚園のイベント毎にパンプアップしてくるから子どもたちが泣いてねぇ・・・。」

「なんじゃこの間のは節分じゃったから、鬼にふさわしい身体に整えただけじゃ。」

「はぁ・・・。この筋肉バカを治す薬はないかしら?」


 ため息ついておられますが奥様、緩みきった表情で和尚の身体をなでていては説得力がかけらもないと思いますよ。と心のなかでつぶやく。ちなみにここの幼稚園は一部の母親に評判がいいらしく、なかなかの倍率らしい。いちゃつき始めたので挨拶をし、立ち去る。


 展望所まできて、近くのベンチに腰掛ける。かつて山城があったらしく殿様の銅像が立っている。街を一望できるこの展望所は人気のスポットで、夕暮れから宵の口あたりはカップルなどで賑わうが、早朝のこの時間はゆったりした雰囲気が漂う。にぎわい始めた街を眺めながらコーヒーを飲み干し、帰路についた。

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