第5話

  散歩を終え帰宅する。郵便受けを見遣れば、チラシが新装開店を知らせてくる。

「新しいバーですか。本日開店ですね。ふむ・・・今夜は店を休みましょう。」


 店前の黒板に休業予定と本日のランチを記す。店の前を掃き、窓とテーブルを拭き上げていく。蒸かした芋をマッシュし、炒めたタマネギと合わせる。ほどよく煮崩れたところでざるで漉す。牛乳を加え、軽く煮たったら塩とこしょうで調味して完成。厚切りの豚肉はしょうがいりのソースで下味を付けておく。準備が出来たところで開店の札を扉に吊るす。


 ランチは日替わりの他にいくつかの軽食を出す。コーヒーもそれなりに出るのでプレスで作っておく。ペーパードリップは灰汁などが出ないためすっきりした味わいだが、プレスはコーヒーアロマを多く含むためやや丸い感じでリラックスさせてくれる。


チリンチリン・・・

「いらっしゃいませ。」


 今日は珍しく客の入りが良い。ポークステーキが売り切れそうだ。

チリリ・・ン!

「いらっしゃいませ。」

「よう大将!二人いけるか?」

「いらっしゃい熱湯さん。こちらにどうぞ。」

「景気良いじゃないか。ランチをふたつ。」

「今日は奥様とですか。」

「たまには、私も外で食べたくなるのよ。お昼でもお酒はいただける?」

「ええ。何になさいますか?」

「ポークソテーよね・・・。おすすめの白ワインをいただけないかしら?」

「白、ですか。少々お待ちを。」


 ワインセラーでリストを確認する。うちでは趣味でイタリアンワインがメインだ。とはいえおすすめか・・・。シャルドネリスネリスにするか、グリチネビアンコにするか。ロゼだがすっきりした飲み口のバローネ リカーゾリにするか。なかなか難しいが、あまりお待たせするわけにもいかない、3本とも持っていって選んでいただこう。


「ふぅん、なら、ロゼを頂こうかしら。」


キュキュッ・・・ポンッ!

「良い香りね。酸味もあっておいしいわ。」

「お口に合ったようで何よりです。」


チリン・・・

「よっ!おっちゃん!今日はもうかってんな!」

「いらっしゃい雀さん。」

「お、熱湯夫婦じゃねぇか。となり邪魔するぜ。・・・っと、おっちゃんランチくれ。あと俺にも同じワインを。」

「まいど。・・・ああ!豚肉きれてもた・・・。」

「おっちゃん・・・楽しみにしててんけど・・・。」

「二人とも関西弁出てるよ・・・。」

「え?あぁ・・・。っとすみません、雀さん何か代わりの物でも如何ですか?」

「しゃぁないな。唐揚げでも出してもらおうか。」

「レモンは?」

「邪道」


 刹那、店内の空気が数度下がったかのように思ったが・・・気のせいか。気を取り直し鶏を揚げていく。

「お待たせしました。」

「おう!ところでよ、夜休みなのは何かあるんか?」

「ええ、近くで新しいバーが出来たそうなので顔出ししてこようかと。」


 雀さんが納得した表情で頷く。

「へぇ。バーが出来るんだぁ。ね、私たちも行かない?」

「そうだね。バーッと行くとするか!」

「また駄洒落が・・・。奥さん、なんとかなりませんか?」

 あきれたように雀さんがつぶやく。

「これはもう不治の病よ。諦めたわ。」

 肩をすくめながら奥様が応える。

「まぁとりあえず、皆で行きましょうか。そのチラシに電話番号載ってるわね?ちょっと電話するから貸しなさい。」


「もしもし・・・はい・・・ええ・・・4人で・・・よろしくね。っと、これでヨシッ!と。んじゃあ夕方まで少し酔い覚まししてこなきゃね。ほらあんた、さっさと食べて!」

「熱湯どんも奥さんの尻に敷かれとるんやな!よっしゃ!俺も酔い覚まししてくるで!」


 閉店の札を貼り、新たに淹れ直したコーヒーを飲みながら今日の売上計上を済ませる。さて・・・どんなバーなんでしょうか、楽しみですね。

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