第3話
ある日の夕方、窓越しに帰宅を急ぐ方々が見える。
チリンチリン!
勢いよく扉を開け柄の悪そうな中年が入ってくる。一見悪そうではあるが、自宅で雀を餌付けしているとこを激写され、以降雀さんと呼ばれている。
「よっ!おっちゃん!今日もいつものね!」
この方はなぜだかT○P-VALUEのウイスキーで作ったコークハイが好きなようだ。好みは人それぞれなのでとやかく言う気はないが、もう少しいい酒を召し上がれば良いのに・・・とは思う。
「くぅ!この噎せ返るアルコール臭!たまんねえな!」
まるで水のように消毒液のようなコークハイを飲み干す。
タァン!
「ゲホッ!ゴホッ!うー不味い!もう一杯!」
「そのような飲み方はよろしくありませんよ。」
チリン・・・
「いらっしゃいませ。これは先日の。」
「こんばんは。居心地が良かったので・・・。」
「恐縮です。」
先日の青年は雀さんを一瞥し、少し顔を引きつらせ距離を置いて腰掛ける。まあ見た目はきついから仕方が無い。
「あ、注文ですが、ビールをお願いしてもいいですか?」
「当店では瓶でお出ししておりますが、大手メーカーは揃えてございます。」
「じゃあ・・・男は黙って黒!」
「かしこまりました。」
シュポン・・・コトリ・・・
トクトクトク・・・
青年がのどを鳴らし、グラスを空ける。
「ふぅ・・・」
コンコン
「兄ちゃん、見かけない人だな。」
「え、ええ・・・。転勤でこちらに・・・。」
「黒好きなのか?」
「えっ?ええ、まぁ」
特に返事を待つこともなく雀さんは鞄を漁り、何枚か写真を取り出す。
「どれがいい?」
「えっ、あっ、いえ・・・」
「おれのオススメはこいつか、こいつだな。」
「いや、その・・・」
青年が目を白黒させ、言葉をつまらせる。いきなり写真を見せられても困るだろう。
「雀さん彼が困っておられますよ。あまり押すのはよろしくありませんよ。」
「なんだよー、この雀いいだろ?こっちのやつもいい。プリケツ具合が最高だ。」
「あっ、でもこのふっくらしているのがいいですね」
「おっわかるか!こいつはな・・・」
雀さんが滔々とスズメの良さを話し出す。青年はその話の深さに顔をひきつらせ、助けを求めるように周囲を見渡す。
チリン・・・
「こんばんは。」
「いらっしゃい。和尚さん。」
和尚さんが狭い店内を一瞥し、青年に絡む雀さんに嘆息する。
「っと、また雀どんがちょっかいを出しとるの・・・。」
「スズメの良さを話しているだけじゃねぇか。」
「雀がスズメをススメるとな・・・。」
「まぁた、駄洒「ぷふっっ!」・・・え?」
どこが面白かったのかわからない。寒い駄洒落だったとしか思えないが、感性の差か。
「儂のユーモアについてこれるとは、なかなか有望な若者じゃの。」
そう言い、和尚が肩を震わせる。
「ようし!今日は儂が食わせてやろう!好きな物を選ぶがよい!」
「えっと・・」
「お、駄洒落僧正あざーす!」
「ぬしには言っとらん。若いの、遠慮せず頼むがいい。」
ワハハハ・・・!
上機嫌な和尚と豪快な雀さんに挟まれ、いつしか青年も愉しく飲み出す。今日もまた夜の静寂に愉快な声が鳴り響く。
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