第16話 旅の準備

「ええ、僕らは世界の中央に観光に向かっているんですよ。まあ急ぐ旅でも無いのでのんびり向かっていますけど」


「そういえばお二人さんは世界の中央に行きたいって言ってたもんね。あたしも着いてきたかったなあ」


「ほお、それなら最近あの島の情報が流れてきたんだが、あそこには今入島制限がかかっているようだよ。私にも個別の連絡が来ていたしね」


「おバカ。反協調路線の連中が暴れたからこうなったんだよ。見つかった日には縛り首だよ。おとなしく許可証を持っていきな」


「許可証が必要なんですか。それはどこで貰えるんですか?一応僕らはそこに行く用事がありますので、なんとか集めたいんですが」


「許可証は各大陸の協調路線に合意している地域の有力者が発行しているよ。なんせ千年続いた戦争のあと始末だからね、面倒なことに各大陸の有力者からそれぞれ貰わなけりゃ入島出来ないと来た」


「…それは七面倒な。やっぱり侵入した方が良さそうだなあ」


「ダメだよジル。それじゃあこの戦争の講和が長引いちゃうかもしれないよ?」


「まあ諦めなジルルステイジ。この国というより都市連合でまとまっているこの竜大陸分の許可証は私が発行しても良いみたいだからね。諦めて残り二つを集めてくるんだよ」


「そうはいいますが、各大陸を移動するのは大変ですよ。俺たちは飛べるわけではないのですから」


「あたしたちが空から連れていけたら早いけどねえ。これから生まれてくる竜の子供たちの世話をみんなでしなきゃならないからなあ」


遅すぎる昼食を囲んでやいのやいのと一同はジルとアルデミラの今後の予定について話をしていた。

されども彼らが考えていたよりも世界の中央に行くには多くの手間が必要で、それについて彼らは頭を悩ませている。

ちょっと地図を貸してみい、とヴァーダが地図を見て唸っているアルデミラとジルから取り上げ、幾つかの候補を指し示していく。


「魔導大陸にはこの世界の中央から近いところに面している窪んだ内海にある街オールカインに有力者が要る。これは世界の中央から近いし、竜大陸の港から出る船で二週間も掛からないで着くんじゃないかい?」


「ほー、こんな海の上にも町が作られ人は住んでいるのですか。すごいですね」


「これは、まあ着いてからのお楽しみだねえ。とにかく、この街の長には私も面識があるから一筆書いてあげよう。それと、こっちの黒鉄大陸のほうにある町ブローベクトにはお前さんもおなじみの戦神の神殿があるし、ここでなら許可証はお前さんなら発行してもらえるんじゃないかい?あそこの神殿も発行しているようだしね」


「確かに、それなら融通が利きそうで良いですね。それじゃあまずは、魔導大陸の方へ出向かなければならないようですね」


「そうと決まったら、港町目指してレッツゴーだね!」


「半日くらいの距離までだったらあたしが送ってあげられるからね!大船に乗った気持ちで任せなさい!」


とりあえず今後の方針が決まったので、食事を済ませた一同は再びそれぞれの用事を済ませることにした。

出発は次の快晴の日と決めたので、ジルとアルデミラも旅に必要なものを補給することにした。

といっても、ジルとアルデミラは保存食や消耗品を持てる分だけ頂いたので、あとはそれぞれの嗜好品、アルデミラであれば魔草を干した魔力循環の助けになるタバコや、ジルの暇つぶしになる本などを探してわりと早くに終いになった。

ならばと更に観光がてら、用事を作ってみて回ることにした。


「アルデミラ、レーンの親父さんが言っていた火吹き工房で君の触媒に使えるナイフも探しておこうか。その宝玉をはめ込めるならそれなりに質のいいものが必要になるだろうし」


「そうだねえ、竜の素材だし、使い慣れてるここの里で作っちゃったり買っちゃうほうがいいよね」


「俺もほかにどんな武器を彼らが使っているのか気になるしね。良い時間つぶしになる」


二人はそうして、レーンの父親がお勧めしていた工房を訪れることにした。わりと火を使うので里の外れの方にあるようで、岩壁を大きくくり貫いて出来た立派な工房だった。


「すごーい!僕の村にあった工房よりも数倍以上大きいよここ!それに暑い!」


「暑いなあ。これだけデカいともしかしたら竜の鐙なんかもここで作っていたのかもね。おーい、訪ねたいのだがここでは魔術触媒用の武器は作ってもらえるだろうか?」


工房は出入り口が非常に大きく、竜ですら出入りできるほど立派なものである。中からは職人たちの振るう道具の音が響き、時々聞こえる豪音は火を巻き上げる音であった。


「やっとるぜよ!ってあんたらうちの里を救ってくれた英雄でないかい!ささ、入んなよ!うちにはいろいろとほかの地域にゃ置いてねえものも多いぜ!」


「ほう、あらためてよく見ると白老殿が申す通り随分と立派な武者に可憐な精霊殿だな。此度のことは礼を言うぞ」


「え!?竜の方も働いてるの?」


「みたいだね。これは面白そうだ」


二人を出迎えたのは鍛冶仕事で鍛えられた肉体を持つ親方と、なんと鉢巻を締めた青い鱗の竜であった。

招かれるままに工房へずらずらと向かえば、何頭かの竜も職人に混じり共に働いているようで、炉に火を噴いたり、巨大な金属塊を切り出したりと賑やかに働いていた。

図面の広がるテーブルに通され、話を進めることとなった。


「それで、お嬢さん方は本日は何をお求めだい?」


「僕はこの宝玉を組み込めるような触媒用のナイフが欲しくて。このあいだ使っていたものが壊れてしまったので、出来れば切れ味も良し、頑丈さもよしみたいなのが欲しいです」


「俺はにぎやかしに来ただけなので、ちょっと見て回ってもよろしいでしょうか?面白そうな道具が多いですし」


「なるほど、それなら任せてくれい!あんちゃんのほうもケガしないように気をつけながら見学してくれていいぜよ!ところでナイフの方はどれくらいの長さが…」


アルデミラが希望を伝え、デザインに凝った竜が引く図面に唸っている間、ジルも見たことが無い竜の民の道具を物色して回るうちに、一日が終わっていく。




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