第14話 祭りの夜

 呪いの消え去った里ではその晩早々に竜たちの産卵が始まり、里でもお祭り騒ぎが始まっていた。

 竜の陽の気に当てられるのは人間も同様らしく、賑わいは深夜になってもやむことが無い。

 ジルとアルデミラも、その喧噪の中をふらふらと観光気分で練り歩いた。


 一通り観光が済むと、炊き出しで恩人だからと大盤振る舞いでもてなされ満足した二人は手伝いついでと、大量の食べ物を抱え竜の産卵を見守る者達へ運ぶのを手伝うことにしたのだった。


 運んでくれたのはヴァーダの甥という男性で、かつて竜と共に空を歩んでいた世代ゆえか、巧みな竜捌きで彼らを歩きとは比べる比べるほどもない速さで運んでくれた。


「見て!あそこに並んでるのは今日生まれた卵だよ!たくさんあるね!」


「竜の卵はやっぱり巨大なんだな。あれを食べたら一週間は腹が空かないだろうよ」


「一説によると竜の卵を食べると、卵の持つ生命力で10年は寿命が延びるとか本に載ってたよ」


「…それは興味深いなあ。里を救ったのだし、一つくらい頂いても、」


「ダメだよジル!この卵たちが孵らないと、竜たちの数は回復しないんだから。戦乱で数分の一にまで減ってしまっているし」


「そうかあ。いやしかし、十年あれば確実なのだがなあ」

「確実って、何が?」

「ああ、それは、」


「おやおやお二人さん、竜の産卵場はデートスポットって訳じゃあないよ!逢引するんならもっと静かなところを私が教えてあげようか!」


「そうかい?俺はどうも経験不足が目立つな、不甲斐ない。それじゃあ経験と知識の豊富そうなレーンにご教授願おうか?何ならいろいろと手取り足取り教えてほしいね」


「わわわ、手取り足取りは恥ずかしいっていうか、不健全ですぞ⁉」


「レーン、僕たちはまだそういう関係ではないから!それにジル、話に乗ってからかわないでよもう!」


「ふむ、ごめんよアル。俺もこういう気安い会話ってのがしてみたかっただけなんだ、許してくれ」


 会話に乱入したのは一日中動き回ってもなお、疲れが出た様子の無いレーンだ。彼女は生まれてから初めて竜たちと接しているのにも関わらず、気さくにあちらこちらを動いては手を尽くしていた。

 茶化してごめんね、とレーンは荷物の差し入れを頬張りながら、そういや連絡忘れてた、と本題を告げる。


「おばあ様と白老様が二人を呼んでたよ。今回のことでお礼がしたいってさ。二人はここを見張らせる、あのとんがり岩のほうにいるから。それと私からも。二人とも、本当にありがとう」


 レーンは一対の色石を取り出すと、それぞれを二人に渡そうとする。

 竜の卵の殻を加工したもので、砕いた欠片にはそれぞれ互いの安否を知ることが出来るまじないが込められているらしい。


「うん!僕も皆が仲良しに戻れて本当に良かった。どういたしまして!」


「俺に礼はしなくてもいいさ。アルの付き添いだしね」


「素直に感謝は受け取るんだよジル」


「そうだよ、ジルも魔獣の群れ、邪神に呪いにと大活躍だったし!正直かなり格好良かったよ!受け取って。私の分も分けているから、ぼんやりとだけどどっちに居るかくらいなら分かるよ!」


「そうか、戦いを称えるものであるなら素直に受け取らせていただこう。ありがとう」


「ふふ、お揃いだねジル!」


「ああ、これで君が危ない目にあったときすぐに助けに行けそうだ」


「はいはい、お熱いのはいいけど伝言のほうも忘れずにお願いね。私は君たちの持ってきてくれたごはんをみんなに配っちゃうからさ。ではまた!」


「ふむ、竜の民というのならならあれくらい活発でないと、竜は御しきれないかもな」


「かもしれないねえ。それじゃあ僕たちもヴァーダさん達のところへ向かおうか。いくらお祭り騒ぎだからって、このままじゃあ日の出が来てしまうしね」


 風のように去っていくレーンを横目に、夜明けを迎える前にと二人はヴァーダ達の元へ赴く。


 ヴァーダと白老は、並んで活気が満ちあふれる竜のねぐらを見守っていた。

 言葉はなくとも、抱いている思いは共有していた。彼らの後継が奮戦する姿は、自然と老いていた二人にも活力を生み出していた。


「ヴァーダさんに白老さん、お待たせしました!」


「おや、二人とも来てくれたかい。それじゃあ、改めて礼をさせて頂くよ」


「アルデミラ嬢には竜の宝物であるこれだ。触媒に用いればよい魔術媒介となるだろう。呪いを解いてくれたこと、深く感謝する。何か困りごとがあれば我ら総出で力になることを約束する」


「ありがとうございます、白老さん!ちょうどいい触媒が切れてて困っていたんです。何か困ったら、助けてもらいますね!」


 アルデミラが受け取ったのは竜の体内に稀に宿るという宝石で、竜の魔力を宿すとても珍しいものであった。


「ジルルステイジ、お前さんにはこれだ。うちの里ではもう使いこなせる奴はいないだろうしね。ありがとうよ」


「おお!なかなか見事な斧槍ですね。ありがたく頂きますヴァーダさん」


 竜の骨や牙、鱗を溶かし練りこんだ斧槍はジルが試しに魔力を込め振ると、衝突に合わせ火を吐き出す優れた武器であった。

 ジルも気に入ったようで振り回し遊びだす。


「まあまた、積もる話は明日にでもしよう。日が昇っちまうさね。今日は二人とも、早く帰って寝なさいな。あ、それとジルルステイジ、風呂に入ってから寝るんだよ?三度目は無いからね?」


「…はい、分かりました」


 さすがの忠告に、ジルも観念して水を浴びたのだった。





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