第185話 離脱
【ン.グア.エポス】が放つ【イービル.レイ】は直に魂へダメージを与える暗黒の光線だ。そのため一発でも喰らえば、そのダメージは計り知れない。
その攻撃が何万個と有る全ての目から放出されているのだ。
康之助達は今は精神体、いわば剥き出しの魂の様な物。
「クッ! イーリスあの攻撃を決して喰らうなよ」
「ええ、分かっているわ」
康之助は【武装闘衣】を纏い、機動力を上げて対応する。交わし切れない攻撃は、【イービル.レイ】に合わせて【八咫鏡】と云う光を放つ鏡状の盾で逸らしていく。
康之助の高い戦闘技術があってこそ成せる技だ。
イーリスは太陽の化身【インティ】の状態のままに異空間内を縦横無尽に飛び回り、【イービル.レイ】を交わしながら出力を抑えた【へーリオス.キャノン】で反撃をしていく。
2人は何とか【イービル.レイ】を交わしながら【ン.グア.エポス】の懐に迫って行く。
ロングレンジは圧倒的に不利、それに2人共も長距離で撃ち合うよりも接近しての打撃戦の方が得意だ。
知能は無いが本能がそれを察したのか、【ン.グア.エポス】も巨大な体の至る所から触手を伸ばして、彼等を近付けさせない様に牽制してくる。
「チッ、自我が無いとはいえ黙ってやられる気はない様だな」
「ええ、それに削る側から回復している……」
体長3000mの超巨体が相手ではちまちま攻撃していては、削る側から回復してしまいジリ貧だ。
【ン.グア.エポス】を倒すには回復が追い付かない程に広範囲で、高火力な攻撃を叩き込んでいくしか方法はない。
奴の中央付近にある核を直接狙うという方法もあるが、あれだけ巨大で不定形な化け物の核を正確に狙い撃つのは難しい。
「接近戦に持ち込む、援護してくれ!」
近く事すら容易ではないこの化け物を相手に果敢に攻めて行く康之助。
『ブギュルゥゥ〜〜ン!!』
どこかに口でも有るのか、甲高い不気味な鳴き声を上げながら触手を伸ばしてくる【ン.グア.エポス】。
奴なりに近付かせたら不利だと分かるのだろう、凄まじい物量が康之助に迫る。
彼も高熱を伴った斬撃【熱閃】を飛ばす事で触手を切り払っていく。
だが、奴の中央に有る一際大きな目が瞬くと共に全方位に向けて、超重力を伴った衝撃波【ポアレセ.レイト】が放たれたのだ。
「グッ!」
【熱閃】を放ち威力を相殺させはしたが、吹き飛ばされてしまった康之助。
「康之助! 」
吹き飛ばされた康之助に気が向いてしまったイーリス。そこに狙ったかの様に【ン.グア.エポス】の触手が直撃し、彼女も薙ぎ払われてしまう。
邪魔者が居なくなったと【ン.グア.エポス】が、光のゲートをこじ開けようと触手を伸ばしていく。
「…… だ、ダメ……奴を行かせたら康之助の世界が…… 」
もし【ン.グア.エポス】が現世に体現すれば地球自体にただならない悪影響を及ぼすだろう。
ここで反撃でもすれば、奴は喜んでイーリスにトドメを刺しに来るだろう。そうなればダメージを受けて弱った彼女ではひとたまりもない。
ならば異空間の何処かへ吹き飛ばされてしまった康之助を助けるために力を温存したい。
そうこうしてる間にも奴は何かに導かれる様に、光のゲートを潜り抜けてしまったのだ。
「…… 康之助ごめんなさい…… 必ず貴方を助けるわ」
彼女は現世へと体現する【ン.グア.エポス】を最後に悔しそうに一瞥すると、康之助を探すため彼が吹き飛ばされた異空間の中へ進んで行った。
ーー
一方、[ラストキア]で優畄を探していたヒナは、オルメール大陸の覇者ステテギア帝国の首都ブヒッフェンを目指していた。
そのブヒッフェンではヒナと行き違いとなっていたピモ.モンテファンが凱旋パレードを行なっていた。
剣の草原まで大軍を連れて出向き、何の成果も上げられなかったでは済まされない。そこで剣の草原の近くにあった武装集団の住む集落を攻めてそれを手柄と偽り凱旋したのだ。
それでも凱旋の度にいちいちパレードなぞしていたら仕事に差し支えてしょうがない。
だがパレードに出ない市民は町に紛れ込んでいる密告者によって中央に報告され激しく罰せられるのだ。
そのため仕方なしに皆パレードに参加している。
「ブヒッ……(剣の平原の雌修羅だとか、閃光の舞姫なんぞどこにも居ないではないか…… まったく、とんだ無駄足だったわい)
「わー、キャー」と声援を送る群衆に手を振りながら愚痴を溢すピモ。
(美しかったらワシの嫁にしてやろうと思っておったのに……)
そしてピモは手に持つ赤い首輪を見遣る。
この首輪は【隷属の首輪】と呼ばれ、隣の大陸の魔族から戦に使う魔剣や魔道具を仕入れているのだ。
対価はオルメールで狩り集めた奴隷達だ。
(ブヒッヒヒ! いかに強くとも四六時中警戒し続けられる者なぞおらんからな、酒でも飲ませて眠った処にこれを付ければ……)
その先を考えて下卑た笑みを浮かべるピモ。強者に従順する振りをして近付き、眠らせて【奴隷の首輪】をはめる。
彼はこうして強者を謀り、対して強くもないのに大将軍と云う地位まで上り詰めたのだ。
宮殿に戻って来た彼の元に大臣達が集まってくる。
「いや〜僅か1時間程で賊を討ち取って来るとは!」
「流石はピモ閣下だ!」
「ピモ殿がいらっしゃれば帝国も安泰ですな!」
いわゆるゴマスリという奴だ。
目的は達成出来なかったが、褒められて悪い気はしない。基本単細胞な彼の扱い方はこの宮殿に住む重役なら誰でも知っている。
「ブッヒヒヒヒヒ! そうだろう、そうだろう。我に任せておけばこの国は安泰だ!」
豚の様な笑みを浮かべて皇帝が居る皇宮に向かうピモ。
この国の現皇帝ペン.シャルパンティ.ブルヴァーニャ.ステテギアは8歳と若く、ピモのいう事しか聞かない傀儡の様な存在だ。
それは彼の腕に着けられた【隷属の腕輪】によるもので、5歳の誕生日に贈られた腕輪がまさかその様な効果を持つ物だとはおもいもしなかったペンは、哀れピモの傀儡となってしまったのだ。
当時5歳の子供にその様なものを贈る、ピモの姑息さと小心さが伺える。
「よくぞ戻ったなピモ.モンテファン大将軍、これからも我がステテギアのため邁進してくれ」
事前にそう言う様に仕込んでおいたのか、トロンとした何かに酔った様な目をしながらピモにそう言う若き皇帝ペン。
「ありがたきお言葉。このピモ.モンテファン、更なるステテギア帝国繁栄のため尽力してまいります」
その時、仕組まれた皇帝への謁見を終えたピモ達の元に何が爆破した様な爆音が轟いてくる。
「ムッ、い、今の音は何だ?!」
そこに伝令の兵が飛び込んでくる。
「ご知らせします! 先程城門前にて【超越者】を名乗る女が、皇帝閣下に会わせろと騒ぎを起こし暴れ回っております。そ、それと共に奴隷共が反旗をあげました」
「なにぃ!? 【超越者】ぁ?! 奴隷?! ワシの親衛隊はどうしたぁ!?」
「そ、それがプラ様率いる親衛隊の方々は……」
「ブヒッ、な、何だと!?」
言い淀んだ兵の反応で状況を悟ったピモ。この状況判断の速さも、彼が大将軍にまで昇り詰める事が出来た一因だ。
ピモの親衛隊は元近衛師団だった者達を隷属させて従わせている。元近衛師団だけあって皆剣の腕は確かだ。
だがそれもヒナに斯かれば子供のチャンバラ以下だ。
「な、ならば我が直にあ、相手をしてやる!」
ピモは自身の催眠、麻痺系の魔法を強化する魔道具と、【奴隷の首輪】を持つと、自身を【超越者】という女の元に向かうのだ。
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