第183話 それぞれの動向
食料を子供達に分け与えた事や、【フラオ.グラン】のメンバーの欠損を治療をした事で、ヒナは一気に彼女達と打ち解ける事が出来た。
「し、信じられない……あ、アタイの手が動くよ!」
「私の足だって……」
抱き合い泣いて喜ぶ2人。
ヒナの奇跡の御技を見たメンバーが響めき立つ中、彼女がリーダーのアイリーンに自分の本来の目的である優畄の事を聞こうと話しかける。
「私は黒石優畄という人を探している。私の他に他の世界から来たという人を聞いたことはない?」
「た、他の世界から…… さ、最後に【超越者】が現れたのは今から1000年前といわれています」
ヒナが異世界人だと聞いて驚愕するメンバー。
「く、黒石優畄…… 聞いた事もないですニャン」
「アタイ達は聞いた事がないけど、ひょっとしたらステテギアの豚共なら何かを知っているかも知れない」
「ステテギア……」
そしてヒナはこの世界についての事を彼女達から聞いた。
この世界の名は[ラストキア]、緩やかに滅びに向かっている世界だ。
この世界には2つの大陸があり、いまヒナ達がいるのがオルメール大陸だ。この大陸には大小様々な国と種族が率いる組織がある。
現状はステテギア帝国がこの大陸の覇権の一歩手前にまで迫っている。
そしてもう一つの大陸は魔大陸と呼ばれ、様々な凶暴な魔物が跋扈する魔鏡だ。
龍種を頂点に、竜、巨人、魔獣、など様々な生物が生息している。
特に魔族と呼ばれる人間に似た魔力の強い種族は、魔鏡と呼ばれるこの大陸に城塞国家クロベニアを築き、常に隣の大陸の情勢を伺っている。
そんな群雄割拠な世界にヒナは紛れ込んでしまったのだ。
「じゃあそのステテギアて国に行けば優畄の事が分かるかも知れないのね」
ヒナはもうここには用は無いとばかりに立ち上がると洞窟の出口へと向かう。あくまで優畄ファーストなヒナは、情報さえ手に入ればそれでいいのだ。
「ちょ、ちょっと待って! まさか単身でステテギアにいくつもり?!」
出て行ことするヒナを止めるダークエルフのムー。
「アタイ達と一緒に戦ってくれるんじゃ……」
「悪いけど私にとって優畄は全て。こんな所で呑気にしている暇はないの」
辛辣な言葉と共にヒナから凄まじい圧力が迫って来る。
そんな圧に怯える事なく腕に自信のある、アイリーンとバーバラの2人がヒナの前に立ち塞がる。
「退いて、私は行かなくちゃならないんだから」
「ヒナ殿、詳しい事情は知りませぬが貴方様を無駄に死なせる訳にはいきません」
たった1人でステテギアに行くなぞ自殺行為にも等しい。ヒナに仲間を助けてもらった恩がある。彼女の事を思っての行動だ。
「退いて!」
「ひ、ヒナ殿、今一度お考え直しを!」
それでも退こうとしない彼女達に更なる強烈な圧が迫ってくる。
「グッ、何という……」
「…… は、ハハハッ、あんたのその力はアタイ達に必要な力。何としても留まってもらう!」
ヒナからの更なる圧を受けても退としない2人、なら仕方がないとばかりに彼女達を一瞬の峰打ちで気絶させるヒナ。
「アイリーン! バーバラ!」
「峰打ちだから大丈夫よ。じゃあ私は行くわね」
気を失った2人に駆け寄るメンバーをよそに、彼女達のアジトを出て行くヒナ。
「…… 待っていてね優畄。どこにいても必ず私が見つけて見せるからね」
ステテギアに優畄が居るかどうかも分からない。それでも彼女は止まることは無い。
ーー
一方、ヒナが必死になって探している優畄は、黒石将ノ佐のコテージで眠っていた。
そして彼が目覚めると、その前には彼を食い入る様に見つめる将ノ佐の姿があったのだ。
「なっ!」
慌てて起きようとしてみるが、体をベッドに縛り付ける様に特殊な鎖が巻かれている事に気付いた。
それに優畄が横たわるベッドも光が届かない様に工夫がしてあり、辺りが真っ暗で何も見えない。
「なっ! こ、これは!?」
「起きた様だね優畄君」
蝋燭の灯りと共に将ノ佐がやって来た。
「こ、この鎖はいったい……」
「ごめんね君を縛り付ける様な事をして。でもその鎖は君の体を癒し寄生体の動きを封じる効果があるんだ」
この鎖は癒しの術が使えない将ノ佐が、概念を捻じ曲げて自分でも使える様にしたものだ。
体を癒すと共に優畄の特殊な力を抑える様にも出来ている。
なぜ鎖の形かというと、縛り付けて拘束する事と癒す事の両立を目指した結果、この鎖という形になったのだ。
その代わり肝心の回復効果は極めて低い。肝心の回復力を抑えて拘束や操りなどの機能を入れる。異常な精神状態の黒石将ノ佐ならではの発想だ。
「…… この鎖を解いてくれ」
優畄を縛り付けているこの鎖は、今の弱った状態の彼では引きちぎる事は不可能な程に頑丈だ。
「君の体が治るまでの辛抱だから我慢しておくれよ」
「早くこの鎖を解け!」
しまいには激昂する優畄だが、将ノ佐は至ってはまるで気にした様子もなく、用意していた食事を運んで来る。
その間鎖を振り解こうと色々してみるがびくともしない。【霊体変化】や【光化】の能力も使えない様だ。
「何をしても無駄だよ。この鎖は僕の意志以外では外す事は出来ないからね」
そう言う将ノ佐が運び込んで来たトレーには、手の込んだ料理の数々が並びいい匂いが鼻をくすぐる。
「さあ食事をとって体力を戻さなくちゃ」
優畄が怒鳴って煩いため、鎖を操り口を開かない様に操る。
心なしか優畄のなんとも楽しそうに優畄の看病をする将ノ佐。まあ優畄からすれば男の彼の誠心誠意な看病なぞ願い下げだ。
そんな事より早くヒナの元に行かなくては。それだけが今の彼の願いだ。
だが今の優畄の状態では自由に動く事もままならない。
「さあ優畄君、あ〜んして」
将ノ佐がスプーンにスープをよそい優畄の口元に運ぶ。
(じょ、冗談だろ!?)
頭を反らせて拒否する優畄。まるで恋人にするかの様な事を平然とする彼に優畄もドン引きだ。
それにこの黒石将ノ佐は、いつもニコニコしており、一体なにを考えているのか分からないところが不気味。
「…… (一体コイツは俺をどおしたいんだ? 彼の言う通り体が良くなるまでこんな状態なんて冗談じゃない!)
悪気は無さそうだが男にそんな事をされて喜ぶ者は限られた世界の者だけだろう……
「優畄君、ちゃんと食べないと良くならないよ」
(ウゲッ…… 男に何て冗談じゃない)
「仕方ないな、ならば奥の手だ」
そう言うと将ノ佐は鎖を操り優畄の首を固定させると、口を開けさせ強引に食べさせる。
「グッ、ゴホッゴホッ……」
便利な物で、鎖を神経に作用させて顎を操り、強引に食べさせる事もできる様だ。
喉に痞えそうになりながらも何とか食べきった優畄。強引に口の中に詰め込まれるのだ、無理もないだろう。
まあ味の方が事の他良かったのが救いか。
「こ、こんな事をして、君は何をしたいんだ?」
「何って、君の体を治すために決まっているじゃないか? 友達なんだから当たり前だろう?」
何言ってんだコイツとばかりの目で優畄をみる将ノ佐。どうやら彼の中での友達は、普通の常識からはかなりかけ離れた存在なのだろう。
「…… それは友達とはいわない。エゴだよ」
「そうかな? 見解の相違じゃあないかな」
この者には何を言っても通じない。仕方なく優畄はここから抜け出すチャンスを探る事にした。
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