第179話 光対闇
廃寺で体力の回復を図っていた優畄とヒナの2人、まだその体は万全ではないが、立ち止まる事なく真っ直ぐに黒石の屋敷を目指していた。
今の2人の状態はピーク時の7割程度、今の状態の
彼等では大技の【双成.太極光】などは撃てない。
だがそれでも優畄達は止まらない。もはや2人にとって障害になる物はない、敵の本丸を落とすのみなのだ。
そしてそんな彼等が向かう先から感じるのは、優畄達を拒む様な邪悪な暗黒の波動。一歩進む度にその波動も強まっていく。
並の人間なら発狂して狂い死ぬか、良くて自我を手離すであろうその暗黒の波動は、まるで生きているかの様に畝りながら彼等に絡み付いてくる。
昼前だというのに峠の山道は真夜中の様に真っ暗だ。
「…… 何て邪悪な……」
「ヒナ大丈夫か?」
思わず口からこぼれ出る程に心身を蝕む黒石の闇は、光の御子たる2人をもってしても前進するので精一杯な脅威。
「私は大丈夫、問題ないわ」
ヒナからの力強い返答に強く頷く事で返す優畄。間違いなくこの先に暗黒の根源たる【甚黒魔皇石】が有るのが分かる。
そしてそれを守る邪悪な使徒達の存在も。
身を守るために既に【武装闘衣】を身に纏とっている2人。
更に強くなる邪魔な波動に対抗するべく優畄達は光の力を展開させて耐え凌いで行く。
その時、優畄の体の奥深くで何が目覚めた様な嫌な気配がした。だが優畄は黒石の屋敷からの邪魔な波動のせいだろうと気に留めない事にした。
優畄の体の中で暗黒の種が芽吹いた事に気付く事なく、彼は更に光の力を強めていく。
それと共に内なる違和感も強まる。邪魔な波動を隠れ蓑に徐々に優畄の体を侵食していく【異星体パストミュール】。自身の体の脅威に気付く事なく優畄は進んで行くのだ。
ーー
暗黒の種の芽吹きはマリアにも感じ取れた様で、邪悪に笑うマリアとドゥドゥーマヌニカ。
「あら優畄兄様、光の力を使ってしまったのね。私達の置き土産が芽吹いた様ね」
『ギッギギギギ…… ギ……』
「そうね、アレが芽吹いたからには優畄兄様達の力では除去する事は不可能。さあどうやってこのピンチを切り抜けるのかしら」
今マリアは黒石家の根源でもある【甚黒魔皇石】を現世へ召喚するため動く事が出来ない。
もし暗黒の太陽とも呼べる【甚黒魔皇石】が現世に体現すれば、この世界にどれ程の影響を及ぼすか計り知れない。
「さあもっと私を楽しませてください優畄兄様」
ーー
少女の邪悪な笑みに気付く事なく、優畄達は屋敷を目指し突き進む。
そして黒石の敷地内に入った彼等の眼前には驚愕の光景が広がっていたのだ。
優畄が黒石の屋敷に最初に行った時は、ボーゲルの運転するリムジンに乗りながら、草木が生茂った峠の山道を幾重にも曲がった先に屋敷が有った。
だが今2人の前にその光景は無い。
彼等に見えるのは、山は更地と化し見渡す限りに草木一本も無い荒野と化した黒石の敷地と、その500m程奥、山の様に巨大で漆黒な何かが、不気味に蠢く姿だったのだ。
「……こ、これは……」
かつて来た時とはまるで違う悍ましく邪悪な景色に言葉を無くす優畄。それと共に何か巨大な竜巻の様な物もその巨大な化け物の辺りに見える。
「優畄、ボブさんが!」
そしてその巨大な化け物と戦うボブらしき人物の姿を見つけたヒナが声を上げた。
遠く離れていても彼のドレッドヘアーは健在でいい目印になる。
ボブの他にもう1人空に浮く人らしきものも見えるが、戦っているのはボブだけの様で苦戦しているのが分かる。
「ヒナ、ボブを助けに行こう!」
「うん!」
ボブのピンチに駆け出そうとした優畄達だったが、突然の空間の歪みに気付きその足を止め警戒態勢に入った。
次元を超越し何が現世に現れる。そこから現れたのは額に鬼の3本角を生やした権左郎だった。
彼は若返った姿に着物を羽織っており、頭の角以外は人と変わりが無い様だ。
「ほっほほほほほ、久しいのぉ優畄。元気にしておったか?」
「……」
優畄とヒナの2人は返事を返す事なく権左郎にかかっていく。
ヒナが【光姫】と、瑠璃の遺品の【阿修羅】がヒナの光を受けて【アスラ】に変わった2刀で権左郎を十文字に斬り裂いた。
そしてすかさず優畄が拳に集約した光を解き放ちヒナに斬り裂かれた権左郎を消滅させる。
息の合った2人のコンビネーションに、一瞬で滅せられた権左郎。だがそれでも優畄達は警戒を緩めない。
「フム、お主達の今の現状は7割といったところか、それでは【双成.太極光】は撃てまい」
突然背後から聞こえた権左郎の声、2人の背中を冷や汗が伝う。
予想通り彼は生きていたのだ、それにダメージを受けた様子がまるでない。だが優畄は先程の交戦で、権左郎の正体に気付いていた。
辺りに満ちた醜気と闇が権左郎本体そのもの。この黒石の地を覆う闇全てがそうなのだ。いくら実体化した者を倒そうが、本体とも云うべき闇を払わなければ何の意味も無いのだ。
優畄達も権左郎の只者ならぬ力と存在感に気付き、所見で仕留めに行った。それでかえって権左郎の正体に気付けたのだ。
「……ならば!」
優畄が自身の光の力を解き放ち、その体を光そのものに変えたのだ。眩いばかりの極光が辺りの闇を浄化させていく。
これは康之助との戦闘のおりに見せた【光化】という能力。闇に相対するためには自身の体を光に変えて対応するしか方法がない。
「優畄!」
彼の能力【光化】は単純では有るが、体への負荷も大きい。優畄の事が心配なヒナが声を上げるのも無理からぬ事だろう。
康之助戦の時は一瞬の回避のみに使った能力だが、今回は闇を払うための変化だ。そのため直ぐに【光化】を解く訳にはいかない。
優畄の光と権左郎の闇が激しくぶつかり合い凌ぎ合う。だが最初は均衡していた凌ぎ合いも、徐々にでは有るが闇に押され気味になってくる。
「クッ……」
同じ光の御子とはいえヒナはまだ【光化】の能力は使えない。彼女も光の斬撃【光閃】で優畄を援護するが、実態の無い権左郎相手では光の斬撃とて効果は薄い。
それでも彼の助けになるならばと【光閃】を連発するヒナ。
「ほっほほほほほ、先程から勢いが弱まっているぞ優畄。どうやらマリアの置き土産が芽吹いた様じゃな」
権左郎の言う通り徐々に優畄の光が弱まっていき、しまいには【光化】を維持出来なくなった優畄が、元の姿に戻ってしまったのだ。
【光化】が解けると共に苦しそうにその場に跪く優畄。
「優畄!」
ヒナは叫ぶと同時に優畄の元に駆け寄る。そして彼の体に不気味に絡まり付く黒い触手に気付き戦慄する。
「な…… こ、これは……」
その不気味に蠢く触手は、優畄の体の中にも根を生やしている様で、至る所から彼の体を蝕んでいる様だ。
「こ、こんなもの!」
ヒナが光の力で触手の除去を試みるが、逆に勢い付き優畄の体を侵食していく触手。
「グアァァぁッ!」
「ゆ、優畄!?」
黒い触手はすでに優畄の全身に及んでおり、動く事すら出来ない状態だ。
光を当てれば増殖しその力が使えないヒナは、どうする事も出来ず彼の名を叫びながら抱き付く事しか出来ない。
「カッカカカカカ! 光も浄化の力も逆効果のソレを相手にどう抗う?」
まるでモルモットを見る科学者の様に優畄を見る権左郎。いやある意味では優畄達は彼等黒石にとっては実験材料でしかないのだ。
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