第175話 闇


背後から突如現れた権左郎、その圧倒的なまでの邪悪な気配にその場を飛び退いた2人。


かつてない程のプレッシャーに動く事も出来ない。2人は蛇に睨まれた蛙の気分を味わっていた。



「…… なんてェ圧力で〜スか……(…… 動けませ〜ン、動けばやられま〜ス……)


「グッ……(睨むだけで我の動きを封じるとは…… この者、底が知れぬ…… )


千と数百年の長きに及ぶ権左郎の生は、幾多の悲劇や惨劇に裏付けられ、色濃く暗黒に染まったものだった。


暗黒に染まった彼の生は彼に闇の御子としての力を目覚めさせた。それは優畄の対局に位置する力。


かつて敗れて敗走した光の御子、だが長きに渡る残酷で邪悪な、暗闇に染まる所業が故にそれに相対する程の力を得る事が出来たのだ。



「さあ、其方達の力を我に見せてくれ」


その場から動けず様子を伺う事しか出来ない2人に優しく呼びかけてくる権左郎。自身が負けるなどとは微塵も思っていない様子。



「グルオオオオオオオ〜〜!!」


ナメられたままでは終われぬとばかりに夜鶴姥童子が雄叫びを上げた。


並の者が聞けばそれだけで体が怯え動きを封じられる雄叫びで自身を鼓舞し、権左郎に向かって行く夜鶴姥童子。


その叫びで我を取り戻したボブ、夜鶴姥童子に遅れて彼も駆け出す。


本来なら一対一の戦いに拘る夜鶴姥童子1人に任せるところだが、この者は異質で脅威たる存在だと彼との共闘を選んだボブ。


権左郎はその場から動く事なく夜鶴姥童子の【紫電.猛激烈】を真正面から受ける。この技は彼の【紫電.猛激砲】を接近戦用にアレンジしたもので、拳に集約した紫電をゼロ距離から放つ脅威の技なのだ。


紫電のスパークで凄まじい閃光と煙が辺りに充満する。


夜鶴姥童子が今放てる最強の接近戦技を食らったのど、煙が晴れると上半身が消し飛んだ権左郎の姿があった。


それでも構わず追撃を加えようと上空に飛び上がるボブ。何故なら次の瞬間には何事もなかったかの様に消し飛んだはずの上半身が再生されていたからだ。


ボブはドリルの様な高回転が加わったドロップキック【スクリュードライバー】を権左郎に直撃させる。


この攻撃も右半身を吹き飛ばす程の威力の攻撃だったが、またしても瞬きの瞬間で再生していく権左郎。


そんな権左郎に対してボブ達がとった作戦は攻め続ける事。いくら脅威的な再生力を有していようとも、それが追いつかなくなるまで攻め続ければ何は倒せる。



「うむ、【黄泉歸り】(ヨミカエリ)の秘術もしっかりと働く様じゃな」


だが腕足が吹き飛ばされようと、半身が消滅しようと次の瞬間には再生してくる権左郎。彼にダメージを受けている様子はない。


「おのれぇ!!」


夜鶴姥童子が何らかの技を使うためか、【紫電】を全方向へスパークさせ始めたのだ。


巻き添えを喰わない様にその場から飛び退くボブ。


凄まじいまでの力が夜鶴姥童子に集約される。超再生能力を持つボブと権左郎だからもっているが、並の者ならこの場に居るだけで消滅するであろう力が高まっていく。


そして夜鶴姥童子は時間にしておよそ5秒間、自身の体を【紫電】へと変化させ、ド〜〜ン!という雷が落ちる時の激音と共に、権左郎に打ちかましを喰らわせたのだ。


「【紫電.雷神(シデン.イカズチ)】!」


自身が【紫電】の高密度のエネルギー体となり雷の刹那のスピードで打ちかましを喰らわせるだけのシンプルな技だが、その桁違いな威力は推して知るべし。


夜鶴姥童子の【雷神】は権左郎を完全に消し飛ばし、ボーゲルが作り出した時空間の狭間をも消し飛ばしたのだ。 


「ば、バカな!?」


その結果、元の世界へ帰還する事が出来たボブと夜鶴姥童子の2人。


ボーゲルもまさか自身の【次元幽閉】が破られるとは思っていなかった様子。それ即ち、夜鶴姥童子の方がボーゲルより強いという事だ。


そして大技を放った事で力を使い果たした夜鶴姥童子がその場に力無く跪く。


彼が使える最大威力の技だ、何のリスクも無く使えるものではない。彼は全パワーの80%を使い果たしてしまったのだ?



「ヤトバァ、大丈夫で〜スか?!」


共にボーゲルの【次元幽閉】から解放されたボブが夜鶴姥童子の元に駆け寄る。


だがそんなボブを手をかざす事で止める夜鶴姥童子。



「まだだ! まだ奴は死んではおらぬ!」


まさかの夜鶴姥童子の言葉、権左郎の体ごと前方1kmを消し飛ばし、ボーゲルの作り出した次元障壁すら粉砕する【雷神】をまともに受けて生きているなど信じられない事だ。


だが夜鶴姥童子の言葉通り彼の体に異変が起きる。


夜鶴姥童子の体からまるで湯気の様に黒い靄が立ち上がり出したのだ。


この力は権左郎の能力の【闇化】、自身の体を闇に変える脅威の能力。この力によってボブ達の攻撃を無効化していたのだ。


そしてこの【闇化】にはもう一つ【侵食】という、対処を闇に取り込んで喰らう能力がある。そうする事で対象の能力を自分の物に出来るのだ。


闇に包まれそれと共に苦しみ出す夜鶴姥童子。【雷神】で力を使い果たした彼に争う力は残されていない。


黒い靄に釣られてその場から浮き上がる夜鶴姥童子、そしてその黒い靄は人の形を模るとその背後から夜鶴姥童子の体を貫いたのだ。


「グォオオ!」


「ふむ、これで最強の鬼の力も手に入れる事が出来たぞ」


夜鶴姥童子の体が徐々に闇に吸収されていく。


「ガァ……グッ……」


「ヤトバ!」


そんな事はさせまいとボブが権左郎に攻撃を仕掛けていく。だがボブを行かせない様にボーゲルが彼の前に立ち塞がったのだ。


「おのれ運転手! 邪魔をするなで〜ス!!」


ボブは飛び上がるとフィギュアスケートの回転ジャンプの様に自身の体を超高速回転させて蹴りを放つ。


「【超回転スクリュードライバー】で〜ス!!」


貫通力と衝撃波を伴った光の矢の様な蹴りがボーゲルに迫る。


ボブの蹴りを【暗黒剣デモニオオスクーロ】で受けるボーゲル。彼がこの剣を使うという事は、彼が本気を出したという事。


「【ドゥンケール.ショック】!」


ボブの蹴りに合わせてボーゲルも闇の衝撃波を放つ。ボブとボーゲルのぶつかり合いはボーゲルの方に軍配が上がった様だ。


「アウチ! まだまだ、まだまだで〜ス!」


ボーゲルの必殺技を受けてボブの体が消滅するが、瞬時に元に戻るボブ。闇の集合体でどんな攻撃を受けても瞬時に元に戻る権左郎と、どっこいな回復力を見せる。


だがまだ本気のボーゲルには届いていないボブの力、それでも彼は立ち上がる。友のために何度でも彼は立ち上がるのだ。


ボブのしつこさは以前戦った時に知っている。ならば何度でも、ボブが諦めるまで叩き伏せる。その意気込みでボブを待ち構えるボーゲル。


「負けませ〜ン! 私ァしは負けませ〜ン!」


夜鶴姥童子が最後の力を振り絞り抵抗しているため、まだ間に合うと決して諦めはしない。


ボブの【ゾンビキング】は666の生がある。たとえ死んでも蘇る度に強くなるボブ。彼の死が206度目を迎えた時、力の逆転現象が起こった。


そう、ボブの力が邪神化しているボーゲルを上回ったのだ。


「ば、ばかな!」


「さあこれで終わりで〜ス!!」


ボーゲルの【暗黒剣デモニオオスクーロ】を蹴り上げて、トドメとばかりに放ったボブの蹴りがボーゲルに迫る。












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