第174話 置き土産
黒石の屋敷の一室、人形を抱き抱えたまま眠る様に椅子に座っていたマリアが目を開けた。
【写生異本】という、本体の10分の一の能力の分体に乗り移り自由に動く事が出来る能力で、優畄の元に具現化していた彼女。
屋敷から半径100km圏内はマリアの探査範囲、現世にいる限りその視界から逃れる術はないのだ。
この能力はマリア自身にも負荷がかかるためあまり使いたくない物だが、優畄を手に入れれるチャンスに思わず使ってしまったのだ。
今マリアはある事情で屋敷を離れる訳にはいかない。その足からは木の根の様なものが地下に向けて伸びている事からそれが伺える。
「…… しかしあの小娘、予想以上に力をつけていたわね」
優畄ならともかく、ヒナの方に滅せられるとは思いもしなかったマリア。
彼女程度なら分体でも軽く蹴散らせると思っていたのだ。予想以上の彼等の成長に、少し余裕のない顔を見せる。
『ギギ! ギギギギ……ギギ!」』
ドゥドゥーマヌニカちゃんも分身体とはいえ指を斬り飛ばされた恨みから、「あのアマ! 八つ裂きにしてやるぅ!」とばかりに怒りを露わにする。
「まあまあドウドゥーマヌニカちゃん、優畄兄様の体を手に入れる事は出来なかったけど、アレを仕込む事が出来たのだからよしとしましょう」
マリアは優畄の元に現れた際に彼の体にある置き土産をして来た。それは優畄が目覚めると共に起動する様に仕組んである。
そしてその置き土産は、優畄の光の力に反応して宿主の体に根を張り爆発的に成長し、その体を侵食するのだ。
【異星体パストミュール】それがマリアが優畄に仕掛けた寄生生物だ。この寄生体はマリアが対光の御子様に異次元の生物を交配させて作り出した。
光に対して絶対耐性を持つため、優畄達だけで対処するのは難しい。それに幼生時は僅か0.01mmという小ささのため、事前に発見する事は実に困難。
そしてこの生命体は、一度成長を始めれば寄生した宿主が死ぬまで決して離れる事がない厄介な代物なのだ。
「光の力に反応して育つ時限爆弾。フフフッ、優畄兄様はどの様にこの窮地を切り抜けるのかしら」
邪悪な笑みを浮かべながらマリアは優畄達の行く末を伺うのだ。
ーー
優畄達と分かれ鬼の頭領の夜鶴姥童子と共に行動していたボブ。今彼は10万を超える異形の戦士との死闘の真っ最中。
優畄達より先に黒石の屋敷を目指して進んでいた2人だったが、ボーゲルの使う次元幽閉の罠に捕らえられてしまったのだ。
「さあこの先にィ屋敷がァ有るはずで〜ス!」
向かい来る敵を倒しながらとにかく真っ直ぐ黒石の屋敷を目指していた2人、脳筋で猪突猛進な彼等を罠に嵌める事は簡単だった。
突如として現れた巨大魔法陣、戦いながら避けるのは不可能だったのだ。
だが、予想外だったのは2人が10万の軍すら相手にならない程に強かったという事だ。
ボーゲルが用意した兵は【竜器兵】といい、かつて存在した別次元世界に存在した竜人族という攻守に優れた種族を改造し、様々な種族の遺伝子を交配させ繁殖させたものだ。
様々な生物のいいところを寄せ集めたハイブリッド種。その強さは一個で一国に匹敵する程だが、ボブ達にとってはただの雑魚、大した相手ではない。
本来は対優畄達様に作られた兵だが、黒石家の当主の権左郎の意向もあり、彼等に対して使われたのだ。
だがその兵達もボブと夜鶴姥童子の相手ではなかった。
「コメットストライクゥ〜!
「【紫電. 猛激砲】!」
2人の大技であっという間に10万の軍が減っていく。
「さあ後少しで〜ス!」
「フハハハハ! この程度の雑魚で我等2人を足止めする事は出来ぬわ!」
そんな彼等の戦いを上空から観戦しながら兵を増員していくボーゲル。
執事らしくビシッと燕尾服を着ている今の彼は、この異空間に有って何とも異質だ。だが新たに兵を追加するそばから2人に蹴散らかされてしまうのだ。
「…… 」
今回彼が権左郎から指示されたのは最強の鬼夜鶴姥童子の足止め兼弱体化だが、そうなるとどうしても邪魔な者がいる。
予想外で特異点な男。
「……どうゆう事だ? あのミミズ頭、あの時戦った時よりまた更に強く成っている。それもあの鬼と同等レベルにまで……」
魔物を送り込む為のゲートを開いているため彼等と戦う事は出来ない。それが戦闘特化の邪神でもあるボーゲルを苛立たせる。
これまで2度ボブと戦っているボーゲル。1度目は初めて優畄に出会った時。その時は虫ケラ程度と一撃の元にボブを片付けた。
2度目は鬼の里を襲撃した時、その時は自身も本来の姿に戻っての戦いだ。
幾度となくその身を消滅させたにもかかわらず信じられない事に奴は、何事もなく蘇りその度に強く成っていったのだ。
そして今回、最強の鬼と遜色のない強さに成って我々の邪魔をしている。
今のボブを相手取るならボーゲル自身も全力を出さねばならないだろう。
(…… この者は一体なんだというのだ? 何故この様な者が存在するのだ?!)
邪神の想像を超えた存在となったボブ。このイレギュラーな存在に更なる増員を送ろうとしたその時、ボーゲルの背後の異空間が歪み、権左郎が姿を現した。
「どうした、鬼の対処に予想以上に手こずっておるのか?」
イレギュラーの対処に困っているボーゲルを見かねた権左郎が様子を見にやって来たのだ。
「はっ、申し訳ありません。直ぐに処理して参ります」
ボーゲルが燕尾服の袖に手をかけ邪神の本体に変化しようとするが、それを権左郎が止めた。
「まて、あの者なかなか面白い存在だな。ここは我に任せておけ、この体の試運転には丁度良い2人だ」
最近はWWEなどのプロレスにハマっている権左郎。新たな体を手に入れて、その試運転も兼ねてボブと夜鶴姥童子と戦おうというのだ。
「しかし権左郎様…… 」
「案ずるな、お主はそこで見ておるがいい」
10万以上いた魔物も、今では数百を数えるのみと成っており、肩で息をしながらも互いに背中を預け合い立っている。
「サア、あと一息で〜ス! 頑張るで〜ス」
「いかなる軍勢であろうと我等2人を止め置く事は出来ぬはぁ!」
これでお終いとばかりに夜鶴姥童子が【紫電砲】を放ち、生き残りの兵を殲滅する。結局はボーゲルが用意した強化兵全てを倒してしまったボブ達。
【闘鬼神】にまで進化していた夜鶴姥童子と、【ゾンビキング】のボブ。この2人が共闘したのだ、この結果は当たり前の事だろう。
だが、真の戦いはここからだったのだ。
「ほう、活きがええのう」
2人に僅かな安堵感が生まれたが、突然の背後からの声と気配に大きく飛び退く2人。
いつの間に現れたのか、そこには20歳前後で黒のクラシカルなスーツに身を包んだ青年が佇んでいた。見た目こそは平凡だが、その内に内蔵する禍々しいまでの暗黒の力は隠し切れていない。
ボブと夜鶴姥童子の背中を嫌な汗が流れ落ちていく、そしてこの者はその見た目とは裏腹に、自分達にとって脅威となる存在だと第六感で悟る。
「…… (いつの間に現れたのか分からなかったで〜ス……)
(…… 此奴、底が知れん…….)
「ほっほほほほ、それでは今度はワシと遊んでもらおうかのう」
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