第168話 目覚め


黒石の屋敷で優畄の放った【双成.太極光】の力を感じとったマリア。珍しく彼女の相棒のドゥドゥーマヌニカちゃんが怖がっている。


「あらあら、優畄兄様ったら、予想以上に成長してますわね。でも大丈夫よドゥドゥーマヌニカちゃん、あの力は撃てて単発、連続で撃てるものじゃないから安心して」


『……ギ、ギギ……』


「確かに、あの光を浴びたら私でもタダじゃ済まない力、だけどそれでこそ遊びがいが有るというもの」


優畄達の【双成.太極光】はマリアですら浄化消滅させる力がある。だがそんな力を感じながらもマリアの顔は余裕のままだ。


『ギギ……ギギ、ギ……』


「大丈夫。そうなった時はみんな居なくなる予定よ、皆んなが居なくなってしまえば、もしそう成ったとしても寂しくはないでしょ?」


黒石の能力者が次々と優畄達や鬼に敗北していく中、化け物は今の現状を心から楽しむのだ。


ーー


黒石の屋敷の地下、謎の溶液に満たされたガラス管の中で体を再構築していた権左郎がついに地上に降り立った。


再構築で不安定だった体がついに完全になったのだ。


全身溶液だらけの権左郎にすかさずボーゲルがタオルを渡す。


「うむ。生まれたての子羊の気分も悪くは無いが……」


「はい、先の黒石優畄の放った光で黒川晶真様、黒石七菜様が戦線離脱。もはや康之助様の前線基地を残すのみとなっております」


ボーゲルが今までの状況を権左郎に話す。


「あの力は我等を滅ぼす事が出来る力だ、先ずはあの2人の御子を引き離す事が先決だ」


「はい。その手筈は整ってごさいます」


どうやら優畄とヒナを引き離す為の策略がある様子。


「奴等の相手はお主に任せるとして、ワシはこの体の肩慣らしに鬼退治と行こうかのう」


「それが良いかと存じます」


ついに動き出した黒石家当主。そして争いは混沌を極めて行くのだ。


ーー


腐獅子との戦いで失った腕を治すために近隣の村に来ていた夜鶴姥童子。彼が人を貪り食べている時、突然の共鳴が彼を襲った。


彼以外の最後の鬼の腐獅子が死んだ事をその共鳴で知る。


今まで仲間を失っても感じた事の無い感覚に、食事すら忘れてしばし佇む夜鶴姥童子。


生きている鬼が自分だけだということを悟ったのだ。



「…… そうか、獅子ノ、貴様死んだのだな……」


封印されていた間も合わせれば、1000年の長きに渡り共に生きて来た5体の仲間が死んだのだ。


「もはや【雲州鬼族】は我のみ、それもまた我等の運命だったのであろう…… 」


甦ってからは人一倍仲間思いの鬼だった彼も、1人っきりになってしまった。


だが夜鶴姥童子は回復した腕を確かめるように動かすと、家屋の屋根に飛び乗った。


そして黒石の屋敷ぐ有る方向を睨みつける。



「ならば我が一人で黒石を滅ぼして、仲間達への弔いとしてくれよう! ウオォォォォォォ〜〜!!」


体中から紫電を放出し雄叫びを上げる夜鶴姥童子。


全ての仲間を失った彼に残るのは、黒石への飽くなき恨みと闘争心のみ。【闘鬼】夜鶴姥童子は黒石の屋敷目指して一歩を踏み出した。


「待つで〜ス!」


そんな彼の前にドレッドヘアーを振り乱してボブが現れた。


「ぬっ、ぼ、ボブ殿! どうしてここに?!」


「貴方一人ではァ行かせませ〜ン、私〜シもお供しま〜ス!」


そしてボブは真っ直ぐな目で夜鶴姥童子を見る。この目をしたボブは決して意見を曲げない。 短い間だが何度も何度も拳を合わせた相手だ、それ位は分かる。


「フフッ、ボブ殿、よかろう。我と共に行こうぞ!」


「はいレッツゴーで〜ス!」


こうして一体の最強の鬼と半不死身のドレッドヘアーの外国人という大変に珍しいコンビが誕生した。


そして打倒黒石を目指して歩み始めたのだ。


ーー


場所は戻り例の研究所、【双成.太極光】を放った事でその場に跪く優畄。ヒナに至っては両手を地面に付けてへばっている状態だ。


「大変じゃ!」


「2人とも大丈夫?!」


慌てて2人に駆け寄る千姫とルナ。全霊力の8割を使う技だ、2人がこんな状態になるのも無理はない。


そんな彼等を離れた場所より伺い見る者が居た。それは優畄達の近くにいたルナを追って近くまで来ていた黒石晶だ。


今から15分程前に倉庫の警備から気晴らしに外に出た晶が偶然にもルナを見つけたのだ。


「あ、あの女……」


そして何とか復讐する為に優畄達に気付かれない様に近づいて来ていたのだ。


その時の優畄達は人質として洗脳されていた桜子に気が向いていたため、晶の粗末な隠密による接近に気付けなかったのだ。


(フハハハハハハッ! ついている! 私はついているぞ! 技を使ってへばっているのか、今の奴等なら私1人でも勝てる!)


優畄達に迫っていた為に【双成.太極光】の極光をも回避出来た晶。


もし彼が息抜きの為に倉庫から外にてルナの存在に気付いて居なかったら、彼の体も浄化され消滅していただろう。


極光による消滅を免れただけでなく、ジャイアントキリングのチャンスに在りつけたのだ。


そう、彼はついていた。


この瞬間までは……


そして晶は【金属変化】で自身を地球上で1番硬い鉱物のウルツァイト窒化ホウ素に変化させると、優畄達の前に姿を現した。


「フハハハハハハッ〜! まさかこんなチャンスが私に巡ってくるとはな。黒石優畄、この黒石晶が貴様を成敗させてもらう!」


「く、黒石晶!」


「な、何故貴様がここに?!」


優畄達の元に駆け付けた千姫とルナが晶の登場に驚愕する。


「フフフン、神は見て下さっているのだ、私に邪悪を討てとな」


歩み寄って来る晶の前に優畄達の盾になる様に千姫とルナが立ち塞がる。


「ここは通さぬぞ!」


「と、通さない!」


結界破りの能力を持つ晶には防御結界は意味を成さない。千姫はもちろん、ルナも震えながら何とか晶らに立ち向かおうと彼を睨みつける。


「フン、雑魚共め! ならば貴様らから先にあの世に送ってくれる」


晶が唯一の自身の攻撃技【ブラストナックル】をルナに向けて放つ。この技は硬質化させた腕を高速回転させる事で貫通力を高めた技。


「ひっ……」


やはりどうしても晶が近づくと体が萎縮してしまうルナ。


晶に怯えるルナの反応が遅れる。だが直撃と思われた晶の【ブラストナックル】はいつの間にか動いていた優畄の片腕によって受け止められたのだ。



「な、何ぃ!」


力を使い果たし動けないと思っていた優畄に、簡単に自身の攻撃を受け止められた晶が信じられないという顔で優畄を見た。


そして拳を引き離そうとしてもまるでびくともしない事に戦慄を覚える。


「…… たとえこの体が九分九厘動かなくともお前如きなら片腕で充分だ」


万力の様に次第に強くなっていく優畄の握力、世界一硬い金属に変化させた拳にヒビが入っていく。


「ガァアア!……」


8割の力を失っていても晶程度なら優畄の相手ではない。


運がいいと思っていた晶、そうあの時までは。


もしあそこで逃げ出していれば、運が良かっただけで終われたかも知れない。


だが彼が勝てると勝手に思い込み戦いを挑んだ相手は、人外の化け物。いや神と呼んでも遜色ない能力を持つ絶対者。


優畄が放った神気に晶の体がガタガタと震え出す。


(…… ぼ、僕はここで死ぬ、こんな辺鄙な所で死ぬのだ…… )


なぜ、どうしてと問うてみても彼に死から逃れる術はないのだ。



「ヒッ、ヒィイィィィ〜!!」


悲鳴を上げて目を瞑りその時を待つ事しか出来ない晶だったが、予想外にも優畄に攻撃される事はなかった。そして何と彼の拳が離されたのだ。


「へっ?」


目を開けて見るといつの間にか優畄はルナの近くに移動していた。そして予想外の言葉を口にした。


「ルナ、コイツは君の敵だ。君が倒すんだ」


「えっ?!」


驚愕の表情で優畄を見るルナ。だがどうやら優畄は本気の様だ。


「大丈夫よ、今の貴方なら間違いなく勝てる相手だから」


千姫から少し霊力を分けて貰い動ける様になったヒナも後押しする様だ。


「…… で、でも……」


怯えた表情で晶を見るルナ。やはり彼に与えられたトラウマは簡単には拭えない様子。


「ルナ、俺達とのリンクで嘘を言っていないと分かるだろ? 君の今の力はその男以上、ソイツを倒して未来を切り開くんだ」


「私達が見てる、いつでも側にいる。ルナ、貴方は1人じゃない」


ヒナの言う通りリンクで繋がった3人は一心同体。決して1人ではないという現状がルナを奮い立たせる。


「…… ひ、1人じゃない! 私負けないよ!」


そしてルナは天敵の晶に強い視線を向けるのだ。







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