第160話 貪る者


邪竜【ンドゥ.アジール】をヒナ1人に任せゲートを塞ぎに来た優畄。そんな彼を邪魔する様にゲートから3体の巨人が姿を現した。


『ンガァアアアアアアアア〜!!』


出て来たのは【リージェントサイクロップス】という3体で1組の魔物だ。体長80m級の体に青、赤、黒の肌色をしており、その全身には禍々しい刺青が彫り込まれている。


“神の代弁者''とも言われる彼等は非常に頭が良く、サイクロップス本来の残虐性と知性を持ち合わせた厄介な相手だ。


それぞれ青が凍結、赤が業火、黒が漆黒の魔法と言うこの世界では使えない力を持っている。


まあ彼等はこの世界では魔法を使えない事を知らないため、それを使う時には驚く事だろう。それ以前に魔法なぞ使えなくともそれぞれの属性を宿したパンチやキックがその大きさゆえ脅威だ。


そんな化け物を前にしても優畄に焦りの色はない。



『おいそこの虫ケラよ、我等が恐ろしいか?』


『なあ虫ケラよ我等が恐ろしいだろ?』


『虫ケラよ、今から我等が出す問題に答えられたなら見逃してやるぞ』


明らかに人間を見下し遊び道具程度にしか見ていない3体の【リージェントサイクロップ】。


最初から見下し優畄の実力も分かっていない様子。


「…… 」


『フッククク、恐ろしいだろ虫ケラ』


『恐怖で声も出ぬとは虫ケラだしい、クックククク』


『フッククク、さあ我等の出す問題はこれだ』


優畄が返答せずにいると自分達を恐れていると思ったのか含み笑いと共に話を進める巨人達。


そして彼等が出した問題がこれ。


「目を背けようとする者や、免れようとする者もいるが、時間が経てば、誰もが必ず出会うもの。どんなものか推測するのは勝手だが、訪れれば必ず分かる。これは何か?」


答えは死だ。


この巨人達に優畄を見逃すつもりは無い。たとえ答えが正解だったとしても彼等は優畄を貪り喰らうつもりなのだ。


彼等はかつてあった自身の世界でも数え切れない数の犠牲者を嘲り貪ってきた邪悪の化身。今回もそうなるだろうと思っていた彼等だったが、今回は違った。


優畄は3体の巨人に答えを言う代わりにその掌を彼等に翳した。


『あっ?』


『なんの真似だ?』


『早く答えを言え虫ケ…… 』


次の瞬間には恒星の如く凝縮された光が放たれ彼等の体を蒸発させると共に、その背後にあったゲートを相殺し塞いだのだ。


ゲートを創る闇と同等以上の光を当てれば相殺は可能だ。マリアが複数の次元にゲートを開いた事で、一つ一つのゲートを支える闇の力が弱かった事も、それを可能とさせた要因だ。


「誰にも等しく死は訪れる。お前達にもそれは同じ事だ」


ゲートを塞いだ優畄は未だ破壊音が鳴り響くヒナ達の方へ走り出した。


ーー


一方、【ンドゥ.アジール】を相手に1人で戦っていたヒナ。


何度目だろうか、ヒナに首を跳ね飛ばされた【ンドゥ.アジール】が悲鳴を上げ後退し出したのだ。



『ヒ、ヒイィイイ〜!? な、な、なんだ! なんなのだお前は!?』


回復の限界を超えてまで首を斬り飛ばすヒナに恐怖を懐き出した【ンドゥ.アジール】



「なに、もう終わりなの? 貴方の回復力も大した事ないわね」


ヒナの言葉通り、3本ある内の2本の首が再生せずに斬られたままなのだ。回復の為の魔力も尽きてしまい、これ以上の回復は無理。


この世界では大気中に魔素と呼ばれる魔法に必要な要素が無いため魔法は使えない。そのため残存魔力を回復の方に回していたのだがそれも尽き果てたのだ。


前から敵と認めた相手には容赦がないヒナは、もちろん邪竜にも容赦がない。この【ンドゥ.アジール】から黒石の研究所で感じた邪悪な匂いも、彼女が容赦がない理由の一つだ。


『ヒッ、ヒヒャヒアァ〜〜!!』


初めて感じた死への恐怖のあまりゲートを目掛けて逃げ出す【ンドゥ.アジール】。もはやその姿に長き時を生き、幾多の命を弄んで来た邪竜の威厳も貫禄も皆無だった。


ただの怯えたトカゲ。


そんな【ンドゥ.アジール】に容赦のないヒナが、逃げていく彼に最終通告をする。


「貴方がいままで奪って来た罪なき者達の怒りを知りなさい!」


ヒナが【光虎】と【光姫】を構える。


「邪滅.一千軌斬!」


刹那の一瞬に千の斬撃が繰り出され巨体が細切れにされる。そして12023年の長きを生きた邪竜の体が消滅していく。


『……あ……い、嫌だ……わ、我は……死にたく……な………』


自身の消滅を知って初めて感じる生への執着。そんな【ンドゥ.アジール】の様々な思いと共にヒナの浄化の光が彼の存在を完全消滅させたのだ。


ヒナが刀を鞘に収めると同時に優畄が彼女の元へとやって来る。


「俺の方は終わったよ」


「私もいま終わったところよ」


お互いに無事だった事を確かめ合う2人。互いに戦っていた相手がアレだったため後味は悪いが、今は残った魔物の退治が優先だ。


「千姫さん達が気になる早く戻ろう」


「うん」


ーー


優畄達がゲートを閉じようと奮闘している一方で、残った魔物と戦っていた千姫とルナの2人。


「ルナ今じゃ!」


「はい!」


千姫の幻術と結界術、ルナの浄化の力で付近にいた魔物はあらかた片付いていた。


千姫の能力はもちろんだが、ルナも元授皇人形だ。戦闘に関しての知識は有している。


彼女の場合は千姫に教えてもらった結界術と、光の浄化の力を合わせた新しい能力【浄化結界】が強力で、浄化能力のある結界に閉じ込める事で相手の能力を封じる事が出来るのだ。


それと共に邪を滅する光が対象を焼き殺すなかなか強力な能力だ。


最初は人間1人程度の規模だったが、今では範囲攻撃も出来る様になり、彼女も光の巫女に相応しい力を有している。


「ふむ、粗方片付いた様じゃな」


「はい」


「優畄達は強大な敵の相手で忙しい、妾達で出来る事はやっていくのじゃ」


「はい!」


まるで師匠と弟子の様な関係の2人。なかなかの名コンビの様だ。


だが、そんな2人にとって天敵とも思える相手がマリアの手によって送られて来た。特にルナにとってはトラウマの相手だ。


「チッ、マリアめ、私をこんな所に飛ばしおって」


その送られて来た男は気怠そうに辺りを見回すと、千姫とルナをその視界に捉えて目を見開く。


「! お、お前は……」


男の目に歓喜の色が浮かぶ。


「ハ、ハハハハハハハッ! 生きていたのか!? 私の人形、まさか生きていたとはな!」


ルナの千姫の服を掴んでいた腕が、その体がガタガタと震え出す。元主人との拭い去りたくとも出来ない記憶が蘇る。


「……い、嫌……こ、こないて……」


千姫も突然のルナの変化にこの男がルナの元主人、黒石晶だと分かった。


「生きていたのならさあ来い! 私の元でまた働くのだ!」


ルナ本人の気持ちなぞお構いなしとばかりに彼女に近付いてくる晶。彼女が服を掴む力が強くなる。まるでお化けや妖怪の類に怯える子供の様なルナ。


千姫はすかさず【絶対世界】の結界を貼り黒石晶がこれ以上近付けない様にした。


「大丈夫じゃルナ、其方には妾が付いておるでな!」


「は、はい」


今では千姫にしがみ付く様にして怯えるルナ。そんな彼女に黒石晶の癇癪が爆発する。


「きぃい! 僕が来いと言ったら直ぐに来い! 僕の言う事が聞けないならまたあの部屋行きだぞ!!」


黒石晶が結界を外からガンガン殴っているが、それでも千姫の【絶対世界】は簡単には破れない。


だが黒石晶にはある特殊能力がある。戦闘面ではあまり活躍出来ないが、彼の二つ名がそれを物語る。


“結界破り''それが黒石晶が持つ1番のアドバンテージなのだ。


「【結界崩壊術.九楽】!」


黒石晶の変化した拳から放たれた波動が千姫の【絶対世界】を相殺していく。


「ば、ばかな!」


千姫の【絶対世界】は鬼でも破る事の出来ない強力な結界だ。だが黒石晶の【結界崩壊術.九楽】なら破る事は可能だ。


まあその代わりしばらくの間はどくに動けなくなってしまう不便な能力なのだが……


「そいつは僕のものだ。返して貰うぞ!」




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