第152話 ボブとの再会
お世話になった【深森童】の里を出た優畄達。その進路を黒石関連の施設にして進んでいた。
それは里で、朝食をご馳走になっている時に出た会話からの流れだ。
「妾達の目的地が無くなってしまったいま、妾達が取れる手段は退くか攻めるかの2択だけじゃ」
千姫は優畄達を見るとある決意を語る。
「…… 優畄、ヒナよ、妾が作る新たな世界で、争いのない自由な生活を送る事も出来るのじゃぞ?」
千姫は争いのない世界に閉じこもり、黒石と言うしがらみに縛られる事なく自由に生きる道も有ると言っているのだ。
彼女の姉の忘れ形見の優畄を死なせたくないという千姫の思いが伝わってくる。
だが優畄達からの応えは戦いの継続、修羅の道だった。
「千姫さん、昔の俺ならいの一番に乗っていた話です。だけど今の俺は光の御子だ、俺に力を託して行った彼等の思いを無下には出来ない」
「私達は1人じゃない。この皆んなの思いは裏切れないよ。千姫さんごめんなさい……」
「う、うむ…… そうじゃな、其方達ならそう言うと思っておった」
せめてもと、優畄達が付けているお揃いのペンダント"双星のペンタグラム''に守りの加護と、ある特殊な力を付与して返した。
このペンダントには付けた2人が10m以上離れられなくなるという特殊な力があり、その内蔵パワーも凄いものだったためそれを利用したのだ。
「戦いでは力になれない妾のせめてもの応援じゃ、このペンダントに守りの加護と、ある特殊な力を宿しておいた。これで2人はいついかなる時も離れる事なく一緒じゃ」
千姫から返されたペンダントから特殊な波動を感じる。
「ありがとうございます。大切にします」
「千姫さんの思いが伝わって来るよ」
2人の絆のペンダントをいいなとばかりに見つめるルナ。
「ルナ、お主にはこれを渡そう」
千姫が取り出したのは“身代わりのコケシ"という、一度だけ持ち主の身代わりになって消滅する守りのコケシだ。
「そのコケシは其方の身代わりとなり身を守るコケシじゃ。肌身離さず持っておるのじゃ」
「わっ! ありがとうございます」
優畄達とお揃いではないが、人からのプレゼントは嬉しいものだ。
「そろそろ一度ボブと落ち合わねばならぬな」
千姫はボブに通信用の指輪を渡してある。この指輪は千里の距離が離れていても繋がるもので、あの時彼に鬼達を押し付けて来て以来連絡は取れていない状況だ。
この指輪は千里の距離も繋がる代わりにお互いの意思が噛み合った時にだけ繋がる。常に指輪に気を向けている訳にはいかないため、なかなか繋がらないのだ。
だが、今回は運良く繋がった様だ。
『オウ?! 花子で〜スか、久しぶりで〜ス! どうで〜スか? 優畄達には会えましたかァ?」
「ああボブよ久しいな。今優畄達と一緒じゃ、だからどこかで落ち合おうぞ」
『分かったで〜ス。ではァ【山吹亭】で待っていま〜ス!」
【山吹亭】とはもし別れた際の集合場所として千姫と決めた場所。
かつては【仙狐】族に連なる者が祀られ暮らしていたが、今では狸達の寝ぐらとなっている古めかしい御堂だ。
町で拝借して来た車で迎えば1時間もあれば着く距離、ひとまずボブと落ち合うために【山吹亭】へ向かう事に。
「オ〜ウ、待つで〜ス、順番で〜ス」
【山吹亭】ではボブが狸達に餌をあげており、狸達に囲まれて何とも楽しそうだ。
狸も野生だろうにキュイキュイと鳴きながらボブに戯れついている。邪念が一切ない純粋なボブならではだ。
「野生の狸が懐くとは、まったくもって面白い奴じゃ」
「オ〜ウ! 優畄さん、ヒナさんお久しぶりで〜ス!!」
「ボブ、久しぶりだね。元気そうで何よりだよ」
「ボブさん久しぶり!」
優畄達との再会の挨拶が済むとボブがルナの方を見る。
「オ〜ウ、この女性はどなたで〜スか?」
「彼女は俺とヒナの新しいパートナーでルナていうんだ」
「…… る、ルナです…… よ、よろしくお願いします」
まだ優畄達以外の人間には慣れていないルナだったが、頑張って挨拶をする。
「ハ〜イ、私はァボブで〜ス。よろしくで〜ス」
ボブの出した握手にビクビクと怯えながらも応じるルナ。彼女もボブが相手ならすぐに慣れるだろう。
そんなボブだが、優畄は彼の変化に気付いていた。
「ボブお前、なんか異様に強くなっていないか?」
ボブから発せられている闘気が前にあった時とは桁違いに強くなっているのだ。
「本当、なんか何百年か修行していたみたい」
ヒナも彼の変化に気付いている様だ。
「そうゆうお2人も以前とはァ別人の様で〜ス。心地よいいい力を感じるで〜ス。今戦えば私の方が負けそうで〜ス。師匠としてはァ寂しいもので〜ス……」
いつの間にか優畄達の師匠気取りなボブ。まあ以前にいろいろとお世話になったのでそれで構わないが。
「ところでボブよ、鬼達のその後はどうなったのじゃ」
「…… はい、お話しするで〜ス」
ボブの話では鬼の里が攻められた事で彼等はバラバラになってしまい、彼等の内の1人が裏切り、1人が仲間のためにその身を犠牲にして死んだとの事だ。
そして分かれた後の事を話し合っていた訳ではないためか、彼等の行方は分からないとの事。
「そうか…… 鬼達のその後は分からぬか……」
あれだけ強かったのだ死んでいるとは思えないが、鬼達との合流は難しいだろう。
「鬼との合流は無理そうじゃな…… 」
そんな意気消沈な千姫に優畄は自分達の決意を語る。
「千姫さん、これから俺達は黒石の施設を重点的に攻めて行こうと思っています。そして最後の目標は、あの禍の元凶の黒い石が有る黒石の本家です」
そう、優畄達は自ら攻めに転じると言うのだ。そして全ての元凶でもある本家に攻め入ると言っているのだ。黒石との全面対決。それが優畄とヒナの2人が決めた事なのだ。
「…… 千姫さんとボブとはここでお別れです。これ以上皆んなを俺達の戦いに巻き込みたくない。だから……」
そう言うと優畄とヒナはルナを見る。彼等とリンクげ繋がった事で光の力が流れ込み癒されて、今では優畄達が相手なら普通に喋る事も出来る様になった彼女。
「……どうかルナの事をよろしくお願いします」
「私達の代わりにルナの事を頼みます」
これから先の激戦では傷付き慄くかもしれない。誰かが死ぬかもしれない。そんな戦いに皆を巻き込みたくないのだ。
「な、何言ってるの?! そんなのダメだよ! 私も戦う。皆に出会えて生まれ変われた今の私なら戦かえる!」
リンク越しにルナの強い思いが伝わってくる。
「…… 優畄よ、妾は黒石に里を奪われた。大切な仲間を奪われて来たのじゃ、それなのに妾達に退けと申すか、笑わすな! この戦いはお主達だけのものではない。妾の戦いでもあるのじゃ」
「千姫さん……」
里を奪われ、仲間を奪われて来たのだ。彼女の決意も本物だろう。
そして最後にボブが口を開いた。
「優畄さ〜ン、私〜シは花子の盾、守り役。彼女行くところ私〜シも一緒で〜ス。お供しま〜ス」
どうやらボブもついて来てくれるだしい。
「皆んな…… 」
「皆んなの強い意思が伝わって来たよ……」
周りで狸達が楽しそうに駆け回る中、優畄達は決意を新たにし、攻勢へと転じるのだ。
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