第151話 深森童


鬼の里へ向かっていた優畄達は、鬼の里の消滅を聞いて驚愕すると共に、その目的地をある種族の隠れ里に変えていた。


これから向かうのは【深森童】という【座敷童】に似た子供姿の精霊達が暮らす【深森界】という世界だ。


高位の種族は別次元に自分達の世界を作り出しそこに暮らす事が出来る。


その彼等が暮らす高次元は簡単には見つける事は出来ない。そのため桃源郷の様な緑と花々に彩られた楽園で悠々自適に暮らしているのだ。


「あら〜、千ちゃん久しぶり〜!」


「ごめんなさいメイちゃん、私達を招き入れてくれてありがとう!」


【深森童】のメイちゃんとは幼馴染で、昔はよく互いの里を行ったり来たりしていた仲だ。


だが黒石による討伐が激化してくるとそれもままならなくなってしまった。


「大丈夫よ、千ちゃんと光の御子様なら大歓迎だよ〜」


「すいません、お世話になります」


優畄もしっかりとお礼を言う。


見た目は5〜6歳位の女の子だが、実際の年齢は1000歳を超えるメイちゃん。


今は光の御子が来たという事で何十人かの【深森童】に囲まれている状態だ。


「可愛い〜!」


日本人形の様な彼女達に囲まれて嬉しそうなヒナ。鎧や着物など日本の古い物に目が無い彼女には堪らないのだ。


「貴方も光の御子様なの?」


「あら、もう1人いるわ」


「貴方も?」


「凄い、3人から光の力を感じるわ」


光の御子と聞いて集まって見ればそれと思わしき人間が3人もいる事で興味を持った彼女達。矢継ぎ早に質問をしてくる。


リンクで繋がっているためヒナはまだしも、ルナにまで光の力が流入したのだ。


その結果、彼女の今の力は元主人であった黒石晶を凌ぐ程になっていた。それは光の巫女と呼んでも過言でない程。


優畄達と同じ様に部分的にだが【武装闘衣】を使える程だ。


「…… わ、私が光の巫女だなんて……」


優畄達に助けられ力に目覚めた彼女。今の自分の現状に戸惑っているのだ。


「大丈夫よルナ、貴方ならこの力を有効活用出来るわ」


「うん……」


【深森童】のメイちゃんの家にお邪魔になる。彼女の家は昔ながらの古民家という作りで、お婆ちゃんが住んでる様な家に5人程で暮らしているだしい。


この【深森界】には食べ物も年中実っているため食料には困らない。


その晩は【深森童】達がご馳走でもてなしてくれた。ご馳走といっても木の実やどんぐり、栗やキノコなど。


彼女達は肉は食べれない。そのため人には少し寂しい宴だ。


「どうぞどうぞ、どんどんお食べください光の御子様」


「は、はいいただきます」


「いただきます〜す!」


「いただきます」


勧められて食べないのも申し訳ないので木の実を一つ食べてみる。


「むっ! 美味しい」


この木の実やキノコなどはこの【深森界】で育った物で、【深森童】達の霊気を浴びていたため味も良く栄養価も高いのだ。


流石にキノコは鍋にしてあるが、干したキノコで出汁を取ったキノコ鍋は別格の美味さだ。


「本当に美味しい! こんなキノコ食べた事ない」


「この世界で育ったからこその美味しさなのね」


気付いて見れば彼女達の用意した食べ物を全て平らげていた優畄達。


「ご馳走様でした。とても美味しかったです」


「光の御子様達が喜んでくれた!」


「皆んなで集めてよかった」


「良かった」


「あのキノコは私が採ったものよ」


優畄がお礼を言うと嬉しそうに喜ぶ彼女達。とても純粋な彼女達に優畄達もほっこりする。


この後は彼女達と隠れん坊や鬼ごっこなどで遊びをした。彼女達が食べた後は遊んでくれと催促してくるため仕方なく遊んでいるのだが、可愛らしさ彼女達と遊んでいるといい気休めになる。


久しぶりに気の休まる1日となった優畄達。彼女達が泊まっていけ泊まっていけと催促してくるので、これまた泊まって行く事にした。


そしてどうやらこの里には温泉もある様で、それもご相伴にあずかる事にした。


まず最初に千姫、ヒナ、ルナの女性組から入る事に。ヒナが一緒にと言って聞かなかったが、流石にそれは無いと皆の後に入る事にしたのだ。


季節は秋なため、火の入っていない掘り炬燵で【深森童】の皆とトランプで遊んでいると、お風呂の方から女性陣達のキャッキャッとした声が聞こえてくる。


「フフフフッ、女性陣達には息抜きになってよかったな」


「ユウト様がババを引いたわ!」


「これで何度目かしら」


「ユウト様たら本当に弱い」


これで優畄の5度目の負けだ。ヒナ達としてもいつも負けてしまう、どうやら彼はこの手のゲームが苦手の様だ。


「ハハハ…… (彼女達も楽しんでくれた様でよかった……)


そんなこんなしているとお風呂から上がったヒナ達が戻って来る。


「優畄、いいお湯だったよ」


「待たせたのぉ、さあ行ってくるのじゃ」


「ああ、じゃあ俺の代わりにトランプで遊んであげて」


「了解!」


【深森童】達の相手をヒナ達に任せてお風呂場に行く優畄。


お風呂場は広さ10m×10mとかなり広く総檜製で、なんとも安らぐ良い香りがする。


湯船はそのお風呂場のど真ん中にドンとあり、2m×2mとこれまた大きな作りだ。


透き通った湯船には柚がプカプカと浮いており、檜の香りと相まって清々しい香りだ。体を洗うと早速湯船に飛び込む。



「ふ〜、ああ….… いい湯加減だな……」


日本人の心、疲れ切った心と体が安らいでいく……


実はこの温泉には優畄達の疲れを取るために、【深森童】達が霊力で癒しの効果を施して来れているのだ。


そんな温泉に浸かりながら優畄はこれまでの事を思い出していた。


黒石の屋敷に呼ばれてあの黒い球を触った事が全ての始まりだった気がする。そして出会ったばかりの瑠璃を殺されてヒナに出会う。


この出会いは今では優畄の全てだ。


磯外村や黒雨島での命をかけた討伐。精神会館では素晴らしい出会いがあった。それらの出会いは今でも大切な宝物。


そして鬼の討伐に因縁の相手【闇寤ノ御子】の討伐と、今生きているのが不思議な位の強敵達だった。


千姫とその母親の【柊ノ白弦狐】様の事。命を掛けて優畄達を黒石の闇から救ってくれた彼女の事は決して忘れない。


千姫は優畄達を導き、ルナを助ける為に自らを顧みず奔走してくれた。彼女も今では大切な家族、仲間の一員だ。


大好きだった桜子との別れ、幼少期から優畄の事を陰ながらに支えていてくれた父勇之助。彼から授かった【霊体変化】は幾度となく優畄を助けてくれた。


そして優畄に力と意思を託していった者達。黒石に家族を仲間を殺されて優畄に力を託して消えて行った者達。目を瞑れば彼等の思いが今でも聞こえて来る。



『黒石に光の裁きを』



優畄は一時の安らぎの中、決意を新たにするのだ。


彼が温泉から上がるとヒナ達と【深森童】達がトランプやリバーシーで遊んでいた。この世界には彼女達特製のカルタや駒、手毬などはあるがそのどれもが遊び飽きた物ばかり。


そのため優畄達が持ち込んだトランプなどがあっという間に人気になったのだ。


中には自分達で複製して新しいトランプを作り出してポーカーに興じる猛者までいる。


まあ彼女達が楽しいならば問題はないのだが。


そんなこんなで後は寝るだけだ。案内されたのは広く大きな布団部屋、ここで皆で雑魚寝をしているだしい。


彼女達【深森童】に布団の概念はあってもそれをひくという事はしない。幾重にも重ねられた真綿の柔らかい布団の中をゴロゴロと好きな所に寝転がるのだ。


今も目の前で【深森童】達がゴロゴロと布団に飛び込みポヨンポヨンと楽しそうだ。


「…… これはまた変わった寝方だね」


「うん。でも楽しそう」


「御伽噺の世界みたい……」


「妾も初めて泊まった時は驚いたが、慣れてみるとなかなかクセになるのじゃ」


という事で彼女達に習い優畄達もゴロ寝をする事にした。


「ハハハッ! こんなのもなかなか」


勢いよく飛び込んでも柔らかい布団は暖かく受け止めてくれる。身も心も癒されながら優畄達は夜を過ごすのだ。










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