第147話 激突!


鬼と黒石の者が激突する。至る所で戦いの火蓋が切って落とされる。


先陣をきった夜鶴姥童子とボブがボーゲルにそれぞれ交互に攻撃を仕掛けていき、休む隙を与えない。


「【紫電.砲撃】!」


夜鶴姥童子の好きな様に雷を変える事が出来る紫電。【紫電.大砲】は千姫が持ち込んだ携帯(なんと電波が届くのだ!)で見た大砲を遠距離攻撃の手段が無かった彼が再現しようと編み出したオリジナルの技だ。


この技は両手を合わせた状態で腕を伸ばし、その合わせた掌から大砲の砲弾の様に紫電を撃ち出す。


威力は全力で放てば小山程度なら消し飛ばす威力があり、威力を抑えれば連射も出来る優れものだ。


その代わり砲撃、ガトリング共に30秒程のリキャストを必要とする。慣れない遠距離攻撃なため致し方ないだろう。


そのため、その間にボブが攻め込み時間を稼ぐ。


「【大旋風脚】!」


今では全ての蹴りに竜巻が発生する程の回転を加える事が出来るボブ。【ゾンビキング】の特性、“瞬間回復“がそれを可能とさせる。




日本に来て計30回程死んでいるためパワーアップも如実で、かつてボーゲルに瞬殺された時の30倍、即席とはいえ夜鶴姥童子と共闘ならボーゲルに匹敵する程だ。


2人の連続攻撃に防戦一方なボーゲル。


「うぬぬ! 貴様等如き雑魚がずに乗りおって!」


戦いで劣勢になるとブチ切れる癖のあるボーゲル。ブチ切れた事で動きが荒くなる。


「愚か者め、隙だらけだぞ!」


「隙ありで〜ス!」


それを見逃す2人ではない。即席だが2人の合体技、【紫電旋風】がボーゲルを飲み込む。


完全に大技がボーゲルに直撃したが、夜鶴姥童子 とボブの2人に油断はない。それどころか明らかに変わったボーゲルの気配に警戒を強くする。


砂埃が晴れるとそこにはそれまでの姿と異なる異形の者が佇んでいた。


頭に生えたバイソンを思わせる巨大な角に真っ赤な肌。肩には獅子とドラゴンと思われる魔獣の顔があり、腹に有る第4の顔は信じられない程に美しい女性の顔だ。


そしてドラゴンか恐竜を思わせる鱗まみれの下半身。


そうボーゲルの真の姿、【闘神イーボスチュチン】その真の姿だ。


「…… 何と異様な、それが貴様の真の姿か」


「ジーザス…… 聖書の悪魔を思わせる姿で〜ス……」


ボーゲルの本来の姿を前に嫌な汗が2人の背中を伝たう。


『まさか雑魚相手に真の姿を見せる事になろうとは…… まあいい、さあ我を楽しませてくれ』


先のボーゲルの時とは違い、戦闘狂で有る事を隠す事のない彼。邪神としての本能に従っているのだ。


そしてボーゲルとの第2ラウンドが幕を開けた。


ーー


一方他の鬼達は、最高ランクにまで上がっている黒石のハンター達に苦戦していた。


「フン! フン! なんだ鬼の強さはこの程度なのか? もう1ランク下の獣変化でも行けたな」


連打で赤蛇を追い詰めて行くひなた。神獣【フェンリル】の強さはスピードとパワーで大きく赤蛇を上回っている。


それにひなたは、変化系能力を極めた者が成れる“獣人体型“という、二足歩行形態の白銀の狼女といった姿に変わる事も出来る。


攻撃の際にはパワーのある人型で、それ以外はスピードのある狼型と能力を使い分けて来るため、戦い辛いことこの上ない。


攻撃を仕掛ければ絶対カウンターによる手痛い反撃が待っており、追い込まれた感のある赤蛇。


それ以前に巨人と相対する刻羽童子が心配で心配で仕方ない赤蛇は、ひなたとの戦いに集中出来ないのだ。


「チッ、この犬っころが! 図に乗りやがって、グズグズにしてやるよ!」


だが赤蛇には切札がある。自身の強酸の血液を使った技だ。彼女の初戦での勝率9割を支えるこの能力は未だ破られた事はない。


それにこの能力は赤蛇自体が強化された事で能力も上がっており、今では球状にした強酸を自由自在に操る事も出来る。


「【血の祝祭日.手毬唄】! アタイは刻羽の援護にいかなくちゃならないんだ、アンタはとっとと溶けて無くなっちまいな!」


手毬唄などと可愛らしい名前だがその実態は触れた者全てを溶解させる地獄の手毬。


その手毬がポインポインと跳ね回りながらひなたに迫って行く。


「グルッ、これは……」


その手毬からただならぬ気配を、野生の第六感から感じとったひなたが距離を取ろうと背後に飛び退く。だが手毬はそんなひなたを追随する様に軌道修正しながら迫って行くのだ。


このマリは赤蛇自身の血液だ。彼女の意思で自由自在に操れる。


「そらそら! その手毬は何処までもアンタを追随するよ」


そして手毬が触れた木々や地面が1m程のクレーターを作り出す。


「チッ! (交わしきれない……)


大きく飛び退こうとしたひなただったが、交わし切れなかった一つの手毬が彼女に迫る。


「姫ぇ!」


脇で手を出さず見ていろと命令されていた十兵衛が彼女の盾として手毬の直撃を受ける。


手毬の直撃を交わしきれないと諦め、目を閉じていたひなた。一向に来ない痛みに目を開けた彼女は全てを悟った。



「…… じ、十兵衛、お前……」


「…… ひ、姫…… ご、ご無事で……よかった……」


手毬の直撃を受けた十兵衛の土手っ腹に大きな風穴が空いている。その状況から彼が助からないのは一目瞭然。


そして十兵衛は彼女を守るという大役を終えて息を引き取った。


「…… 」


彼女の悪いクセで、赤蛇が格下だと見下して油断していたひなた。十兵衛がいつも、「格下でも状況を打破出来る隠し球を持っているかも知れないから気を抜くな」と言われていた。


「……お前の言う通りになっちまったな十兵衛……

私を守って死んじまうなんて、お前は大馬鹿野郎だよ……」


「ハハハハハ! 1人片付いたぞ、 次はお前だ」


十兵衛が死んだショックからか、変身が解けてしまったひなた。そんなひなたに赤蛇がせまる。


ーー


方や黒石陣斗と【ギガノマキア】の相手をする刻羽童子は苦戦を強いられていた。


「クッ、なんでこんなに動きが早いんだ!?」


かつて巨人なら【ダイダラボッチ】と戦った事はあるが、【ダイダラボッチ】は動きが鈍く戦い易い相手だった。


だがこの【ギガノマキア】は違う。50mを越える巨体のくせにやたらと動きが早いのだ。


これは黒石陣斗が【ギガノマキア】の脳のリミッターを外し、関節を滑らかにしなやかに動く様に改造したから。


そして鋼鉄製の体は刻羽童子の一切の攻撃を跳ね返し、その攻撃は一撃でも喰らえば只ではすまない威力。


追い込まれた刻羽童子は自身の切札を使う事にした。


「【風装.花月】!」


【風装.花月】とは刻羽童子が纏う事が出来る風の鎧。


彼刻羽童子は天女と鬼のハーフだ。そのため彼は天人が纏うと云われる“天鎧“を纏う事が出来るのだ。


この鎧は風と彼の母の形見の羽衣が融合した物で、この鎧を纏った時の刻羽童子は夜鶴姥童子にも匹敵する程の強さだ。


だが彼は純潔の天人ではないため、鎧を纏えるのは1時間と短く、次に纏うまでに1日のリキャストタイムが必要となる。


それでも強力無比な能力なのだ。


彼の纏った“天鎧“の肩の部分に有る羽衣が変化した巨大なスラスターから風を吹き出し、マッハ6の超スピードを叩き出す。


そして鎧の隅々に100ものスラスターが有り、高速で小回りも効く風の戦士と化すのだ。


「さあ【花月】よあの巨人を撃ち倒そうぞ!」


ジェット機を思わせる爆音と共に刻羽童子が空へ飛び立つ。









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