第146話 鬼の里、襲撃!


翌日、鬼の里への一斉進行が始まった。


鬼の里の場所は千姫の結果によって空間が歪められて分からなくなって居るが、目星い場所まては絞り込まれている。


人との共存を目指していた【アマメハギ】の一体に虫を括り付けて置いたのだ。


後は現地でドブ攫捜査による里の特定だ。


千姫の次元結果は次元を歪める事で見えなくする結果で、見えないだけでその場に行けばバレてしまう。


この里の周りには認識障害の結界や幻術による森の結界など、幾重にも結界を張り巡らせている。


そしてそれらの結界には侵入者を知らせる警報の様な仕組みも込められているため備えは万全なのだ。


だがそんな鬼の里に侵入者を知らせる鐘の音が鳴り響いた。


ーー


その反時程前、鬼達はこの里にお世話になる【アマメハギ】の一族の主導で宴を行っていた。だが【雲州鬼族】は納得の行かない顔をしている。


理由は食事だ。


【雲州鬼族】は人を好んでたべる。だが姿を人に似せ人を食わなくなった【アマメハギ】の一族の食料は、人間と同じ。


この地を追われてから争いを避ける様に生きてきた彼等の当然の変化なのだ。


だ夜鶴姥童子達はそれが気に食わない。何百年と次元の狭間に封印されていた彼等にはその臨機応変な変化が理解出来ない。


「宴とは笑わせる! 我等に人と同じ物を食えと言うか!」


人は彼等にとっては餌に過ぎない。その人と同じ物を食べるという事にどうしても抵抗があるのだ。


「我等【アマメハギ】の鬼は今から5代前の長の時に、人を食べるのをやめました。それ以来人との共存を目指して来ましたが、それすら叶わず……」


人を装い人との共存を目指した彼等だったが、その道も黒石の進行により閉ざされてしまった。


後は存続を賭けて戦うのみ。


「我等【アマメハギ】の鬼、強くなる為なら人すら食べましょう!」


そして一様に決意に満ちた面持ちを見せる【アマメハギ】の鬼達。


それまで仲良くしていた近隣住人が、一斉に手の平を返した様に彼等の敵になったのだ。【アマメハギ】の鬼達の人との決別の意思は硬い。


「う〜む、種を率いる長として其方の思い分かるぞ! 心より其方達を歓迎しよう」


復活してから人が変わったかの様に柔軟な考え方をする様になった夜鶴姥童子。


「ヤトバの奴、甦ってからやけに甘ちゃんになったな」


そう、実はこの夜鶴姥童子は甦るさえの依代となった黒石光太郎の意思や思想に引っ張られている。


黒石光太郎の肉体や魂は吸収され消滅してしまったが、その思考や思いは彼に受け継がれていたのだ。


本来の夜鶴姥童子だったなら是が非でも彼等を追い払っていただろう。だが黒石光太郎は人格者だった。家族を思い、仲間を思うその影響が夜鶴姥童子にも現れているのだ。


以前は無かった仲間を思うその心、案外満更でもないと彼は思っている。


そして新たに仲間になった鬼の子供達を見る。


キャッキャキャッキャと無邪気に走り回る子供達にこの里の明日を感じた。


(ああ守るさ。我の家族となった者達だ、何に変えても我が守ってやろう!)


そんな時だった、祝福ムードな鬼の里に侵入者を知らせる鐘の音が鳴り響いたのだ。


「むっ、この鐘の音は! 里に侵入者が入ったのか?!」


「この気配、あの時感じた化け物の気配だよ」


鬼達が感じた気配はかつて精神会館を襲撃した際に、戦わずに退いた黒石康之助のもの。


その力はあの時と変わらずに圧倒的なものだ。


「ウヌヌヌヌ、まだだ、まだ今の我では足りぬ!」


千姫によって人間を与えられていた夜鶴姥童子、順調に強化が進んでいたのだがまだ康之助には及ばない。


「大丈夫で〜ス。私ィも協力するで〜ス!」


ボブが夜鶴姥童子と共に戦うと名乗りをあげる。


「おおそれは心強い。ボブ殿、お頼み申す」


本来は一対一の勝負を好む夜鶴姥童子だが、この相手は1人では太刀打ち出来ない。里を守る為なら喜んで共闘しよう。


最近はボブに読み書きを教わっている鬼達、すっかり打ち解けた彼の存在は大きい。


「他の雑魚共はオイラ達に任せな!」


「アタイ達が軽く蹴散らしてやるよ」


「殺、殺、殺、任せよ、我が皆殺しにしてくれる!」


彼等も人間を食べていた為以前より強化されている。今では''都墜し''のレベルにまで強化されているのだ。


腐獅子は離れた場所で妻の美穂と暮らしている為、この場には来ていないのが気になるが、他の4体の鬼で迎撃に出る事に。


「我等が敵を撃退して来る。他の者達はこの里を守ってくれ」


すでに彼等を仲間と認めており、この里の鬼達も彼等が守る対象なのだ。


「お任せください。この里は命に変えても守ってみせます!」


それが分かるからこそ霧楽が里を守ると誓う。


「うむ。頼んだぞ」



「愛しの我が君、君はオイラが必ず守るから、どうかそこで見守っていてくれ」


刻羽童子を無視して本を読み続ける千姫の幻術。だが気にせずに語りかける刻羽童子。


「おい! これから戦いなんだ、女狐なんかに現を抜かすな!」


怒る赤蛇には構わず前線に出て行く刻羽童子。


「否、否、否、まったく、この様な時に痴話喧嘩とは……」


そんな2人に呆れながらも後に続く椿崩。


鬼達が夜鶴姥童子とボブ。刻羽童子、赤蛇、椿崩の2組に分かれる。


最大戦力の2人を康之助にぶつけようという事だ。そうしなければ康之助は止められない。


そして夜鶴姥童子とボブの2人が康之助の元に辿り着いたその時、空から太陽の光を思わせる熱線が発されて、千姫の掛けた全ての結界が破壊されたのだ。


「【天照.降解陣】……」


大技の後で太陽の如く輝く康之助の姿に足が前に進まない2人。その圧倒的な力に慄いているのだ。


「ここまでご足労申し訳ないが、俺の仕事はここまで。悪いが後はアイツがあんたらの相手をするそうだ」


康之助が背後に親指をくくる。そこには2mを超える長身に目立つ燕尾服の男が佇んでいた。


康之助とはタイプの違う、力を抑えていても分かるその圧倒的な力の破流が2人を飲み込む。


「…… な、なんと悍ましき力よ……だが、我は負けん!」


「……あの時のォ運転手で〜スね、借りを返させてもらいま〜ス!」


「ふん、鬼の頭領にあの時のミミズ頭か。光の御子との前哨戦には打って付けだな、かかって来い!」


ーー


一方、強敵を夜鶴姥童子達に任せて他の者の迎撃に向かった刻羽童子達の前に黒石ひなたと黒石陣斗、黒石刹那の3人が立ち塞がった。


数も同じ、ならば必然的に一対一の形になる。


「私の相手はあんたかい? 本当はあっちの方が良かったけど、まあ仕方ないね、かかって来な!」


ひなたが赤蛇に相対しながら夜鶴姥童子の方が良かったと、残念そうにかかって来いと指をくくる。


「小娘! アタイを怒らせた事を後悔させてやるよ」


赤蛇がひなたには殴りかかっていく。ひなたも最高ランクの神獣フェンリルへと変化してそれを迎え打つ。


「オイラの相手はお前か?」


刻羽童子が一見ひょろっとした科学者風の男を残念そうに見る。


「いいや、私じゃあない。来い!【ギガノマキア】」


黒石陣斗が腕時計型の通信機から呼ぶと同時に上空から漆黒の鋼鉄の巨人が落ちて来る。そして大地を揺るがす衝撃音と共に着地したのだ。


そして陣斗は【ギガノマキア】の背中に作ったコックピットに乗り込む。


【ギガノマキア】の操作をするには本体の10m付近に居なくてはならない。かと言って近くでウロウロしていて戦いに巻き込まれては堪らない。


そこで【ギガノマキア】を改造して背中に乗り込めるようコックピットを作ったのだ。


「なっ!? なっ!? 巨人だとぉ!?」


『さあ行くぞ【ギガノマキア】! そいつを叩き潰せ』



そして必然的に相対する事になった刹那と椿崩。


「殺! 殺! 殺! この我が醜く切り刻んでくれる!」


「……どうやら俺の相手が一番の雑魚の様だな」


「貴様!」


狂爪で斬りかかって行った椿崩だったが、刹那が放った【チャクラム】によって腕を切り飛ばされてしまったのだ。


「ガアァ!」


「悪いな、あんたらに恨みは無いが狩らせてもらうぜ」

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