第144話 対黒石刹那戦2


「…… チッ (あのタイミングで交わすのか……)


あのタイミングで交わされるという事は、優畄は刹那の攻撃をほぼ100%の確率で回避出来るという事。


絶対のタイミングで当たると確信していた【雷槍ヴァジュラム】が交わされたのだ。刹那の落胆は大きい。


それに刹那の【天開宝輪】と違い、優畄の【次元遮断】にはリキャストタイムは存在しない。


それは即ち刹那には優畄に攻撃を当てる手段が無いという事。刹那がどんな攻撃手段で、いくら強力な攻撃手段を持っていても当てる手段が無ければどうしようもない。



そんな2人の戦いの傍ではヒナとマリーダが刀を合わせ合っている。


ヒナの音速を超える斬撃に、特殊能力を交えながらも何とか対応しているマリーダも、あの時に比べると遥かに強く成長している様だ。


だがそれはヒナが彼女に合わせて居るだけの話しで、ヒナがギアを一つ入れた途端に付いて来れなくなるマリーダ。


「クッ! ま、負けない! 私は負けないわ!」


同じ授皇人形として生を受け、初めて仲良くなれた友達でもある2人。


本当なら戦いなどではなく話がしたい。お互いのこれまでの事、そして恋についてのあれこれを話し笑い合いたい。


だが、2人は戦わなくてはならない。互いの明日の為に。


千姫もルナと共に結界の中で2人の戦いを見守っている。



そんな中でも刹那は、交わされると分かっていてもその攻撃の手を止める事は無かった。


完全に優畄に見切られ彼の持ち技の引き出しが減っていく中でも諦めずひたすら前に出る。


優畄が刹那を殺さない様に最新の注意をしながら攻撃してくる事も彼を前へと動かす原因だ。


優畄はライバルだ、そのライバルにナメられたまま終われるはずがない。


「無駄だ刹那、お前の攻撃は俺には通用しない」


「…… クッ、クソったれ……」


あれから刹那は強くなった。当主候補の中でも万全の彼に確実に勝てるのは黒石将ノ佐くらいだろう。


だが数々の惟神や魔の者を吸収した今の優畄の強さは、そんな彼等の枠を遥かに超えている。


それはもはや神と呼んでも遜色ない存在。



「…… そ、それでも、俺は!」


退けはしない。ここで退く訳にはいかないのだ。その決意と共に再び優畄にかかっていく刹那。


【火炎剣ミカド】と【月光の曲刀アミュレーター】をクロスにすると、ミカドの3000度を超える爆炎と全てを斬り裂くアミュレーターの特性が合わさった合体技、"炎皇至鳳斬“を放ったのだ。


【次元遮断】でもカバー出来ない程の広範囲に渡る大技。爆炎を伴ったクロスの斬撃が優畄を捉える。そして彼の背後に500mに及ぶクロスの亀裂を地面に作ったのだ。


それと共に3000度の爆炎が森を焼き払い大地を融解させる。


「ハアハアハア……」


刹那が使える最強の技だ。彼の全闘気を込めたためか息切れも激しく、今にも座り込みそうな程に疲れきっている。


それでも変身も解かずにその場に立って居る刹那。


(…… 効いていてくれ、せめて腕の1、2本だけでも……)


ズズズズズッという大地を震わす激音と共に爆煙が晴れて行き優畄の姿が露になる。


だが、彼にダメージを受けた様子はない。



「…… クッ、化け物め……」


優畄がダメージを受けなかった理由は、彼が父から授かった【幽体変化】のおかげだ。


優畄の使える【幽体変化】はその肉体自体を霊体に変える能力だ。霊体には爆炎も斬撃も通用しない。


唯一霊体に通用する霊気は黒石の闇の力とは正反対の力であり、刹那に使えないのはいうまでもない。


刹那にとって唯一【チャクラム】だけが【幽体変化】に対応出来る能力だが、それも【次元遮断】の前では通用しないだろう。


これで刹那は完全に詰みの状態だ。


「諦めろ刹那、お前の能力では俺には勝てない」


「…… ふ、フフフ、分かっているさそんな事、だけどな俺に退くという選択肢は無いんだ! …… 友として頼む優畄、俺達を解き放ってくれ! だから……」


刹那は本気で戦い殺してくれと遠回しに言っているのだ。黒石の呪縛から逃れるにはそれしか方法が無い。


彼とは僅か3日間程の付き合いだったが、共に殴り合い共に命をかけて戦った戦友だ。


たった3日、それだけでも互いに親友と呼び合える程の仲になっている2人。そんな彼の意思を無下には出来ない。



「刹那……分かった。俺の全力でお前を解き放とう!」


本当の意味で覚悟を決めた優畄は、全身全霊の光の力を拳に集める。まるで小さな恒星のごとき力が優畄の拳から発せられている。


優畄の力の解放をうけて大地が揺れだす。


これぞ異世界の勇者が使えたという必殺技【ギガ.ブレイク】。こちらの世界では【神光波】と呼ばれる、闇を祓い邪を滅する優畄の使える最高の技だ。


「…… フ、フフフ凄まじい力だぜ…… だが俺にも意地がある。さあ最後の勝負といこうぜ!」


だが刹那もただ黙ってやられる様な柔ではない。力を使い果たしたとはいえ彼も戦士、今使える最高の技でこの最後の勝負に挑むのだ。



「うおおおおおおおおおおお〜!!」


「ああああああああああああ〜!!」


互いに大地を蹴り急接近する2人。


そして互いの拳と刃が交差しようとした瞬間、刹那の体が優畄の目の前から掻き消える様に消えたのだ。


何が起きたかはすぐに分かった。優畄も経験した事のあるマリアによる強制送還。そう、刹那は優畄との戦いの最中に屋敷に呼び戻されたのだ。


脇で2人の戦いを見守っていたマリーダも居なくなっている。


まるで今までの戦いが嘘だったかの様に描き消えた刹那達。


「グッ…… どこまでも腐りきった…… うおおおおおおおおおおおおおお!!」


優畄は相手が居なく無り、空に突き出された拳を震わせながら、ら怒りの雄叫びを上げる。


相手が居なくなった激戦の場で優畄が怒りの雄叫びを上げる一方、黒石の屋敷に呼び戻された刹那は、力無くその場に膝を付くと自身を呼び戻した人物を睨み付ける。


「…… 何故俺を呼び戻した? 何故俺達の戦いに横槍をいれた!?」


返答いかんによっては例え自分が殺されようとも殴り掛かるそのつもりだ。


「それは刹那お兄様が危うく死にそうだったからですわ。まあそれは冗談として、刹那お兄様には合同討伐隊に入っていただきます。そして鬼の里を攻めてもらいます」


そう優畄達と鬼達が同盟を組もうと鬼の里に向かっている。その旨を知ったマリアが先に鬼の里を潰してしまおうと策略したのだ。


「…… なに、鬼の里を?」


「はい。目星は付けて有りますから現地で他のお方と合流して下さい」


そしてマリアは邪悪な笑みをその可愛らしい口元に浮かべると、刹那の反応を楽しむ様に口を開いた。


「お兄様達は私の玩具、だから私の許可なく勝手に死なれては困るのです」


「……」


そしてマリアは邪悪な笑みと共に、彼女に殴り掛かろうとした刹那達を討伐隊が集まる精神会館へと転送した。


次の瞬間には無人の精神会館の玄関の前に居た刹那。誰かに殴り掛かる形で体の動きが止まっている。


自分達が本当にマリアにとってただの暇つぶしの玩具である事を実感すると共に、やるせない思いが彼の胸を締め付ける。


「…… お、俺達は自らの死地すら決められないのか……」


力なく腕を下ろす刹那。そんな彼の心の傷口を癒す様にマリーダが優しく抱きしめる。


「また、また生き長らえる事が出来た。私はそれだけで満足よ……」


「…… マリーダ……」


しばし抱き合っていた2人だったが、2人の様子を伺っていた第三者の声で現実に引き戻される。


「おっ、見覚えのある気配に来てみればお前たちか。もう皆んな集まっている。邪魔して悪いが会議室へ来てくれ」



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る