第143話 対黒石刹那戦1
突然ボブが“霧楽"と戦うと言い出したのだ。
「ヤトバでは強過ぎて彼では戦力に差があり過ぎま〜ス。だから私シ位が丁度いいので〜ス」
“夜鶴姥童子“の事をヤトバと呼べる程に仲良くなっていたボブ。
“夜鶴姥童子“と“霧楽"が戦えば間違いなく彼は殺されるだろう。実際に“夜鶴姥童子“としょっちゅ戦っているボブは計4度死んでいる。
まあ本人は死んでも次の瞬間には生き返るため、自身が死んでいる事に気付いていないのでよしとしても、他の者は生き返る事は出来ないため、戦闘経験も多く手加減が出来る彼が名乗りをあげたのだ。
「ぬっ、確かに。我が戦ったのでは力を推し量る前にこの者が死んでしまうか…… 分かった、ボブ殿がそう言うなら頼み申した」
“夜鶴姥童子“の言葉は鬼達の間では絶対、鬼達がボブと“霧楽"の戦いを見守る事に。
「さあ、どこからでもかかって来なさ〜イ!」
ボブは構えるでもなく、海の中の昆布の様にウネウネと自然体の構えだ。
そんな中でも読書を続ける千姫の幻影に話しかける刻羽童子。
「愛しの君よ、君の使い魔が戦うだしいぞ。そんな読書なぞ止めてオイラと一緒に観よう」
そんな彼を無視して読書を続ける幻影。刻羽童子もそれに気付く事なく話し続ける。
やはり鬼族は単細胞の脳タリンの様だ……
一方、ボブに相対する“霧楽"は真剣そのもの。
「…… (“夜鶴姥童子“殿と戦わずに済んだ事は良かったが…… こ、この様な人間? などと私をバカにしているのか?)
いくら何でも人間? が相手などとナメるなとばかりに“霧楽"がボブ目掛けて走り出す。
“霧楽"は“夜鶴姥童子“達、雲州鬼族の鬼に比べれば遥かに弱いが、それでも鬼は鬼。常人を遥かに凌駕するだけの力は持っている。
彼はウネウネしているボブに正拳突きを放っていく。どうやら体術の心得があるだしく、なかなか様になった正拳突きだ。
だがボブはその場から動く事なく彼の攻撃をウネウネと交わす。
「おっ出た、ボブ殿のクネクネディフェンス!」
「謎、謎、謎、何故あれで交わせるのだ?!」
赤蛇達もボブとの対戦でやられているため、彼等達の間ではクネクネディフェンスとして有名なのだ。
「クッ、な、ナメるな!」
一向に攻撃が当たらず、ナメられていると激昂した“霧楽"が霧になる能力を使いながらボブに連撃を放っていく。
それでもこの世に在らざる存在を見極める事が出来るボブには通用せずに、彼の攻撃は虚しく空を切るばかりだ。
そして綺麗にカウンターの胴回し蹴りを喰らい吹き飛ばされてしまう。
「うむ流石はボブ殿だ、彼奴の体の動きを完全に見切っている」
勝負は決した。負けた“霧楽"は力なくうなだれてしまった。
「という事でこの地に貴様等の居場所はない。速やかにこの地から立ち去るがいい」
「クッ……」
勝負に負けた“霧楽"に“夜鶴姥童子“が冷酷にもそう言い放つ。【アマメハギ】の鬼達も皆一様に諦めモードだ。
「待つで〜ス、軽率な判断はァよくありませ〜ン」
「ムゥ、ボブ殿」
「彼はァ弱いで〜ス、しか〜シ伸びしろはァありま〜ス。この先戦力は必要になりま〜ス。私〜シが戦力になる様にィ鍛えあげてみせま〜ス」
「うむ確かに、黒石との決戦を前に戦力は必要。ここはボブ殿に任せるとしよう」
最近のボブの説法(御伽噺)に感化されている“夜鶴姥童子“以下鬼達、ボブの言う事なら盲目的に従ってしまう。
いつの間にやら鬼達の教師の様な立場になっていたボブ。それに根が単純で単細胞な鬼達は騙されやすいのだ。
こうして鬼の里に新たな仲間が加わった。そして後に足蹴り鬼と呼ばれる蹴り技ばかりを使う鬼の集団が現れるのだ。
ーー
その頃帰路を目指す優畄達の前にある人物が立ち塞がった。黒いバイクの前に立ち優畄達の進路を塞ぐ。
それは黒石刹那とマリーダの2人組だ。
「…… 刹那…… どうしてこの道が分かった」
「…… 俺の能力【ヴァスキ】という魔人に“道導“という一度会った事が有る者のおおまかな居場所が分かる能力がある。小回りの効くバイクで先回りさせてもらった」
久しぶりに会う戦友は、幾多の困難を乗り越えて来た歴戦の戦士の様に哀愁漂う顔付きをする男に成っていた。
そして刹那はそれ以上会話は不必要とばかりに魔人の【アルグ.スーンドラ】へと変化したのだ。
身の丈3m、頭には左右の眉間に角が生えており、三つ編みの髪には眩いばかりの光系が編み込まれている。そして腕が6本ある。
それぞれ第1の腕に【チャクラム】、第2の腕に【雷槍ヴァジュラム】、第3の腕に【火炎剣ミカド】、第4の腕に【命の聖水入りの壺】、第5の腕に【月光の曲刀アミュレーター】、第6の腕には【天開宝輪】が握られている。
この魔人はかつて有った並行世界に実在した最高位の魔人で、魔人の長とも呼ばれるその強さは、全ての魔人の能力を扱える究極の魔人。
刹那はこれまでに積極的に討伐の依頼を受けて来た。中には刹那達を遥かに上回る相手もいた。
そんな相手でも逃げ出さずに、自分達の使える知恵と能力をフル活用して打ち倒してきたのだ。
それはマリーダとの未来のため、黒石の色濃い闇の中で生き残るため、彼は幾度となく死に掛けながらも生き残り戦い続けて来たのだ。
今の刹那の黒石の闇との融合率は95%、力を手に入れつつ、自我を保ってているのは彼のマリーダを思う心。
それだけが彼を、彼の意思を繋ぎ止めて居る全てだ。
「…… 優畄、俺はマリーダとの明日のため未来のためにお前に勝って前に進む。だから……」
友達ごっこはもういい、俺は全力でお前を倒しに行く。刹那は最後まで言葉を紡ぐ事なく電光石火の速さで斬りかかってくる。
振り下ろすのは月の魔力を切れ味に変えて、ダイヤモンドすら両断する【月光の曲刀アミュレーター】だ。
「ああ刹那、言葉はいらない! 俺も全力でお前の相手をするよ」
刹那の攻撃を【硬化】の能力で神世の鉱石、ヒヒイロカネのレベルにまで高度を上げた手刀でそらして防ぐと、その指先から光を凝縮させて瞬間最高温度1万度の光線を放つ。
超超高温ではあるが、刹那の一瞬の間だけなので害はない。
この光線の名は【神閃】。かつて天空を駆け回り悪を滅ぼしていた神龍【遷宮】(センクウ)の能力で、黒石に我が子を人質に取られ滅ぼされた彼の霊体が悪霊と化していたため、彼の殺された子供と共に光の力で浄化し昇天させてあげたのだ。
その時にお礼として授かった力がこの【神閃】だ。
光線といっても裁縫針程の細さの光線で貫通力に特化した技だ。そして小山程度なら軽々と貫通する威力を誇る。
優畄がこの能力を使った理由は、彼の手足を射抜き戦闘不能に追い込むため。
「ナメるな!」
優畄に情けをかけられた刹那が、第6の腕に持つ扇状の【天開宝輪】を顔前に展開する
展開された【天開宝輪】は円形の盾の様に変化すると、優畄が放った【神閃】を弾き飛ばした。
四散した光線の一筋が森一面を焼き切り、30m程に渡って木々を凪倒した。
この【天開宝輪】はこの世に存在する全ての万物を防ぐといわれる究極の盾だ。だが究極故に一度使えば1分程のリキャストタイムを必要とし、攻撃を弾けるのも正面のみと制約も大きい。
だがその制約すら苦にならない程破格の性能だ。
そして刹那は【天開宝輪】が解ける寸前に後方へ飛び退きつつ、第2の腕に持つ【雷槍ヴァジュラム】を優畄目掛けて投げ付けた。
「むっ!」
万来の雷となりて優畄に迫る【雷槍ヴァジュラム】、いくら超越者の優畄でもまともに食らえばタダでは済まない。
そしてタイミング的にも交わす事は難しい。ならばと優畄は、【次元遮断】という次元の狭間に住むといわれる【可楽理】の能力を使う。
【可楽理】は歌が好きな非常に美声を持った美しい種族だったが、その美しさと美声のため黒石に目を付けられ、その結果乱獲され滅びてしまった種族だ。
この能力は、自身の前の空間を次元で遮断する事が出来る。刹那の放った【雷槍ヴァジュラム】は優畄の全面に開いた異空間に飲み込まれ、その背後に開いた出口から飛び出して背後の森に雷の雨が降り注がせた。
一進一退の攻防、更に激化していく2人の衝突に大気が音を立てて軋む。
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