第142話 一瀉千里


鬼の里へは車で向かうのだが、なるべく人の居ない道を選び進んだため、どおしても遠回りに成ってしまう。


ほとんど車が走らない様な山の道を進んで行くと、かなりの確率で小さな神社仏閣が有り、あえてそれらの建物に立ち寄る様にしていた。


何故ならそこには黒石に虐げられていた惟神や魔の者などが優畄とに会うべく集まって居るからだ。


集まる者達は決して強くはない。弱小な者達だが黒石に家族や仲間、恋人などを奪われた恨みを持つ者達。


彼等に黒石と戦う力は無い、その為優畄達に力を託そうと集まっているのだ。


優畄達光の御子の誕生は黒石に恨みを抱く彼等の間にあっという間に広まった。そしてそれぞれに声を掛け合い彼等のテリトリーでもある神社仏閣に集まったのだ。


『光の御子よ、我等は力を持たぬ弱者なれど黒石の為に戦う決意溢れる者達。打倒黒石! どうか我等の願い叶えてくだされ』


人と違い長命種である彼等の決意は硬い。例え優畄達がNOと言ってもその決意を変えはしないだろう。


千姫の方に振り向き確認を取ると、彼女も頷く。


「その者達の決意は本物じゃ。皆の願いを叶えてやってくれ」


千姫は対黒石の急先鋒、彼女も彼等の無念を憂いているのだ。それに優畄達にとっても決戦に向けてのパワーアップは有難い。


不敬かも知れないが今は少しでも力を持って蓄えておきたいのだ。


「…… 分かりました、皆さんの思い僕達が受け継ぎます」


『おお光の御子よ! 我等の願い聞き受けていただき感謝する。どうか我等の無念を晴らしてくだされ』


彼等が歓喜と共に光の粒子に変わっていく、そして優畄とヒナの中に吸収されて行く。


これで5度目の融合を果たした優畄達。吸収した者達の数はおよそ1153体、そしてその内の三割程が能力の持ち主だったのだ。


黒石への恨みで悪霊や悪鬼と化していた者達も彼等の光の力で浄化して取り込んでいる。父親の勇之助から授かった力がそれを可能とさせた。


それ程までに黒石に恨みを抱く者達が居たという事。


これらの行為は黒石の力の源の恨みや妬み、憤怒など負の力の黒石への流入を防ぐ事にも成る。ある意味で対黒石の特効薬の様なもの。


今まで集めていた恨み辛みの闇の力の根源が、一気に優畄達光の力となる。今までの悪行が完全に裏目に出たのだ。


「…… 皆の意思しかと受け取った。皆んな、俺達中で見守っていてくれ」


「…… 皆の意思は無駄にしないよ」


2人とリンクが繋がっているルナにも僅かばかりな力が流入した様で、小さくガッツポーズを作ってやる気満々といった感じだ。


だが、そんな光の御子として遥かにパワーアップした優畄達の前に、立ち塞がる者がいた。


ーー


その頃、黒石関連のある研究所である人物が復活を果たしていた。


50mを超える漆黒の巨大な巨人の体に重々しい機械の腕と脚が取り付けられている。頭にも何かの機械が取り付けられており、その意思は無い。


それは先の優畄達の討伐に失敗し、重症を負っていた黒石高尚の姿である。


種族は鋼鉄の魔人【ギガノマキア】、最高ランクの巨人では無いが、その鋼鉄の頑強さと鋼の拳から繰り出される破壊力は小山をも一撃で消し飛ばす威力。


彼は開頭手術によって頭に遠隔操作の細工を施されている。


度重なる強化の末に自我を忘れてしまい、空腹と暴力性の本能のみが残った彼。結果、彼は守るべき最愛の者を殺し貪り食べてしまったのだ……


本能の化け物と化した彼を危険と見た陣斗が、彼から完全に意思を奪い自身の脳と直接リンクする様にプログラムした。


陣斗にして見れば、妻子を殺し貪り食べた彼を自身の好きな様に弄れる口実が出来た、ただそれだけの事。


魔の者を使った実験では長くリンクし過ぎると脳に負担がかかり過ぎ、脳細胞が焼け、鼻や口から泡を出しながら死んでしまった……


まあそれも長くリンクしなければ良いだけの事。


哀れな巨人は最愛の者も自身の意思さえ奪われてしまい、陣斗の完全な操り人形と化してしまったのだ。


「この鋼鉄の肉体と私の頭脳が有りさえすれば……」


いつも感情を表に出さない陣斗が眼帯で覆われ、以前は目が有った眼底の前で拳を握り締める。


「待っていろよ優畄、必ずお前は私が殺してくれる! フハハハハハハハハ〜!!」


陣斗の狂った様な笑い声が響く中、物言わぬ鋼鉄の巨人は何を思うか、空を見つめ続けていた。


ーー


場所は変わり成田国際空港、チベットの山岳地帯に住むと云われる【ング.リャンホー】と呼ばれる冥界人の討伐から戻った黒石ひなたが、相棒の十兵衛と共に飛行機から降り立った。


「チッ、最近はやたらと海外遠征が多いと思っていたら今度は強制帰還か、やりきれんな」


突然呼び戻された事で怒りを露わにする彼女。


「姫、ここで暴れてはなりませんぞ」


「それぐらい分かってるよ」


ひなたは以前にも癇癪を起こして村ごと里を消し飛ばした事があるため、十兵衛は心配しているのだ。


「なら良いのですが、もし我慢ならぬ時はこの体を……」


「全く、だから最初っから私に任せておけばよかったんだ」


ひなたが十兵衛を無視して話を続ける。その放置プレイも(彼が勝手にそう思っている……)彼を喜ばせる一因だ。


彼女達は【ング.リャンホー】の討伐をまだ完了した訳ではない。それは本家からの合同討伐隊の敗退の情報と帰還命令が下りたからだ。


【ング.リャンホー】は不死の秘術を持つと云われている種族で、亜神レベルの力を有している。


地元では神として崇められており、倒すのは容易なことでは無い。だが、ひなたと十兵衛の2人はその一族を追い込む寸前までいっていた。


ひなたは最初、いの一番に優畄の討伐に乗り出そうとしていたが、黒石の本家は黒石晶真等の合同討伐隊が負けるとは思って居なかったため、当主候補で1番力のある彼女を強敵の討伐に送り出したのだ。


それがまさかの敗退を受け、急遽呼び戻されたという訳だ。そうゆう訳で彼女の怒りもひとしおなのだ。


「この鬱憤を優畄の野郎で晴らしてやる! さあ早く行くぞ十兵衛!」


「了解!」


最大戦力の投入といえば見栄えは良いが、黒石から見れば権左郎が転生する間のただの時間稼ぎでしかない。


その事実を知る由もない彼女達は一路、優畄達が逃げたと思われる北方に向かうのだった。


ーー


一方、優畄達が向かっている鬼の里では、かつて黒石にこの地を追われた奥羽の鬼の【アマメハギ】一族の生き残りが同盟を結ぼうと訪れていた。


その数は20人程か、彼等の中には女子や子供まで居るため、切羽詰まった状態だという事が伺える。


「ここに雲州鬼族の方々が住み着いたと聞き及び馳せ参じました。一度は黒石に追われこの地を去ったとはいえ、我等が故郷。どうか我等と共闘をお頼み申す」



彼等の代表の名は“霧楽"(キラ)、体を10秒だけ霧にする能力を持った鬼だ。


この【アマメハギ】の種族の鬼達の中で能力を使え戦えるのは彼を含めて5人程。そのため今は長代行の地位に着いているのだ。


「ふん! 元の住民だかなんだか知らんが、ここは今アタイ等の国なんだ、余所者は帰りな!」


「無用、無用、無用、主等なぞいらぬは」



「そこをなんとか! せ、せめて話だけでも聞いていただきたい!」


長の“霧楽"が深々と頭を下げる。だが、その様な礼など要らぬとばかりに“夜鶴姥童子"が彼等の前に立ち塞がる。


「礼など要らぬ! 我等鬼にとっては強さこそ全て、この地に住みたいのなら我と戦いそれを示せ!」


力こそ至上主義の“夜鶴姥童子“が“霧楽"にこの地に住みたくば戦い、力を示せと言うのだ。


「そ、それは……」


だが“夜鶴姥童子“は鬼族の間では強いと有名な闘鬼だ、彼と戦う事はイコール死を意味している。


「どうした? 戦えぬと言うのなら立ち去ってもらって結構、我は弱者には用は無いゆえなあ」


「クッ……」


戦えば死。かと言って立ち去ったとしても、黒石の組織的な討伐で一族郎党は滅び去るだろう。


長の“霧楽"が決意を固めて“夜鶴姥童子“との戦いに挑もうと前に出ようとしたその時ーー


「まって下さ〜イ“夜鶴姥童子“殿、拙者が代わりに戦いま〜ス!」


ーー突然、ボブが代わりに戦うと言い出したのだ。





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