第140話 再生
ルナの精神体を助け出し元の世界に戻って来た優畄達だったが、千姫が過労で倒れたと聞き駆け付ける。
「千姫さん、大丈夫ですか?!」
「白いお姉さん無理しちゃダメだよ」
千姫は巨大な葉っぱのベッドに横になっており、その顔色は思いのほか良さそうだ。
「すまぬな、ちょっと霊力を使い過ぎたようじゃ……」
“冥道心界“の使用で霊力を使い過ぎてダウンしてしまったのだ。
『“冥道心界“の術は予想以上に霊力を使うズラ、千姫さは3日は動けんズラ。その間ここでゆっくりして行ってくれズラ』
この金太の【仙狸】一族も黒石との争いで何体もの同胞を失っている。そのため黒石との戦う者には全面的に協力体制なのだ。
「俺達のために…… 今はゆっくりと休んでいてください千姫さん」
「ゆっくり休んで白いお姉さん。お見舞いにアイス買って来てあげる」
「うむ。妾の事はよいからルナを連れて気晴らしに町にでも行って来るとよいのじゃ」
千姫のおかげでルナは黒石との、マリアとの繋がりが切れて10日で死ぬという事は無くなった。
それを知ってか知らずか、優畄達が千姫の見舞いをしている間、ルナは青い綺麗な鳥を追いかけて走り回っている。
ルナとリンクが繋がっているため彼女から楽しいという感情が伝わってくる。
「そろそろお腹も空いたし、お言葉に甘えるとしよう」
「うん、ルナと一緒にラーメンを食べに行こう!」
優畄達は千姫に霊力を抑える結界を掛けてもらっている。そのためこの神社の有る町のラーメン屋にラーメンを食べに行く事にした。
「…… ら、ラーメン?……」
ルナとはリンクが繋がってから彼女の感情がよく伝わってくる。それと共に僅かずつだが話す事も出来る様になった。
彼女はラーメンを食べた事がないらしく、今度はワクワクという感情が伝わってくる。
「フフフ、最初の頃のヒナみたいだね」
磯外村でカップラーメンだが、初めてラーメンを食べた時のヒナを思い出して笑ってしまう優畄。
「あの時は本当に嬉しかったんだもん。今のルナも私と同じ気持ちなのかな」
当時を思い出したのか少し恥ずかし気なヒナ。
「俺達で今までの地獄の様だったこれまでの記憶を楽しいものに塗り替えてやろうぜ」
「うん。これからルナは沢山楽しい思い出を作って行くんだから」
彼女の心が元に戻るかは分からないが、今までの記憶を塗り替える様に彼女には楽しい思い出を沢山作って欲しい。
黒石に追われ戦っている今だからこそ強くそう思うのだ。
ルナが初めてラーメンを食べた時の感想は、「こんな美味しいもの知らなかった!」だ。
彼女もヒナ宜しくラーメンを好きになった様でよかった。
ルナとラーメンを食べた帰り、優畄達はいろんな所へ寄り道をした。ゲームセンターだったり本屋や服屋など、今までルナが行った事の無い場所に彼女を連れて行く。
黒石の者に見つかるリスクは勿論あるが、それでも彼女にいろいろ経験させてあげたいのだ。
彼女は今まで経験した事の無い事を精一杯堪能して楽しんでいる。
「ルナ、楽しかった?」
「……うん、楽しかった」
優畄相手には少しぎこちないが、返事もちゃんと返してくれる様になった。
「大丈夫。ルナもその内に優畄に慣れて来るわよ」
「ああ、焦る事はない。ゆっくりでいいんだ」
これからは石黒の包囲網も厳しくなっていくだろう。それでもこの安らぎの一時だけは失いたくない。
もうこれから先には有るかどうか分からないこの安らぎの時間を、彼女達と堪能するのだ。
アイスクリームのお土産と共に千姫の元に帰ると、彼女も少し元気を取り戻しており、優畄達を出迎えてくれた。
「ダメですよ千姫さん、安静にしてなくちゃ」
「はい、アイスクリーム買って来たから食べて安静にしていて」
「う〜む、どうもジッとしているのは落ち着かないのじゃ……」
比較的アクティブな千姫、ジッとしているのは性に合わないのだ。
コンビニでアイスクリームと共に夕飯のお弁当も買って来た優畄達。まだお弁当を食べるには早いので、トランプやリバーシブルで時間を潰して食べる事にした。
ルナもあっという間に覚えてしまい楽しそうに遊んでいる
「ババ抜き……面白……い」
拙いながらも自分の気持ちを言葉にする様にもなって来た彼女。彼女はババ抜きや大貧民が好きで、神経衰弱などの記憶系が苦手な様だ。
【仙狸】族の金太も加わってのトランプ大会はルナの意向もあり、2時間に渡って行われた。
「そろそろお腹が空いたね、夕飯にしようか」
「ルナはどのお弁当が食べたい?」
お弁当の種類はハンバーグ弁当に焼肉弁当、幕内に海鮮丼とバラエティに飛んだラインナップだ。
ルナはどれも食べた事が無いらしく、今回はハンバーグ弁当を食べる事に。
「…… ハンバーグ、美味しい」
彼女が喜んでいる事がリンクによって伝わって来る。最後にデザートのアイスクリームを食べてルナも満足した様に寝息を立てている。
「フフフフッ寝入っちゃったね。本当に子供の様だ」
「それだけ安らげているって事ね。おやすみなさいルナ」
ヒナはルナの頭をそっと撫でてあげる。そうすると眠りながらも、何とも心地良さそうに可愛らしい笑顔で応えてくれた。
3日後には鬼の里に向けて出立しなくてはならない。向こうに行けば激動の日々が始まると思う。それまではせめて、彼女に楽しい思い出を作ってもらいたい。
ーー
その頃、優畄達を相手にして大惨敗だった討伐隊。予想以上の優畄達の強さに退かざるおえなかった彼等は一様に意気消沈していた。
「まさかこの戦力であそこまでワンサイドに成るとはね、まあ彼の強さが分かっただけよしとしたいが……」
敗退はしたが優畄達の戦力が垣間見れただけでも良しと思っている彼。
(あの彼を止めるには黒石総出でも厳しいんじゃないかな。まあこの機会に自分の兵隊を増やすとしよう。僕は目的の為にこの機会を利用させてもらうさ)
基本ポジティブな晶真はこの機会に更なる自兵の強化をしようと動きだす。
ーー
方や優畄達と直接戦った七彩は優畄を相手にまるで歯が立たなかった現状に落胆必至だ。
(…… あ、アレは私達とは違う全く異質な力だったわ、黒石優畄は悪魔か神になったとでも言うの……)
いつもは強気な七彩が何とも弱腰な言葉を吐く。
それまで弱った魔の者か格下ばかりを相手にして来た彼女、今回の優畄との戦いで圧倒的なまでにその力の差を認識すると共に恐怖を覚えたのだ。
優畄の強さはお嬢様の鼻っ柱をへし折るのに十分だった様だ。
それに今まで無かった自身の【授皇人形】のフィリスへの複雑な気持ち……
「すみませんお嬢様、私が不甲斐ないばかりに……」
「そ、そうよ。研究所が破壊されて、あ、貴方の代わりは作れないんだから、し、死んだりしたら承知しないんだから!」
「はっ! 申し訳ありません」
典型的なツンデレな七彩お嬢様。まあ超絶イケメソが自らの命も顧みず彼女の盾に入ってくれたのだ、その状況で好きにならない訳がない。
ーー
一方、ルナを1人残して逃げ出した黒石晶は【黒真戯 】を借りようとマリアの元に向かっていた。
(あの人形はダメだ、使えん。こうなったらまた【黒真戯 】をマリアから借りてこの借りを返してやる!)
正直無能だがプライドだけは人一倍高い晶、昔は優しかった母親も、彼が当主候補に選ばれなかった事で、今では隠し子の将ノ佐の方にばかりご執心だ。
(…… ママは最近あのガキの事しか考えていない。チッ、クソガキめ! 僕のママを奪いやがって。何とか活躍して、もう一度ママに振り向いてもらうんだ)
彼が芸能界で活躍したり退魔士として活躍している背景には母親の女帝、黒石美智子にもう一度振り向いてもらうため、それだけの為に彼はやりたくも無い仕事をしているのだ。
(…… 憂さ晴らしにあの人形を残しておくべきだったか…… チッ、どうしてこう思う様に行かないんだ……)
ブツブツ呟きながらマリアの部屋に向かう晶、最近ストレスで抜け毛が目立って来たのも彼を苛立たせる要因だ。
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