第132話 巨人の咆哮


瑠璃鞠ちゃん(ちなみに彼女は買い置きしておいた食料と共にマンションの様な次元に引き篭もっているから安全だ) からの情報で鬼の里にて、対黒石のための秘策を練る千姫。


(優畄が黒石に妨げられていた者達の力を取り入れて破邪の力に目覚めた今、戦力増強のための同盟を鬼達と結ぶのじゃ!)


そう鬼達との同盟、これこそが千姫が考える対黒石の対策だ。その為に彼女はこの鬼の里に残っていたのだから。


だがそうは言っても優畄は元黒石の者。鬼達にとっては天敵、最悪の場合は争い合う事に成るかも知れない。


それでも強大な黒石の闇に抵抗する為にはどうしても必要な事なのだ。


優畄達の居場所は分かれる時に彼等に仕込んだ''赤導系''という目に見えず霊的な何処までも伸びる糸を辿って行けば、難なく見つけ出す事は可能だ。


(問題はどうやってまたここから離れるかじゃが……)


千姫がレゲエのリズムで揺れているボブを見る。彼に鬼達の相手をしてもらいその隙に再び優畄達の元に行く算段だ。


ボブは役一体を除いて、鬼達からの信頼をこの短期間に獲得している。


実はボブがこの鬼の里に来てから彼の強さに惹かれた夜鶴姥童子と数度戦っているのだ。その過程で3度死んだボブはパワーアップしており、今では夜鶴姥童子も彼を強者と認める程に強く成っている。


そして鬼の里での滞在を許しているのだ。


まだ夜鶴姥童子には及ばないが、彼と戦っても死ぬ事はなくなり、彼の憂さ晴らしにもなっているのだ。


後は千姫のアドバイス通りに腐獅子と美穂の畑を手伝ったり、お婆ちゃんから聞いた御伽噺(故郷がジャマイカな為ブードゥー関係のお話)を聞かせて手懐けたりしている。


頭が悪く楽観的な鬼達を懐柔する事なぞ千姫には朝飯前なのだ。


そんなボブはいま夜鶴姥童子と戦っている。


「ボブ殿、一手合わせ願えるかな?」


「いえ〜ス! OKで〜ス」


今ではボブの事をボブ殿と呼ぶ程に彼を認めている夜鶴姥童子。これも千姫の荒治療が功を奏した結果だ。


鬼達に絶対的強弱の康之助を見せる事で、安易に攻め込まなく成ったのと、天上天下唯我独尊な夜鶴姥童子の鼻っ柱をへし折る事にも成功した。


その件以来、仲間を大切にして弱者を見下さなくなったのも成長と言えるだろう。


それと並行して鬼達の強化も行っている。本来敵対する鬼達を強くする必要はなかった。だが事情が変わって来た今、使い魔によって悪さを働いている人間を集めさせ餌として与えているのだ。


鬼は人を食べた分だけ強くなる。人間には悪いが、悪人だけ厳選しているので勘弁してほしい。


そういう事でボブに鬼達の相手をしてもらう事にしたのだ。その旨をボブに神通力で伝えた所、サムズアップと共に『優畄さんによろしくで〜ス!』と返って来る。


(ボブよすまぬ。この仮は必ず返すからのう)


そして千姫は再び自身の幻術を作ると、その体を鶴に変え飛び去っていった。


ーーー


その頃優畄達は黒石の組織的な包囲網に四苦八苦していた。


黒石将ノ佐から位置情報を得た黒石が大きな都会へ通じる道をことごとく封鎖しているからだ。


バイクを藪に隠して遠くまで見晴らせる岩肌の上から様子を伺う優畄達。


「……あの道も封鎖されているね」


【鵙紀飛】という種族の"遠視眼''という視力を強化する能力で遠方を見る。まるで望遠鏡で覗いたかの様に遠景が見れる便利な能力。


この能力は遠景から人間達の暮らしを眺めて楽しんでいた事で、反旗の疑いありと家族を黒石に皆殺しにされた【鵙紀飛】族の女性が与えてくれた力だ。


ちなみに優畄が使える能力はヒナも使える様で本当に便利な能力だ。彼等の意思を無駄にしない為にも何としてでも生き残らなければならない。


そして黒石は2人乗りのバイクを重点的に探している様で、ツーリング中のバイカーが検問で止められている。


バイクを隠してある藪の所まで来た優畄達。



「…… これでバイクでの移動も難しくなったね」


「今の私達なら徒歩や走りでも問題ないけど……これじゃあ東京に行けないよ……」


優畄から聞いて都会に行って見たかったヒナがとても残念そうにこぼす。


黒石は地元の警察まで動員して半径50km毎に陣を敷いており、山道でも突破は難しそうだ。


「ここは一旦引き返そう、そして時間を置いて改めて行こう」


「ぷぅ〜…… 仕方ないね、見つかるよりはいいもんね」


ヒナが今まで乗っていたバイク''ヴァルキリー号''のシートに名残惜しそうに手を乗せて別れをする。


「もう運転してやれないけど、今までありがとうね」


「一旦最後に通った町まで引き返そう。あそこで色々買い置きをして作戦を立てるんだ」


そんな優畄達を影から伺う者がいた。カナブン程の大きさの昆虫だが、明らかにその挙動がおかしい。


優畄達も自分達を見ている存在に気付いた様で辺りをキョロキョロと伺っている。


「ヒナ!」


「うん!」


そんな優畄達に巨石の砲撃が襲い狂う。まるで隕石の様に1m大の巨石が飛んで来るのだ。ピョンピョンとその巨石による砲撃を交わしていく2人。


そして山を覆う程の巨体と影を揺らしながら姿を表したのは【激怒巨人ギガノトス】。体長40mの巨体に、左右両側に4本ずつの腕を持つ一つ目の巨人だ。


『黒石優畄にヒナだな? お前達に恨みはないがここで討伐させていただく!』


「黒石の能力者か!」


巨人ならではの野太い声で宣線布告する高尚。


この巨人は黒石高尚が変化した姿なのだが、彼は黒石の闇を注ぎ込む事によってパワーアップされており、従来変化出来ないはずの【ギガノトス】に変化出来る様に成っていた。


【ギガノトス】の攻撃手段は殴る蹴るなどの原始的なものだが、その巨体から放たれる攻撃は脅威の一言。そして【ギガノトス】最強の技、一つ目から放たれる破壊光線''イラ.カトゥーラ''(怒りの一撃)は、小山なら消し飛ばせる程の威力を誇り、その射程も500mと脅威的だ。


そしてこの巨人に変化している黒石高尚は元格闘家である。それだけでこの巨人の強さが伺える。


【ギガノトス】は巨人にしては早いパンチで優畄達を攻撃してくる。2人は後方に飛び退く事でその攻撃を交わす。


だが流石は元格闘家、巨人には似つかわしくない流れる様な連撃に、優畄達はある能力で対応する。


それは【森小人】の能力で''避役擬装''という能力だ。自身の体をカメレオンの様に擬装して森林に溶け込む能力。


彼等【森小人】族はその便利な能力のため黒石の捕獲対象となってしまいただ1人を残して絶滅してしまったのだ。


そのたった1人の生き残りが優畄達に全てを託したのだ。


黒石が欲しがった能力だけあり一度森と同化してしまえば見分けるのはほぼ不可能。


『ウヌヌヌ、己ぇ!』


優畄達を完全に見失ってしまった【ギガノトス】が目を見開き、辺り構わず能力の"イラ.カトゥーラ''を放つ。


ズドドドドドドーー!! とばかりにその破壊光線を受けた地表が爆散する。時間にしてやく1分、破壊光線の照射が終わった地面がまるで蛇が這いずり回ったかの様に抉れている。


この見境の無い攻撃もひとみのために高尚がガムシャラに成った結果だ。


破壊光線の照射を終えて辺りを見回すが、辺りに人の気配は無い。どうやら優畄達に逃げられた様子。


『グガガガッガアァァァ〜〜!!』


優畄達を逃した事で怒りの咆哮を上げる【ギガノトス】。


その光景を昆虫の使い魔越しに見るのは黒石陣斗。捕らえた魔の者から奪った能力"虫ノ知らせ''で、昆虫を操りその映像を見ていたのだ。


この虫は霊力の強いモノに寄り付く性質があり、優畄達の強い霊力に惹かれて寄って来たのだ。


「やはり高尚君1人では荷が重かったか……」


マリアから高尚1人では荷が重いので彼に援軍として参加する様に命令があったのだ。


仕方なく手助けしてはいるが、彼は高尚の事をモルモット程度にしか考えていない。


「優畄も変わった力を使う様に成っていたね、生捕にして頭を開いて見てみたいな…… 今度マリアに相談してみよう」


マッドサイエンティストの呟きを他所に、優畄達は後退を余儀なくされていた。











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