第129話 追われる者
沖縄のある離れ島、そこに刹那とマリーダの姿があった。
彼等がその島を訪れた目的は魔の者の討伐のだめだ。【水憐】という人魚の一族が今回の対象なのだが、この【水憐】は元人間だったのだが、不死をもたらすという太鼓の人魚の肉を喰らった人間が変質しこの魔の者になったといわれている。
その見た目は人の体に魚の頭という人魚というよりは半魚人に近い見た目だ。
だがその長だけは人の時の面影が残っていた。
「……えっ、コイツが長だと!?」
「き、綺麗……」
そう【水憐】の長は信じられない程に美しい見た目をした人魚だったのだ。水に濡れた漆黒の髪にはソバージュがかかっており、青白い肌と相まって妖艶な雰囲気を醸し出している。
だが赤く瞬く瞳と、美しい顔に不釣り合いな鋭い刃の様な歯が美しい顔と相反して悍ましい。
彼女は200年前黒石の当主候補として幾多の苦戦を生き抜き、当主候補に選ばれる寸前に恋人でもあった授皇人形を戦いで亡くした事で当主候補から脱落した者だ。
その過程で黒石の当主候補の成れの果てを垣間見た彼女は、自分達を利用した黒石に恨みを抱き太鼓の人魚の魔道具を用いて【水憐】へと転生したのだ。
だが【水憐】に転生しても不老不死にはならず、それどころか知能まで退化してしまうという悲惨な結末を迎えたのだ。
それでもこうして仲間とゆったりと暮らせていた彼女は、ある意味で幸せだったのかも知れない。
その長がかかれとばかりに刹那な達を指差す。その合図に一斉に襲い狂う【水憐】の群。
「……マリーダ行くぞ!」
「了解!」
正直当主候補でなくとも【水憐】は狩れた。だが当主候補の中で一段レベルの落ちる刹那の力を上げさせて、この当主候補レースを面白くする為にマリアがマッチメイクしたのだ。
彼の闇の侵食率が上がる様により恨みの念が濃い相手を選んで……
その数およそ50匹、刹那は最近変化出来るようになった魔人【ウェスチィ】に変化する。魔人【ウェスチィ】は風と雷の属性を持つ魔人だ。
6本ある腕全てに雷を帯電させた直径1mの円月輪を装備しており、【ウェスチィ】が使うスキル''チャクラム''は、半径10m四方の刹那が敵と認めた者に自動で襲い掛かる自動迎撃システムだ。
そしてもう一つのスキル"リグ.ヴェダ''は雷の竜巻を発生させるワザで、高速回転する雷の渦に巻き込まれた者は影も残らず消し飛ぶだろう。
「…… (今回の相手は''チャクラム''だけで良さそうだな)
最近刹那は能力を使うのをなるべく控える様にしている。それは【魔人変化】の特性でもある傲慢さが自身でも抑えられない程に強まっているからだ。
(…… 最近は特にそうだ、自分では抑えが効かない…… この傲慢さがマリーダを傷付けないか心配だ)
マリーダが彼の闇侵食率を高めて居る原因とも知らずに。
刹那の闇侵食率は60%程、彼も徐々に侵食されて行く心と体に戸惑いながらも生き残るために、そして優畄達との約束のため必死に耐えている。
優畄の様に光の力もなく、彼の精神は限界間近なのだ……
それが分かるだけにマリーダも彼のサポートに尽力している。
そんな彼の前にはもはや【水憐】の長しか残っておらず、恨みに燃える眼差しで彼等を見ている。
「……可哀想だがこれも運命だと思って諦めてくれ……」
彼女には仲間を増やすための繁殖能力は有るが戦闘能力は皆無だ。そのため人の姿に戻った刹那がマリーダから刀を借りて仕留める事にしたのだ。
怯える様に震えている彼女の胸に刀を突き刺す。しばらくビクビクと震えた後、彼女は死んだ。
「…… 」
無抵抗の者を殺しても傷まなくなった彼の胸、そんな彼の胸に飛び込んでいくマリーダ。
「刹那…… 大丈夫、私がついて居るからね……」
「……ああ大丈夫だ。まだ自我を保てているよ」
「刹那、帰ろ」
「……ああ帰ろう」
仕事を終えて刹那達が島から離れ様とボートを停めてある入江に来た時、彼等の前に黒石の使い魔の黒猫が現れたのだ。
「…… この猫は黒石の……」
そして手紙の内容を見た彼等に衝撃が走る。
「……!!」
『ーー黒石優畄、ヒナ両名の討伐を命ずる。対象の生死はとはない』そう優畄達への討伐命令だったのだ。
「…… 優畄達への討伐命令だ。このまま拒否する事は…… まず無理だろうな」
「そ、そんな……」
黒石からの命令は絶対。逆らう事は身の破滅を招くは必至。優畄達と別れてから数日、刹那達も痛い程にそれを分かっていた。
2人ともまた彼等に会えるのを楽しみにしていた。それを糧にこれまでの討伐もこなせて来たのだ。それが、次の再会が敵同士という事になるとは……
「…… 優畄、今度会う時は俺達は敵同士なんだな……」
望まぬ戦いに興じなければならなくなった刹那達。彼等が次に優畄達と会う時それは2人の再戦の時、それも敵同士として戦い合わねばならないのだ。
こうして6名の当主候補が優畄とヒナの討伐に動き出したのだ。
ーー
精神会館から出た優畄とヒナの2人。日中は移動に費やしておいた。追手の事も考えてなるべく精神会館から距離をとっておきたかったのだ。
2人が目指して居るのは都会だ。姿を隠すなら人混み程都合の良い場所はない。
田舎だと優畄とヒナの2人ではどうしても目立ってしまうのだ。特に北の地は黒石の力が強い地域なため、なるべく見つかるリスクは少なくしたい。
それでも1日で移動出来る距離には限りがある。夜通し走っても疲れる事は無いが、人としての営みを辞めたくは無かったのだ。人を超越した力を使えば移動も早い、が黒石に見つかるリスクはなるべく避けたいのが心情だ。
そして彼等が一晩の宿に選んだのは廃れた村の片隅にある廃校だ。そこで街を出る時に寄ったコンビニで買っておいたおにぎりと缶詰を食べる。
「お湯の用意が出来なかったからカップラーメンは買えなかったね」
ヒナの大好物のカップラーメン、お湯の用意が出来ないため買わなかったのだ。
「優畄と一緒ならこのおにぎりと缶詰だけでも美味しいよ」
「俺もヒナがいればなんでも美味しい」
まるでバカップルの様に寄り添い合いおにぎりを食べる2人。いやこんな時だからこそ寄り添い合っていたいのだ。
夏とはいえ田舎の夜は冷える。用心にと一枚だけ持って来た毛布に2人で包まり暖をとる。
外では鈴虫がリンリンと鳴いており、夏の終わりを感じさせる大合宿が心地良い。
優畄達に付いてきた優良な幽霊達も、2人を気遣い離れた所で屯している。
「なんかこうしていると、初めてヒナと一緒に乗り越えた磯外村での事を思い出すね」
あの時は右も左も分からぬままに村に連れて行かれ、ガムシャラに駆け回りなんとか生き延びたのだ。
「あの時は優畄の足を引っ張るだけだったけど、今は違うよ」
「ああ、今のヒナは頼りになる相棒だよ」
そして2人は交代で睡眠を取る事にした。やはり睡眠を取らなくては疲れも取れない。
優畄もヒナ達にバイクの運転を教わっているためバイクの運転も出来る。ヒナだけに負担を掛けたくないという思いで必死に覚えたのだ。
まあヒナの様にグイングインとバイクを倒してカーブを曲がる事は難しいが走る分には問題はない。
そして優畄は隣で眠るヒナの顔を見ながらこれから先の事を思う。
(…… ヒナと2人なら何だって出来る。どんな事が起きても2人で乗り越えてみせる。たとえそれが茨の道だとしても……)
そして2人は寄り添いながら夜を明かしたのだ。
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