第112話 対【闇寤ノ御子】1
黒石の討伐対象の選別はマリアの仕事だ。彼女が一任して討伐対象を黒石の能力者に振り分けている。
討伐対象のランクは一番下の常人よりは強いが基本人畜無害の''雑魚''から始まり、人間に害を与える"害悪''、1000人単位の人的被害を引き起こす''人滅''、都市レベルの災害を引き起こす''都墜し''、国家レベルの災害を引き起こす''国堕し''、そして世界規模の災害を引き起こす最上警戒の''世滅''まで6段階ある。
黒雨島の幽鬼が第2段階の''害悪''。上位3体が''人滅''級。鬼達なら[夜鶴姥童子】が''都墜し''と''国堕し''の中間で残りの4体が''人滅''級だ。
今回優畄達が討伐する【闇寤ノ御子】は5段階で4段階目の''都堕''級だ。このレベルの討伐は本来康之助クラスの能力者がこなす仕事だ。
だが今回は優畄の方にこの討伐辞令が降りた。それはいい意味で鬼退治にもたついている優畄達への叱咤激励。悪い意味で「これくらいこなせなきゃ黒石の者として生きている意味ないでしょ」というマリアの意思表示なのだ。
それが分かるだけに優畄にかかる重圧は今までの比ではない。
(あの化け物が本気になれば俺たちを消すくらい訳はない…… そうなる前にあの化け物の呪縛から逃れる方法を探さなければならない)
優畄が恐れているのはマリアの強制転移の能力だ。その原理がどうゆう物なのか知る由もないが、これがある限りマリアに従うしか道はないのだ。
だからこそその呪縛から逃れる術を探さなければならないのだ。そしてその暁には黒石に反旗を翻す事に成るだろうと優畄は考えている。
その時のために打てる布石は打たなくてはならない。それと共に共に戦う仲間も必要になるだろう。
(仲間か…… ボブ辺りなら手を貸してくれそうな気もするが、どうだろう? あとは刹那達はどんな考えなんだろうか、今度会った時にそれとなく聞いてみよう。一番は康之助さんが強力してくれれば鬼に金棒なんだけどな……)
康之助は己の信念に生きる男だ。自分と向かう先が同じなら力を貸してくれるだろう。だが黒石に反旗を翻すとなると話は別だ。そうなれば逆に敵対する可能性もあるのだ。
「優畄どうしたの? そんな思い詰めた様な顔をして」
「い、いや、なんでもないんだ…… (いろいろ考えても頭がこんがらがるだけだ、今は自分に出来る事をしよう。今どうこうしようって事じゃない、焦らずそのチャンスを探るんだ)
「ふうん……」
ヒナの訝しむかの様な視線を誤魔化すに''NT.43''と細かい打ち合わせをする。それがさらにヒナさんの癇に障った様で拗ねてしまったが致し方なし。
ヒナさんの機嫌はあとで取るとして今は【闇寤ノ御子】の事が最優先なのだ。
討伐対象の【闇寤ノ御子】はいま藪雨村の神社にいると言う情報だ。奴は何故かその神社に留まり動こうとしない。
夜になればこちらが不利な事は必然、その前に倒してしまいたいこちらとしては助かる話しだ。
今は午前10時、今から藪雨村まではバイクなら片道2時間で着く距離だ。
という事で藪雨村まではバイクで向かうことになったのだが、その前に彼女の呼び方をなんとかしたい。流石に''NT.43''と認識番号で呼ぶのはしのびない。
「私の呼び名?」
「そう、流石に''NT.43''と呼ぶのは忍びないからね」
こんな事を言われたのは初めてだったのか目に見えて狼狽している。
「私はそのまま''NT.43''でも構いませんが……」
「じゃあ白髪だからお婆ちゃんなんてどお?」
「お婆ちゃんですか? う〜む……」
ヒナさんがライバル心剥き出に最悪な案を出すが、彼女の方は真剣に悩みだしてしまった。
「こらヒナ、意地悪しちゃダメだよ」
「ブ〜……」
どうやら彼女の事になるとムキになってしまうヒナさん。ラーメンの出番は近そうだ。
「それじゃあ君の目がラピスラズリーの様な綺麗な青色だから瑠璃なんてどお?」
「瑠璃ですか……」
名前なんて付けてもらった事がない彼女はどうしたらいいのか分からない様子。
「嫌なら断ってもいいんだよ。今回の作戦の間だけでもいいし、君の好きな様にしてくれ」
彼女はしばし悩む素振りを見せた後口を開く。
「……では瑠璃でお願いします」
最後にニカッと笑った彼女、その笑顔が作り笑いか本心のものかは分からないけど、一先ずは瑠璃という名前を気に入ってくれた様だ。
「時間は惜しい、早速村に向かおう」
とにかく【闇寤ノ御子】がいる藪雨村に向けてバイクで走り出す。
途中、案の定ヒナが瑠璃にレースを挑み優畄は恐る恐るヒナさんの腰にしがみ付いていたのは言うまでも無い……
ヒナと瑠璃のレースは瑠璃の勝ちで、とても悔しそうに地団駄を踏んでいるヒナさん。
そんな優畄達の雰囲気とは裏腹に藪雨村には人の気配は無くなんとも嫌な空気が流れている。
最近建ったばかりと思われる新しい家にも人の気配はない。
「……人の気配はないな……」
優畄が動物的感で探してみてもその痕跡は掴めない。それは例えるならば1人ずつではなく、一度に全ての住民が消えたそんな感じなのだ。
村全体を取り巻くあまりに奇妙な感覚に怯えたのかヒナが優畄の手をギュと握ってくる。
「…… と、とりあえず【闇寤ノ御子】がいると思われる藪雨神社に行ってみよう」
村には役場が一つと中小合同の学校が一校と後とはこじんまりとした商店があるだけの寂れた村だ。規模的にはあのグールのいた磯外村より小さいかも知れない。
藪雨神社はその村の北側、500m程の小高い山の頂上に建っている。神社までは石組の階段が10段単位で区切られ頂上まで続いている。
そしてその階段の一段目に足を乗せた瞬間、辺りの空気が変わった。真水を浴びせられたかの様に背中に鳥肌が走る。
「……こ、この感覚は、あの時駅で感じたのと同じ感覚!」
気付いた時には奴はいた。優畄達の5段上の階段に佇んで未計る様にこちらを伺っている。
そしてあの時と同じ様になんとも透き通る声で話し出したのだ。
『久しいな黒石の者よ、黒石としてこれまで生を繋いできた貴様を見に来てやったぞ』
漆黒の靄に包まれた異形の姿。写真ではない本体を前にしてあの時感じた恐怖が蘇ってくる。
『フム、あの時は混ざっていたが今は黒石の闇の方に染まつつあるな。自らが守る宝がその根元とも知らずに哀れなものだ』
【闇寤ノ御子】からは圧倒的強者の気配が漂っている。だがここに居る戦力で倒せない相手ではない。
優畄は魔獣の【ゴレアス】に変化して戦闘態勢に入る。ヒナも腰の刀"菊籬姫''と''虎牙丸''を抜く。
『ほうワシの''闇手''を受けてなお戦闘の意思が有るとは、余程の修羅場を潜り抜けてきた様だな』
優畄が【ゴレアス】の能力の一つ''王燐弾''を放つ。この能力は闘気を放つ技で、着弾時には半径3m四方が吹き飛ぶ程の威力を誇る。
優畄はボブとの練習でバレーボール大までの闘気弾を放てる様に成っており、先制や牽制にとその用途は広い。
【闇寤ノ御子】は''王燐弾''が足元に着弾すると共に後方に飛び退いていた。何故ならヒナと瑠璃の2人が同時に斬り掛かっていたからだ。
難なく2人の斬撃を交わす【闇寤ノ御子】、そして黒い靄の中赤く瞬く瞳で優畄を見る。
『肉弾戦を好むのか、貴様の変化も見事それに引っ張られておる。その変化した姿は貴様オリジナルのものだろう』
そんな余裕をかます【闇寤ノ御子】に優畄達が更に追い討ちをかけようとした時、彼が糸の様に闇を放ちそれが地中に突き刺さる。
そして人差し指をクイっと上にあげると、地中からあの磯外村で戦ったグール化した村人達が這い出て来たのだ。
「なっに!」
『一先ずコイツらを片付けてから上まで来い。そうしたら相手をしてやろう』
そう言い残すと【闇寤ノ御子】は黒い靄と共に姿を消した。
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