第111話 あるお嬢様の日常


あるお嬢様の日常。


私の名前は黒石七彩(15歳)、お父様は国会議員で母親は…… アレの事はどうでもよろしいわね、あの豚にしか興味がないのですから。


とにかく由緒正しきお家に生まれたお嬢様な私は蝶よ花よと育てられましたわ。


2人の兄に関しては幼い頃からどくな思い出が有りませんでしたわ。髪の毛を引っ張られたり、カエルを頭に乗せられたり散々でしたわね……。


10歳を過ぎた頃、私のお風呂を覗いた事で父に酷い折檻を受けてからは大人しく成ったけど、外では威張り散らしているのを何度か見ましたわ。本当に最悪で気持ち悪い兄でしたわ。


今その兄は家督を取り上げられて鬼の討伐に行かされているだしいけど、そのまま鬼に殺されて死んでしまえばいいのに。


確か真ん中にももう1人いた様な記憶が有るけどどうでもいいゴミね……


そんな私の今の楽しみといえばお手伝いの真弥をイジメて遊ぶことかしら。婚約者がいる彼女を私の授皇人形のフィレスに寝取らせてその反応を楽しむのが今1番の娯楽ね。


私のフィレスのイケメンプリは半端じゃありませんわ。まるで神話の世界から出てきた王子様の様な彼が、私の命令ならなんでもしますのよ。ゾクゾク来ちゃいますわ。


彼を使っては他に、同級生のカップルの相手を寝取らせて楽しんでいますの。フィレスは私以外とそうゆう事はしたくないと言うけど、冗談じゃない。


私は人形如きに抱ける様な安い女じゃありませんわ。私がそう言うと何とも悲しそうな顔を見せますの、そんな彼のジレンマを見ているのも楽しみの一つですわ。


そんな私の能力もかなりの物ですの。お父様曰く、変化系は選ばれた能力で七彩こそこの家の後継に相応しいと絶賛してくれましたわ。


ズビッズバッといった感じでカッコいいんですのよ。お父様に頼んでパワーレベリングもしてきましたわ。最初の相手は歩くトカゲの様な魔の者でしたけれどズビッズバッと切り裂いて差し上げましてよ。


それを何度か繰り返して私、だいぶ強くなりましたわ。


でも私、こんな家の家督くらいで満足する様な安い女じゃありませんの。その思いが通じたのか私が黒石の本家の当主候補になったと聞いた時は飛び上がって喜んだものですわ。



黒石家本家の当主なんて私にピッタリだと思いません?


私は決めましたわ。他にいる6人の候補を蹴散らして、必ず私が当主に成ってみせますわ!


そしてお嬢様の甲高い笑い声が屋敷にこだますのであった。


ーーー


一方、新たな助っ人の到着に沸き立つ優畄達だったが、助っ人と思わしき人物がフルフェイスを外した瞬間、彼等に衝撃が走る。


フルフェイスを外したその姿はヒナにそっくりな、いやそれどころかヒナそのものな姿をしていたのだ。


唯一の違いが髪の色と肌の色が真っ白な事か。俗にいうアルビノという症状だ。


「……き、君は……」


優畄の脳裏にあの時の記憶が蘇る。ヒナより先に生まれて、アルビノという理由だけで理不尽にも殺された授皇人形の少女の面影が。


(間違いない、この子はあの時撃ち殺されたあの少女……)


「……わ、私にそっくり……」


ヒナも自身に瓜二つな彼女に驚愕している様子。当の彼女は自分にそっくりなヒナを見ても優畄を見ても何にも感じていないのか反応が薄い。


そして彼女は優畄の前まで歩いて来ると、淡々とした様子でその口を開いた。


「貴方が黒石優畄様ですか? 私は本部から助っ人として参りました【黒真戯 】の''NT.43''です。よろしくお願いします」


なんとも機械的な挨拶をする彼女。


「えっ、N T?!」


「はい''N T.43''です」


「そ、そうじゃなくて、君の名前はなんていうんだい?」


「はい? ですから私の名前は''N T.43''ですが?」


「……」


どうやら彼女には認識番号と思われる''N T.43''という名前しか無い様だ……


彼女があの時の白い少女なのは間違い無い。初対面事の感覚はあの時彼女に初めて会った時と同じものだった。


その彼女がまるで、無機物のロボットの様に機械的な対応をしているのを見ていると、彼女を派遣したマリアに黒石の本質に虫唾が走ると共に抑えようの無い怒りが込み上げてくる。


「……優畄……」


ヒナも自身の前に最初の授皇人形がいた事は知っていた。その彼女がこんな形で自分達の前に現れた事で、優畄が放つ負の感情をヒナもヒシヒシと感じていた。



正面玄関に送れてやって来た康之助もヒナそっくりな彼女を見てその顔を曇らせる。


「…… マリアが言っていたのはこの事か、どこまでも腐りきった化け物共め」


康之助もヒナが優畄の最初の授皇人形でない事は、優畄から聞いて知っていた。そしてマッドサイエンティストの弟が死んだ授皇人形を使ってよからぬ実験を繰り返していた事もしっている。


そしてマリアがあの屋敷からかつて自身の時もそうだった様に、水晶玉から優畄達を鑑賞して悦に入っていることも彼には分かっていた。


(まさか陣斗のやつ死者の蘇生に成功していたとはな……これは予定より計画を早める事になりそうだぜ)



驚愕の助っ人の登場に戸惑う優畄達だったが、玄関先ではなんなので館長室で対【闇寤ノ御子】の作戦タイムだ。


彼女の話から分かった事は、どうやら【闇寤ノ御子】の討伐には彼女の力が必要不可欠だしいのだ。


彼女は授皇人形としては死んでいるため、ヒナ達が使える【火焔掌】や【水蓮掌】などの能力は使えない。その代わり死から蘇った彼女達だけが使える能力がある。


それは【黒艶掌】、そう彼女達は闇を操る事が出来るのだ。その能力は対【闇寤ノ御子】戦では必須といっても差し支えない能力なのだ。


【闇寤ノ御子】の能力は闇を展開して対象をその闇に取り込み、相手の視覚と聴覚、嗅覚、触覚などを奪う。彼の操る闇は特別製で闇に取り込んだ者の五感を封じる力があり、優畄の嗅覚や聴覚も彼の前では役に立たない。


だが彼女の【黒艶掌】ならば展開された闇を操り散らす事も出来る。能力自体は向こうの方が上なため全ての闇を散らす事は出来ないが、優畄達の周りだけでも散らせれば近いやすいのはいうまでもない。


特に今回助っ人として派遣された彼女は100体居る【黒真戯 】の中でその能力に長けているだしく、マリアが彼女を嫌がらせの為だけに送ったのではない事も一応頭に入れておこう。



「【闇寤ノ御子】の能力の''闇操術''は私の能力【黒艶掌】で相殺する事が出来ます。私が【闇寤ノ御子】の能力を抑えている間に優畄様達が倒してください」


それに彼女単体の戦闘能力は優畄より上だ。かつて彼女達【黒真戯 】100体であの守りの仙狐の里を滅ぼした事もある。


「それは囮も兼ねているという事かい?」


「はい。優畄様の現在の能力を加味して考えた結果、まともにぶつかり合うより私が囮になり相手を引きつけ、その間に優畄様達が攻撃をする。その方が討伐の成功率が上がると思います」


「なっ! それは優畄が弱いて事?!」


優畄が弱いと遠回しに言われた事を怒るヒナ。元とはいえ先輩でもある彼女にライバル心を燃やし、珍しくキツめに当たるヒナさん。


「はい。優畄様が弱いのは事前の情報で分かっていた事です。その優畄様を加えた今の戦力で【闇寤ノ御子】の討伐を成功させるにはこの手しか方法が無いのです」


激昂するヒナに対して彼女の方はいたって冷静だ。


「あっ! また弱いって言った!」


「弱い者を弱いと言って何が悪いのですか?」


良くも悪くも彼女の考え方は力が全ての黒石の考え方そのものなのだ。


「ま、まあまあ2人とも落ち着こうよ」


「何が落ち着こうよ! 優畄はこの子に馬鹿にされてるんだよ!!」


「何を言ってるんですか? 私は優畄様を馬鹿になんてしてませんよ。私は優畄様は弱い、そう言っているだけですよ」


「ああ! また弱いて言った!」


「だから何度も同じ事を、弱い者を弱いと言って何が悪いのですか?」


2人に弱い弱いと連呼されて居た堪れない気分になる優畄。康之助もそんな彼の肩を「頑張れよ」とばかりにポンと叩く。


優畄のため息と共に対【闇寤ノ御子】の作戦会議はこうして終わった。


結局作戦は彼女の言う通りのもので行く事になった。彼女の能力無くしては【闇寤ノ御子】には勝てないというのも大きな理由だ。


( 確かに彼女の言う通り今の俺は弱い…… それでも逃げ出さずに自分なりに知恵を振り絞って戦ってきたんだ、今回だって乗り切ってみせるさ!)







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