第104話 鬼の国造り

場所は変わって鬼達と千姫の一行。彼等がやって来たのはかつて鬼の国が有った''鬼泉賀原''という地で、彼等鬼達が国を作るのに適した土地を探しているのだ。


ここは霊峰''爺祖霊山''の1500m程の高みにある高台で、入山が規制されているため人の姿は見られない。


この地には鬼に適した地脈が流れているといわれており、かつてその地にいた鬼は一騎当千の強者揃いだったという。


「うむ、まだ地脈が生きておる。ここならば強固な結界が張れる。良き国が出来るじゃろう」


「この地にいた鬼は奥羽の鬼、我等出雲の鬼とは出が違うのだ」


建国の候補地を見ながら夜鶴姥童子が言う。鬼は出身地によって優劣を決める。早くいえば自分達はエリート、奥羽の鬼は田舎者とそう言っているのだ。


特にエリート意識の強い夜鶴姥童子はそのこだわりが強い。


「うむ、良き場所だ! 流石わ我が君、其方の言う通りここならば良き国が出来る。そして建国の暁にはオイラと夫婦になろうぞ!」


「……」


「そろそろこの結界を解いてはどうか、我が君よ」


「……」


あいも変わらず千姫を褒めちぎり側から離れようとしない刻羽童子。そんな彼に対して基本無視な千姫は結界で1m以上彼が近付けない様にしている……。


そんな彼等を離れた場所から面白くない顔で見るのは刻羽童子のことが大好きな赤蛇。夜鶴姥童子から千姫を殺す事は許さないと言われ、渋々それに従っているのだ。


「チッ、刻羽の奴あの女にべったりじゃないか……」


「あれはベタ惚れだべさ、諦めろ」


人間の美穂に体を拭いてもらいながらそお言う腐獅子、彼女も何故か逃げようとせずに彼の傷の手当てをしているのだ。


「うるせえ! アタイは真剣なんだよ。あんな女狐に取られてたまるかっての!」


よほど彼の事が好きなのだろう彼女の目には、刻羽童子の姿しか映っていない。


「無駄、無駄、無駄、諦めるがよ……」


「テメェ椿! それ以上何か言ったら焼き殺すぞ!」


「…… くわばら、くわばら、くわばら、厄介ごとには触れぬが利口じゃ」


そういうと影の中に逃げ込んでしまう椿崩。やはり椿崩には辛辣な赤蛇。


そしてこの土地の視察を終えた千姫と鬼達。一先ずこの土地に結界を張って国としての基盤を築いてから、あの精神会館に攻め入るという事で話はついている。


あとは食料の問題なのだが、それは千姫が捕らえた人間を日に4体鬼に提供する事で麓の民を襲わない様に約束させた。


実は千姫が捕らえた人間達というのは、実は本当の人間ではない。彼女は幻術と結界術のエキスパートだがもう一つ使える能力が有る。


それは無から有機物を作り出し簡単な命を授ける事が出来る【人擬造形】という能力だ。


見た目は人間その者だがこの人擬きには思考能力は無く、主に肉体労働を目的に作り出されている。


その【人擬造形】で創り出した人擬きを千姫の幻術であたかも本物の人間の様に動かし反応させて鬼達を騙しているのだ。


味も普通の人間と変わりが無く本当の人間では無いため鬼が強くなる事もない。基本頭の悪い鬼達は皆騙されているのだ……。



実はこの【人擬造形】の能力はかつて黒石の者に奪われた事がある。そしてこの能力と黒石の''甚黒魔皇石''の力で生まれたのがヒナやマリーダ達''授皇人形''だったのだ。


千姫が授皇人形を嫌う理由の一つがこれなのである。


(…… かつてワラワがまだ幼児だった頃、妾の叔母の''百眼の巫女'''が和睦のため黒石の者に嫁いだ。だが彼奴等の狙いは叔母の能力、哀れ叔母上は彼奴等に酷い扱いを受けてその命を自ら絶ったのだ……)


拷問にも近い扱いは彼女を限界にまで追い詰めたのだ。そして彼女が死ぬ間際に発した最後の念動力が千姫達に届いた。


(叔母上の人体実験の結果生まれたのがあの忌々しい授皇人形…… ヒナの様な純粋な者も居ればサエキの様な邪悪な者も居る。主人と授皇人形の関係の真実に気付いた時、優畄とヒナは耐えられるのであろうか……)


授皇人形の真実、それは優畄とヒナの関係の根底を覆す程の事実なのだ。


(優畄の叔母として妾に出来る事は……)


鬼達が優畄達のいる精神会館を責めない様操りながら、密かな決意と共に望まぬ鬼との共存生活を続ける千姫だった。


ーーー


その頃精神会館では、やっと帰って来れた康之助が精神会館の惨状を前に目頭を押さえていた。


「すいません…….俺が不甲斐ないばかりにこんな事になってしまって」


優畄が精神会館がこうなったのは離れた自分達の所為だと言い頭を下げる。


「その時にはお前達も他の鬼と戦っていたんだろ?なら仕方ないさ、建物の損傷は直せば治るが人はそうはいかないからな」


「でも康之助さんが戻って来たなら、鬼の討伐も余裕ですよね」


もちろん康之助の力を借りる気満々な優畄達だったが、康之助からは意外な返事が返ってくる。


「……悪いな優畄、俺はお前達に協力する気は無い。鬼の討伐はお前達の仕事だ、お前達だけでやり遂げろ」


「こ、康之助さん! そ、そんな……」


康之助からのなんとも厳しい言葉に言葉が詰まる優畄。


「覚えておけ、それが黒石で生きるという事だ。俺の仕事はここを守る事。安心しろ、今後一切は何人たりともこの精神会館には手出しはさせん」


それが康之助の今の仕事なのだ。鬼が精神会館に攻め込んでこない限り彼からの助力は望めない。


「……(自分達のやるべき事か……)


優畄は改めて黒石の者として生きていく事の厳しさを実感していた。


「まあ鬼を退治するまではここに居るんだ。焦る事はない、肩の力を抜け」


そして康之助は崩れた精神会館中央道場の瓦礫の前に来る。彼が来る前から会館の関係者が片付けているがまだまだ片付ける瓦礫はある。


「先ずはコイツを片付けるのが先だ。業者を呼ぶ様な金と余裕はウチには無いからな、人海戦術でとっとと片付けちまおう」


この精神会館は全館長が横領や恐喝などよからぬ事をしていたため資金が乏しいのだ。本家から僅かばかりの資金は入るが、それは精神会館に通う練習生や関係者のために使いたいとの思いもあり、業者を呼ぶ余裕はないのだ。


「…… チッ、だからって何で俺まで……」


マリーダと共に刹那も片付けに駆り出されており、愚痴を言いながらも手を動かしている。


デブ兄弟達は由紀だけを精神会館に残して町に逃げ出してしまったのだ。


「……す、すみません…… 寝泊まりまでさせて貰っているのに、輝毅様が手伝わないで逃げてしまって

……」


「由紀ちゃんは悪く無いよ」


「ああ、しかしあの豚兄弟、こうゆう時の行動力は有るんだな……」


すかさず由紀にフォローを入れる2人。由紀は申し訳なさそうに片付けを手伝っている。


「いない奴等の事より手を動かせよ〜」


「「はい!」」



優畄達が精神会館の片付けをしているその頃、逃げ出したデブ兄弟達は黒石のブラックカードを使いゲーセンやコンビニで豪遊をしていた。



「ーーでも手伝わなくていいのかな? 後で康之助さんに怒られないかな……」


「いいんだよ。死ぬ思いをしてあんな所から歩いて来たんだ、コレぐらいの息抜きは必要だろ」


兄の将毅にまるで気にした様子はなく、ゲームに夢中になっている。


そんな彼の側には心の壊れた授皇人形のアキが佇んでいる。彼の側から離れてはいけないという本能のみが彼女を動かしているのだろうか、なんとも儚げだ。


そんな彼女を見て輝毅が思うのは兄に言われて突き放している由紀の事……


(…… 兄貴はこれまでに2度も授皇人形を代えている。お、俺だってそれくらい悪くないよな……)


強引に自分を納得させて自身の行動を正当化しようとする。兄の呪縛から解き放たれて間違いに気づくのはいつの事か。


自身にとって何が一番大切なのか、人は愚かにも失ってからそれに気付くのだ。





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