第105話 当主候補、それぞれの日常
ある学園の生徒会長室、そこで生徒会長として日々職務に励む若者がいる。生徒たちからの信頼と人気も厚く、教師からの評価も高い。
真面目で他の生徒達からの人望も厚い彼の名は黒川晶真(18)、黒石の分家から当主候補に成った男だ。
メガネに、七三.マッシュボブのいかにも生徒会長ぜんとした見た目に、いわゆるオッドアイという左右の目の色が違う神秘的な所も人気の理由だ。
彼の側には彼の授皇人形のサアラがおり、秘書として彼のサポートを担っている。
見た目が例えるならば童話に出てくるエルフの様な美しさの彼女、突然転校して来てあっという間に彼の隣を射止めたシンデレラガールとして今ではファンクラブまである人気っぷりだ。
何事にも完璧を求める彼には理想の女性だろう。
そんな彼の能力は【黒魅眼】体力の弱った者の目を10秒間見つめる事で心を魅力する魅惑の能力で、その効果は対象が死ぬか術者本人が死ぬまで半永久的に持続する。
唯一の難点が黒石の血族の者には通用しないという事だ。
だが彼はもう一つ能力を持っている。【黒魅眼】で魅了した相手を自由自在に操る【黒操眼】という能力だ。
彼は真の''甚黒魔皇石''から力を得る前にレプリカの''甚黒魔皇石''から【黒魅眼】の能力を得ており、
成功率10%という難関を乗り越えて、もう一つの能力【黒操眼】を手に入れる事に成功したのだ。
【黒魅眼】だけではただ相手を魅了し好印象を持たせるだけだが、この対の能力【黒操眼】が有れば魅了した相手を自由自在に操る事が出来るのだ。
「私はこの困難を乗り越えた! この力を使って私は頂点に登り詰める」
彼自身は正直弱い。
だが彼の真の強みは個の強さではなく群の強さにある。彼の二つ目の能力はいわゆるバッファーの効果もあり通常時で2倍、直後に死ぬがバーサク化させれば4倍の力を操る兵にする事が出来る。
2つの能力とその群を自在に操れる彼のずば抜けた頭脳が有れば、最強の軍隊を作る事も可能だ。
生徒会長の仕事を終えてサアラと学園を後にする晶真が向かったのは、彼が魅力して操っている地元の暴走族の溜まり場だ。
この暴走族はサアラに半殺しにしてもらい魅了した彼の傀儡だ。
「サアラ、今夜''艶蛾猿''の根城を急襲する。例の品物は手に入ったか?」
''艶蛾猿''とは三つの目をもつ魔の者で、30匹程のボスを中心としたコミュニティを形成しており、普段は人畜無害な魔の者だが敵対する者には群全てが敵となり襲い掛かってくる厄介な種族だ。
その強さはゴリラと同等であり敵に回すのは避けたい。
「はい。すでに用意は出来ております」
サアラはその品物を手に入れる為になりふり構わず何でもした。たとえそれが殺人だろうとなんだろうと、彼のためならばまるでいとわない。
「良い子だ」
そう言うと彼女に口付けをする晶真。フレンチキスの様にあっさりしたキスだが、彼女には無上の喜びなのだ。
「ああ晶真様……」
淫猥な表情で晶真を見るサアラ。
「では行こうか」
「…… はい」
彼女が晶真のために用意したのは馬用の筋肉増強剤や覚醒剤などの薬物だ。
なぜこれ等の薬物が必要なのか、それは操る兵の強化のためだ。彼等が捕らえようとしている''艶蛾猿''の強さは常人の5〜6倍の強さだ。ただバフを付けただけの人間では太刀打ち出来ないのだ。
そこでサアラが手に入れた薬物が役に立つ。使われた暴走族の者達にはその後に重い後遺症が残るがそんな事は知った事ではない。
「俺等晶真さんのためにやるっス!」
「猿なんて余裕スよ!」
この【黒魅眼】の怖いところが、操られている者達が普段の状態とまるで変わりがないという事だ。
晶真が死ねと言えば死ぬ様な事でも、普段と変わりなく彼等は平気で命を投げ出すだろう……
「うむ。君達の健闘を祈っているよ」
「はい晶真さん! 頑張るっスよ!!」
そして30人以上いた暴走族の半数以上の犠牲を持ってして、''艶蛾猿''を自らの配下に取り入れる事に成功した。
それはいつしか始まるであろう同族との戦いの為の布石だ。
(私は天下を取る! 何人たりとも邪魔はさせない。)
狼貪虎視な彼はこの後、加速度的にその配下を増やしていく。
ーーー
場所は変わりある山奥の寒村。そこである話題が村の老人達を中心に盛り上がっていた。
何でも仙人が住む山と地元で言われている桃源山に変わり者がやって来たという話なのだが、その者は腰まである髪を靡かせて山を駆け回り狩をしているという話なのだ。
その者の背丈は5mを超え、雄叫びと共に巨大なツキノワグマを殴り倒していたとの話もある。
他の者の話では彼の側には天女の様に美しい娘がおり、彼の身の回りの世話をしているという。
彼等は仙人の生まれ変わりで、新たにこの地に桃源郷を作ろうとしていると言い出す者まで現れ、村の年寄り達の暇潰しのタネになっていた。
実はこれ等の話しは最後の桃源郷の話以外はほぼ真実で、この話の仙人こと黒石高尚(18歳)は当主候補の1人なのだ。
彼は黒石家元当主権左郎の三男の子供として生を受けた。父親を幼い時分に亡くし、それまでは母と2人で慎ましく暮らしていた。
彼は巨人症としてこの世に生を受けた。生まれた時にすでに5000g有ったため、彼の母親は大変な苦労をした事だろう。
身の丈190cmの巨漢で柔道をしていたため、その全身は筋肉に覆われており、その無類のパワーは常人時でも健在だ。
だがその見た目にそぐわなず彼は基本争い事が嫌いな平和人間だ。性格も優しく、そのため柔道も彼の才能を妬んだ先輩のイジメで辞めている。
彼は山や川、海などの自然が好きでよく1人で野宿をする事が楽しみの一つだ。
結婚したら山の近くで畑を耕しながら暮らすのが夢だった彼だが、悲しいかな彼はそのズングリむっくりな体格のせいで悲しい程にモテなかったのだ。
そんな彼の転機は能力を授かってからだった。彼の能力は【巨人変化】
今はミノタウロスや伝説の単眼巨人のキュクロープスに変化出来る程度だが、果にはヘカトンケイルや体長100mを超える鋼鉄巨人ギガントスなどに変化出来る様になる。
巨人族は脳タリンで知能が低く単細胞という印象だが、彼は勉学でも学生時で30位内には入れる程に頭脳明晰だ。
10mを超える体に智略が加わればそれだけで脅威なのは言わずもがなだ。
そんな彼だが、この強力な能力より嬉しかった事が授皇人形のひとみに出会えた事だろう。
今まで見た事のない綺麗な娘が、それまで女性に見向きもされなかった自分を慕い好いてくれる。
彼は彼女にハマってゆくと共に何よりも彼女を大切にした。彼女もそんな彼の優しさに奢る事なく心身共に彼に尽くした。
そして彼が高校を卒業すると共にこの桃源山に土地を買い住み着いたのだ。
普通の女性なら間違いなく嫌がる案件だが、彼女の「貴方の行く所が私の居場所。貴方の側なら何処へでも付いていくわ」の言葉に決断したのだ。
土地を買う資金は父の遺産から出した。山奥のため大した値段では無かった。
心配だったのは1人に成ってしまう彼の母親の事。母が1人で暮らして行くのに余裕があるだけの資産は残して来た。
それに「若い者が年寄りに引っ張られてはダメだめよ。貴方は貴方の道を生きなさい。私は大丈夫、貴方達との思い出があるのだから」
そう言って送り出してくれた母には感謝しかない。
誰も住まなくなった古民家を2人で直して、近くにあった畑跡を耕し作物を植える。
畑の作物の面倒は彼女が見て、彼は山に猪や鹿を獲りに行く、そんな生活だ。
もちろん必要以上は獲らない様にしている。捌き方は本や動画などを見て勉強した。初めは失敗ばかりだったが、最近は上手く行く様になってきた。
「お〜う帰ったぞ。ひとみ見てくれ、今日はこんな大きな猪が取れたんだ」
「おかえりなさい。凄い! こんな大きな猪よく捕れたわね」
「コイツは麓の村を荒らしていた猪だしい。この肉を食べて元気な子を産んでくれ」
そう彼女は妊娠しており、今は5ヶ月目で安定しているため、たまに畑の面倒を見ているのだ。
彼は心配で休めと言うのだが、彼女は「私は子供が産まれる直前まで動いていたと子供に自慢したいんだ」と言い、言う事を聞いてくれないのだ。
電気も水道も無い厳しい生活環境だが彼女から笑顔が絶えた事は無い。
「そろそろ麓の村に余った肉と米の交換に行ってくるよ」
「うん気をつけて行って来てね」
こうして心優しい巨人と美女の夫婦は、誰も訪れる事のない山奥で幸せを育んで行くのだ。
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