第65話 不良外国人ボブ、花子とお泊まり


狸の花子と共に屋代を出たボブは、炎天下の下フラフラとまるでゾンビの様に歩いていた。


「ハァ…… 暑い、暑っいで〜ス……」


そんなボブを他所に、狸の花子はボブのリュックの中で悠々自適に過ごしていた。


このボブのリュックは通気性が良く、中の物が傷まない様にブードゥのお呪いがかけてあるため過ごしやすい。


一方のボブはすでに限界、フラフラっと道端に倒れてしまったのだ。


『あっコラ! お主が倒れたら誰が妾を運ぶのじゃ』


ボブが倒れた衝撃で狸の花子が頭を出して何事かと確認したのだ。そしてすかさず猫パンチならぬ狸パンチをペチリとボブの頭にお見舞いする。


「……も、もう、だめで〜ス…… げ、ん、か、い、で〜ス………」


まるでゾンビの様に痩せ細ってしまったボブ……


((これは仕方がないかのう…… 一度元の姿に戻ってこの者を救ってやらねば成らぬか…… ))


狸の花子はある事情で本来の姿を隠している。もしこのまま変身を解けば、彼女の気配が漏れ出てしまいある者達に居場所を感づかれてしまうかもしれないのだ。


突然道端で倒れたボブ、狸の花子も彼を助けるために元の姿に戻る決意をした。


だがそんなボブ達に救世主があらわれる。それは、畑に水撒きに行っていた老夫婦の乗った軽トラが通りかかったのだ。


「あれま! あんた大丈夫かい?」


お爺さんが車の窓を開けてボブに話しかける。


「た、助けて…… プリ〜ズ……」


「こりゃいかん! 婆さん水じゃ、水を持って来てくれ」


お爺さんがただ事ではないとボブの元に駆け寄る。

遅れてお婆さんが、水の入った水筒を手にやって来た。


「ほれ、この水ばお飲み」


その水は井戸の水でとても冷えていて美味しい水だった。車の影に横になりながら水をいただくボブ。


((よかった…… これで妾も変身を解かずに済んだのう))



「ンゴ、ンゴ、ンゴ、ンゴ、プッハ〜! 助かりましたァ、お爺さん達は命の恩人で〜ス!」


それまでまるでゾンビの様に干からびていたボブの体が、水を吸って元に戻っていく。


((……こやつ、初めて会った時から感じてあったが、人では無いのかのう…… この感覚は黄泉醜女に近い不死の者の気配……))


普通ではないボブの回復力に、その正体を怪しむ狸の花子。


((まあ悪い奴ではないのでよいのだがな))



お爺さんから貰った水を勢いよく飲み干していくボブ。それと同時にグルキュルル〜と可愛らしくボブの腹が鳴る。


「オ〜ウ、喉の次はお腹が空きましたァ、腹ぺこで〜ス…… 」


「ここから家までいくばくもない、よかったら家で休んで行くといい」


「ほれ、よかったらコレをお食べ」


お婆ちゃんが畑で採ってきたトマトを一つくれた。

するとリュックの中からトマト欲しさに狸の花子が顔を出す。


「あれ、可愛い相棒が居るんだね。お前にもトマトをやろうかね」


「ん〜! 美味いで〜ス! 生き返ったで〜ス!」


狸の花子も器用に両手を使ってトマトを食べている。赤く熟したトマトはなんともいえない美味しさだった。


そして老夫婦の車に乗せてもらい家に行く事になったボブと狸の花子。


老夫婦の名は森永徳治さんと森永静子さん。江戸時代から続く農家を代々守ってきた人達だ。


昔は子供が7人も居た事から、明るく楽しい家だったのだが、成人と共に皆が家を出て今では2人きりだ。


彼等がボブを家に誘ったのには寂しさを紛らわす意味もあったのだろう。


家に入るとお婆ちゃんが冷たい麦茶をだしてくれる。


「日本の夏はァ麦茶が1番で〜ス」


狸の花子にもお皿に入れて麦茶をくれるお婆ちゃん。ペチャペチャと花子も冷たい麦茶を堪能する。


「さあて、私は夕飯の支度でもするかね」


そう言うとお婆ちゃんは台所へ行ってしまう。


「さあてボブさんよ、ワシらは将棋でもするかのう」


「イエス! お相手させてもらいま〜ス!」


お爺さんとボブは将棋の対戦をする様だ。



そして30分後……。



「ウヌヌヌ…… この桂馬をいただくで〜ス」


「ほらもっと周りをよく見て打たんから、王手じゃ」


「アヒャ! ウヌヌヌ…… また私ァしの負けで〜ス、これで10連敗で〜ス………」


よく周りを観察せず目先の駒ばかりに目を取られているボブ。集中力が続かないのも彼の敗因の一つだ。



「そんな事じゃあ、何度やってもワシにわ敵わんぞ」


「まったく、将棋は奥が深いで〜ス……」


((まったくまるで学習せん単細胞のアホじゃのう))


狸の花子も呆れ気味だ。


僅か30分で10連敗するボブでは、いくらやってもお爺さんにはかてないだろう……。


「よしボブ、一緒に風呂にいくか?」


「オ〜ウ! 裸の付き合いてやっで〜スネ」


という事でお爺さんとボブは夕飯の前にお風呂に入る事になった。


狸の花子も連れて行ってあらってやろうとしたが、サササッとどこかに逃げてしまった。


まず先にボブがお爺さんの背中を洗う。


「おうボブ、上手いぞ」


狸の花子がお風呂の前を通りかかった時、中から聞こえて来たお爺さんの嬉しそうな声。


((彼奴は誰とでもすぐ仲良くなりおる。天性の資質なのかのう))


狸の花子は暇つぶしに老夫婦の家の中を見て回る。


家のそこらかしこに夫婦の子供達の昔の写真や絵、その子供達の孫が描いた2人の絵など、至る所に飾られ貼られている。


最近は孫達も大きくなりあまり来なくなってしまった。そんな寂しさを紛らわすためなのだろう。


そんな写真や絵を花子が見ていると、お婆ちゃんが後ろからやってきた。


「可愛いいでしょ、私達にはね孫が12人もいるのよ。昔のこの時期は皆んなが遊びに帰って来て、楽しかったのよ…… 」


そう言うお婆ちゃんの顔は、どこか寂しげで儚く思えた。


((…… 人の世もまた空いものじゃのう……))


「こんな事花子ちゃんに言うなんて、どうかしてるわね私。さあ花子ちゃん夕飯にしましょうね」


お婆ちゃんに抱かれて居間に行くと、お風呂から上がったお爺さんとボブが牛乳を飲んでいるところだった。


「師匠。私ァしは師匠から頂いた言葉、「男は大きさじゃねえ、心だ」を絶対に忘れませ〜ン!」


そして何やらありがたいお言葉を頂戴した様だ……。


そんなこんなで夕飯もご馳走になり、今日は泊まって行く事になったボブと花子。


楽しげな笑い声と共に夜は更けていった。


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