第38話 ヒナの力



僕たちは先程下ろした武器や食料を再び船に積む作業をする事に。


僕が余裕で3箱分の荷物を運ぶのを見た優作が対抗心を燃やす。


「優ちゃん変な意地を張って腰を痛めても知らないわよ……」


案の定、彼に3箱分の荷物を持つことは出来ず、なぜか悔しそうに僕を睨みつける。


(おいおい、自分で失敗したんだろ……)


どうやら優作は僕に対して対抗心が強い様だ。


そんな中、何故かヒナが武器の入った箱の中を物色している。中には刀をはじめ、槍や薙刀なども入っている。


「ヒナちゃん、刀に興味があるの?」


「うん」


そんなヒナの行動が気になったのか、美優子が聞く。

彼等が持ってきたこの刀は、黒石系列の退魔鍛冶師という、退魔刀を打つのに秀でた者達が作った刀だ。

その扱いは控えの武器という極めて残念なカテゴリーだが、極めた者が扱えばその真価は発揮される。


「美優子ちゃん、刀を一振り貸して」


「? ああ、護身用にてことね」


美優子がヒナの体型に合った長さの刀を貸してくれた。


ヒナは彼等が持ってきた刀のうちの一本を美優子から借りると、腰のベルトに刀を差した。


「ヒナ、刀なんて借りて使えるのか?」


「私、刀使えるよ」


そう言うとヒナは、近くに立っていた太さ15cm程の木製の柱を居合で斬り裂いたのだ。


「えっ…… ひ、ヒナさん??」


いつの間に刀なんて使える様になったのか、僕はヒナの行動に混乱必死だ。


「……す、凄え……」


「ヒナちゃん凄〜い! こんな柱を居合で斬るなんて!」


近くで見ていた美優子達もヒナの大刀さばきに驚きを隠せない。


優作や美優子は小さい頃から武器の扱いに長けている。特に刀は修め技、その2人が驚愕する程の腕前なのだ。


「ヒナちゃん、刀の他には何が使えるの?」


美優子が気になったのかヒナに聞く。


「後はねえ、武器は全般使えるよ。それ以外にも徒手空拳に合気道、剣道、柔道、柔術、拳法、ボクシング、キックボクシング、コマンドサンボに変わったところだとカポエイラやカラリパヤットなんかも使えるよ」


ヒナは指折り数えるとケロッとそう言い、空手の型を実演して見せてくれた。


開いた口が塞がらない僕等の前で、華麗に舞う様に型を見せるヒナさん。


(まずい、ヒナさんに頭が上がらなくなりそうだ……)


ヒナは作られる時、様々な戦闘術をインプットされており、それは肉弾戦に限らず、ほぼ全ての銃火器にも精通する。


ちなみに魔法に似た能力も有るのだが、まだ経験値が足りないので使うことは出来ない。


そして磯外村でのグール、ディープスレェトゥン戦をえてランクアップした僕につられて、彼女も大幅に身体能力を上げているのだ。


今のヒナの身体能力は常人のおよそ6倍。もしオリンピックに出たならば、陸上全種目制覇も余裕で出来るだろう。


実を言うと、ヒナだけでなく僕もランクアップして新たな力に目覚めている。下位、中位の妖獣と、下位の魔獣に変化出来る様になっているのだ。


完全に変化するのには1分程かかるが、妖獣や魔獣の戦闘能力は、それまでの野獣への変化とは雲泥の差なのだ。


ちなみに妖獣はトリッキーな個体が多く、魔獣は戦闘に長けた個体が多い。


船に荷物を積み終わった僕たちだったが、一様に無線機のある掘っ建小屋の方に皆の視線が集まる。


本家との話し合いが上手く行かないのか、30分経っても弓夜さんが戻ってこないのだ。


しまいには弓夜の怒鳴り声が静かな船着場に響く。どうやら話し合いが上手くいかずヒートアップしている様子。


「お兄ちゃんがあんなに感情を表すなんて……」


「あんな弓夜は初めてみたわ、本家からの反応が悪いのかもしれない……」


「チッ、クソが!」


それから1、2分程で弓夜は掘っ建小屋から出てきたが、その顔には明らかな怒りの感情が伺える。


「……後退の意地を本家に伝えたんだがな、向こうからの応えは作戦の続行だ」


「そ、そんな……」


「なっ! 奴等俺たちに死ねて言うのか!?」


弓夜は僕を一瞥すると何故か哀れみのこもった視線を向ける。


「交渉の際に優畄君、君の名を使わせてもらったんだが……」


その一言で僕は察した。ヒナも思うところがあったのか、僕の服の裾を掴む。


「……分かっています。本家の者に人としての心は皆無ですからね」


「そうか……。 君も苦労しているんだね」


弓夜は皆を見回すと、彼が決断した考えを皆に話す。


「本家の命は絶対だが、お前達を死なせるわけには行かない。代官屋敷には私が一人でいく、だからお前達は船で逃げるんだ」


本家に逆らっては今後の人生は捨てたも同然、分家だろうと逆らう者には容赦しないのが黒石の掟なのだ。


「そんなお兄ちゃん、私は絶対に残るよ!」


「ああ、弓夜兄いだけ行かす訳にいくかよ。俺も残るぜ!」


「ええ、私も残るわ!」


「僕も微力ながらお手伝いさせて下さい!」


「よし、頑張るぞ!」


皆がここに残ると言う。


僕の本心はヒナを休ませてあげたい、その為に本土に戻りたいなのだが、だが彼等を見捨てて帰るなんてそんな事は出来ない。


「ここに残れば死ぬだけだぞ、それでも残ると言うなら私は止めない」


弓夜の【千里眼】は1kmの先までを見渡せる能力だ。その能力を持つ彼が言う言葉には確かな重みがあった。


僕等のウチの何名が生き残れるかは分からない、だけど行くしか僕達に選択肢はないのだ。

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