第39話 仙狐の里、襲撃
それより遡る事1日前。
黒石権左郎の命を受けたボーゲルが、狐仙の隠れ里の次元を暴き攻め入っていた。
狐仙族は里を守るために、幾重にも結界を張っていたのだが、ボーゲルの力は圧倒的で、瞬く間に結界は破られてしまったのだ。
「さあ狐狩です。皆さん張り切って狩って来てください」
ボーゲルが里を攻めるのに使った兵は"黒真戯"と呼ばれる人造人形だ。
これは【授皇人形】を数体使い戦闘特化に改造した兵で、意思は無く命令で動くのみの人形だ?
そしてこの一体で狐仙の隠れ里を守る戦士10人分に匹敵する力を持つ。
その"黒真戯"が100体投入されたとあっては狐仙族はひとたまりも無かった……
美しかった狐仙の隠れ里は焼き払われ、あっという間に壊滅していった。
狐仙と共に戦った惟神達も、討ち死にや撤退するなどでその数を減らし、もはや彼等には里を捨てて逃げ延びること以外に生き残る術はない。
「……姫、どうか貴方様だけはお逃げ下さい!」
千姫が暮らす胡琴堂にも"黒真戯"が攻め入り陥落するのも時間の問題、もはや万策はつきていた。
「そ、それでは爺達はどうするのだ?!」
千姫の癒しの術は彼等の守りの要、それを失う事は死を意味する。
それに千姫も、ボーゲルが里を守る結界を破るところを、【天心眼】という力で見ていたのだ。
あの結界を張るには狐仙族の術師100人分の力が必要なのだ。それをものの1分足らずで破ってしまったボーゲル。
アレは世の理を破壊する禁断の存在、決してこの世に存在してはならないもの。
あんな化け物に勝てるわけが無い……
「我等残った狐仙族は逃げるための時間を稼ぎまする。なあに老いたとはいえこの爺、かつては千勝狐といわれ恐れられた豪傑! 決して姫を追わせたりは致しませぬ」
彼もボーゲルの力を見ていたのだ。それでも千姫のため、老狐は胸を叩いて自らを鼓舞する。
「爺…… 分かった、私は行く。でもどうか、生きて再び会おうぞ!」
千姫は分かっている。自分がこの狐仙族の要であると、そして自分さえ生き残れば一族の再建も可能だという事を。
一族を絶やさぬため、その為に逃げる事しか千姫には選択出来なかったのだ。
「はい姫様、生きて必ず……」
老狐は特技の秘術で姫の見た目を変えると、姫の身代わりとなるため、千姫そっくりに姿を変えているツグミという者と共に戦場に赴いて行った。
彼を見送り姿を変えた千姫は、里の抜け道が有る池の辺りに来ている。
この池の抜け道は、次元を超越してある場所と繋がっており、一度きりしか使えないこの里最後の切り札なのだ。
「…… 爺、どうか生きて…… 再び……」
その先は言えなかった、それが不可能だという事が分かるから……
(…… 優畄、もうしばらくは貴方の力にはなれそうもありません…… どうか無事に黒石の地獄を生き抜いてください。 そして……)
そして千姫は、様々な思いと生まれ育った里を後に、池の中へ飛び込んだのだ。
ーーー
一方、島に残る事となった僕達。
船に積み直した荷物をまた下ろさねばならない。 そのため仕方なく向かおうとした僕らを突然、より一層濃い霧が包み込んだのだ。
「なんだこの霧は、1m先すら見えやしないぞ……」
「皆その場に留まり警戒体制! そして周りに居る仲間が逸れ無い様に体を接してくれ」
弓夜から的確な指示が飛ぶ。
僕は隣にいたヒナの手を握る。すると逆の左手が美優子の手に触れる、すると彼女が指を絡める様に僕の手を握って来たのだ。
(えっ…… まあ、こんな霧の中じゃ心細いんだろうな)
「ここは一旦建物内に避難するぞ!」
弓夜は千里眼を使える。そのため霧の中でも問題なく動けるのだ。
まるで保育園の遠足みたいに霧の中、手を繋ぎ合い進んで行く僕達。
なにせ1m先の相手の顔すら見えないこの状況、異常に濃いこの霧の中では致し方のない事なのだ。
そしてなんとか掘っ建小屋内にたどり着いた僕達。
「「あっ!」」
優作とヒナが同時に、僕と美優子が手を繋いでいるのを見て不貞腐れるが、手は直ぐに離したしいちいち相手にしてられない。
「手なんか繋いで! も〜……」
ヒナだけは再び手を繋ぎフォローする。
(スグにやきもちを焼くからなヒナさんは……)
と、そんな事より今は霧の対策である……。
「で弓夜、この後はどうするつもり?」
「ああ、この霧の中では下手に動くのは危ない。 今は様子を見ようと思う……」
「だが逆にチャンスだぜ、奴等の目を誤魔化すのには使えるかもしれない」
優作がこの霧に乗じて移動しようと言い出す。
「どうやって? この中で【千里眼】を使えるのは私だけなんだぞ、距離が有りすぎて先程の様にはいかない」
「それに、あの崖を登らなければならないのよ、この霧の中では危険過ぎるわ」
「ああ、それにこの船着場には結界が張ってある。奴等はここには入って来れないからな」
流石に30km離れた代官屋敷まで手を繋いで行くわけにもいかず、途方に暮れる僕達。
一先ず霧が晴れるのを待つ事になった。
チラッと時計を見ると今は夕方の5時過ぎ、辺りはまだ明るいはずだが、相変わらず霧のため何も見えない。
だが何の音だろう、船着場の方からバキバキと何かが軋む音が聞こえて来るのだ。
「なんの音だ?!」
【千里眼】を使って船着場を見た弓夜が目を見開く。
彼が見たのは、黒い何かが船に絡まり付き、メチャクチャに破壊する驚愕の光景だったのだ。
「あ、あれは……」
それと同時にこの建物目掛けて幾本もの銛が木製の壁を突き破って飛んで来る。
僕は磯外村の一件で下位から中位にかけての妖獣に変化出来るようになっている。
この場面で僕が選んだのは妖獣下位のブラックウィドウという全身が黒く体長2mの蜘蛛だ。
僕は体内の構造と口周りを、ブラックウィドウのものに変化させると、飛来する銛目掛けて蜘蛛の糸を吹きかけた。
初めは僕も、蜘蛛の様な節足動物に変化出来るのか疑問に思ったが、妖獣のカテゴリーの生物なら関係なく変化出来るようだ。
それに身体全体を変化させるには僕の能力が足りず、1分位かかってしまう。
ブラックウィドウの糸には柔軟性と粘着力があり、銛を止める事は出来なかったが威力を弱める事は出来た様だ。
本来なら体全体を変化させた方が糸の強度も粘着性も上がるのだが、今の咄嗟の変化では部分変化が限界だ。
勢いを失った銛ならば弓夜達でも回避や弾く事が出来る。
ヒナも先程借りた刀を使って銛の軌道を逸らしている。
刀で弾くより逸らした方が刀自体への負担も少なく、逸らす技術さえあればそちらの方がよい。
まったく、どこまで進化するのかこのお嬢さんは……
「……流石は本家の当主候補、助かったよ」
海からの銛の攻撃を凌ぎ切ったのはいいが、僕達のいた建物は先程の攻撃で崩壊寸前だ。
そして、崩れかけた建物から見える海にはすでに霧はなく、代わりに幽鬼達が乗った無数の船が浮いていたのだ。
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