第16話家族の在り方、新しい家族
今日はいろいろとあり疲れた事も有って、早めの夕食を取ろうと食堂にいく事にした。
前の座敷にお膳ではなくちゃんとした食堂だ。
ボーゲル曰く、「明日からは優畄様にも働いて頂かねば」という事で明日に備えて体を万全にしておこうと思ってのことだ。
正直、あの部屋で目覚めてから何度もこの屋敷からの脱走を考えた。だがヒナの事を考えると今はまだその時じゃないと結論付けたのだ。
(行動を起こすのはヒナが自分の体に慣れて、自由に動ける様になってからでも遅くはないからな……)
どのくらいで自由に動ける様になるか分からないけど、それを待つしかない。
黒石の力に目覚めてからは段階を経ながらだが、この屋敷の全ての間取りが分かる様になった。
きっとあのややこしい名前の黒い石を触った時に僕の頭にインプットされたのだろう。
そのため食堂まではすんなりといく事が出来た。
代わりに僕の霊力が落ちた気がする。いや落ちたというより感じられなくなったのだ。
そのせいか今まで見えていた霊がまるで見えなくなってしまった……
これで幽霊カンニングは出来なくなってしまった、何故か悲しい。
ヒナはまだ足取りが覚束ないため、僕が手を取り彼女のペースに合わせてゆっくりと向かう。
僕の様に授皇人形に気を使う者が居ないのか、屋敷の召使いたちも興味深そうにこちらを見てくる。
まあ単純にヒナが可愛いて事もあるが。
この屋敷の夕食はビュッフェスタイルで、レストラン顔負けの様々な種類の豪華な料理が所狭しと並んでいる。
ここを利用出来る時間帯も、昼の12時から夜中の12時迄と、屋敷の全ての人に合わせてあり、
ここでは屋敷で働く従業員も割安で食事を取る事が出来るのだ。
ある意味とてつもなくブラック臭い。
「……す、凄いね」
ヒナも驚いた様で何度も頷いている。
「ヒナはもう普通に食事が出来るの?」
ヒナは首を傾げ、少し考える素振りを見せた後、口を開いた。
「……大丈夫、食べられるです」
「そうか、よし好きな物を選んでさっそく食べよう」
それでもヒナの食べ物は消化の良さそうな柔らかい物を中心に選んであげた。
一緒に席に着き食事を取る。
ヒナがお箸をぐう握りで掴み、刺す様に使っているのを見て僕が使い方を教えてあげる。
「ほら、こうやって指で挟んで使うんだよ」
「……難しい、です……」
上手く掴めずポロポロと落とすヒナ。
ヒナはまだ箸の使い方がぎこちないが、慣れでば問題なく使える様になるだろう。
夕食も食べ終わり、部屋へ戻ろうと席を立った僕の視界に、昨日まで母親だった女性の姿が入った。
その足元には8歳位の男の子と5歳位の女の子が戯れる様に纏わりついている。
きっと休憩の時間なのだろうここに食事を取りに来たようだ。
その母親だった女性は僕の姿を視界に捉えると、
時が止まった様にその場に佇んだ。
「ねぇママ、どうしたの?」
何の気無しもなく女の子が発したその一言で僕は全てを理解した。
(……そうか、彼女には本当の家族がいたんだな……)
居た堪れなくなった僕は逃げる様に給仕所を後にした。
部屋に帰り着いても晴れない僕の心情、ヒナもそんな僕を心配そうに見つめる。
作られる前に僕の情報をインプットしてあるヒナは、食堂で会った女性が僕の育ての親だという事を知っている。
彼女はまだ理解する能力に欠けている事もあり、なぜ僕が落ち込んでいるかまでには至らないだろう。
「……ごめんね、何でもないんだ……」
そんな僕の隣にちょこんと座るとヒナは、僕を慰める様に頭を撫でてくれた。
彼女にインプットされた僕の情報の中に、小さい頃に褒められて頭を撫でられて嬉しそうにする僕の姿があったのだ。
詳しい経緯など彼女には分からないにも関わらず、彼女なりに僕に出来る事を考えてくれているのかもしれない。
「うっ……うう………」
誰かの優しさに触れたからか、ぼくは無性に泣きたくなり、そして……
張り詰めていたものが一気に崩壊したように泣き出したのだ。
「……大丈夫、だよ。私ここに、いるよ……」
彼女は子供の様に泣きじゃくる僕の頭を優しくいつまでも撫でていてくれた。
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