第15話 授皇人形ヒナ
授皇人形とは黒石家の直系者にのみ与えられるクローン人間の事で、主人の補佐がその主な役割だ。
見た目も体の作りそのものも、普通の人間と変わりはない。食欲も睡眠欲もはては性欲もある
この人形は換えは利くが、前者の性格や能力は受け継がない。そのため見た目は同じだが、以前の存在とは別物なのだ。
授皇人形は主によってその性別が変わる。そして事前に主人となる者の情報を取り込む事で、主人好みの見た目や性格をもって生まれてくる。
主自身の情報と共に、戦闘術、生活術、房中術なども読み込ませる事が可能だ。
彼等、彼女たちの戦闘能力は主自身の情報の質、量によって変わり、成功率が高ければ高いほど能力が低く、逆に低ければ低い程強い力を持った授皇人形が生まれる。
早く言えば主人が強ければ強い程、授皇人形の能力も高く強くなる。
だがこの授皇人形は、定期的に主人から黒石家の力を注入してもらわなければならず、それを怠れば10日程で細胞崩壊を起こし死んでしまうというデメリットがある。
そのため黒石の中には敢えて人形を使い潰し、人形に力を与えずに放置して死に至らしめ、新しい人形に変えるという非人道的な扱いをする者もいるのだ。
力を注入するといっても難しい事はなく、主人の側に居れば自然と体が吸収するのだ。
中には主人の気分一つで殺される者もおり、その寿命は平均で1年、長くても5年保てばその人形は幸せだったといえるだろう。
醜悪な精神を持つ黒石の血族に使われる哀れな皇人形たち。
かつて、授皇人形との間に子供をも受けて、本当の家族の様に扱う者もいたというが……
これが僕が後日に聞いた授皇人形に関しての全てだ。
そして僕は今、新しく充てがわれた僕の部屋にいる。
あのあとボーゲルが僕を運び込んでくれたらしいが、この部屋の場所を覚えるのに苦労しそうだ。
そんな僕の前には、あのあと陣斗が新たに作ったという授皇人形が居る。
あの少女と全く同じ見た目の女の子。
今度は成功したようで、僕らと同じ肌の色に黒いパッツン前髪が可愛らしい。彼女は僕がリュックに入れていた学校指定のジャージを着ている。
今は彼女と2人だけだ。僕が目覚めるまで側に居てくれたと聞いた。
彼女と目を合わせると、彼女も僕の瞳を見つめ返してくる。まるで淀みの無い澄んだ瞳。
だが途端に、あの時、出会ってすぐに殺された少女の姿と彼女の姿が重なり合ってしまう。
そしてあの時の情景が僕の頭に甦り、僕は彼女から目を逸らしてしまったのだ……
そんな僕に彼女も首を傾げてキョトンとしていたが、僕の隣に来て座ると、何を言うでもするでもなくそのまま僕の側に寄り添ってくれた。
黒石の能力に目覚めてからは心の切り替えが楽になった気がする。でなけれぱ目の前で人が殺されてこんなに落ち着いてはいられないはずだ。
肉体のみならず、精神も能力の影響を受けている様だ。
無条件で僕に寄り添ってくれる彼女の存在も大きいのは言うまでも無い。
(僕は何になったんだ?怖い……自分が何も感じない怪物になっていくようで無性に怖い…… 桜子、無性に君に会いたいよ……)
それでも心に思うのは桜子の事。
彼女には出会ったばかりでそんな感情は持てない、妹みたいなものだから。
彼女はいわば生まれたての雛鳥の様なもので、まだ上手く喋る事も、激しく動き回る事も出来ない。
だが言語自体は事前にインプットされているため、慣れでば2日程で流暢に喋る事も、激しい運動も出来る様になるだろう。
精神面での成長も今後考えてゆかねばならない。
僕の隣に来た彼女は言葉を発する事もなく、僕をジッと見つめ続ける。
「そ、そういえば、君には名前があるのかな?」
ちょと気まずい雰囲気を嫌った僕は、彼女に話しかけてみる事にした。
「……名前?」
「そう君の名前」
「……」
彼女は頭を左右に振る事で否定する。
「そうか、やっぱりまだ名前が無いんだね。よし、僕が君に名前をプレゼントするよ」
「……名前を?……私に」
無言で数秒考えたのち彼女は無言のまま頷く事で了承する。
「もう既に決めていたんだ。ヒナ、君の名前はヒナだ」
「……ヒナ?」
「そう、ヒナだ」
彼女は雛だ、生まれたての雛。まだ空を羽ばたく鳥には成れないけど、きっと立派な成鳥となるだろう。
成鳥になれなかったあの白い雛の分まで彼女には生きてほしい。この世界を楽しんで欲しい……
そして僕も彼女の主人として相応しく成長していこうと思う。
「…… ヒナ、私の名前、ヒナ」
自分の名前を聞いて気に入ったのか、彼女は初めて僕に微笑んでくれた。
満面の笑みだ。
その笑顔を見て僕は、2度と彼女を失わないと心に誓った。
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