第14話 突然の別れ



「えっ?」


僕の服に彼女の血と思わしき何かがこびり付く。

そして倒れた彼女から流れ出す真っ赤な血液が僕の足元を濡らしていく……


「ヒッ……」


腰を抜かしそうになった事で、崩れ落ちた彼女と目が合う。光を失っている彼女の目から視線が離せない。それと同時に込み上げてくる強烈な吐き気。



「ッ……ハア……ハア………」

 

僕は何とか吐き気を堪えると辺りを見回す。


「チッ、アルビノか。失敗だ」


何が起きたのか、頭の回転が追いつかない……


唯一分かったのは彼女が、拳銃で撃たれて死んだという事。そしてそれをしたのが陣斗だという事だ。



「……な、なんで?」


「優畄すまんな失敗してしまったようだ」


あっけらかんとそう言う陣斗に彼女を殺したという概念はない。ただの失敗作だから排除したそれだけの事なのだ。



「な、なにを言って……」


彼女の遺体を慣れた手付きで研究者の職員が片付けていく。



「アルビノでは授皇人形の元来の能力が発揮されない。戦闘能力もだいぶ劣るし……

優畄、心配せずとも次は必ず成功させて見せるよ」


何を言っているんだこの人は?



「に、陣斗さんはなにを言ってるんですか!? 失敗したてどうゆう……それよりも こ、殺して……」


「うん、優畄こそなにを言ってるんだ? 失敗したんだから廃棄するのは当たり前のことだろう?」


陣斗がコイツ何言ってるんだとばかりの視線を僕にむける。



「で、でも、彼女は生きていました。僕の目を見て、そして手を伸ばして…… な、なのに!」


「優畄は僕が勝手に壊した事を怒っているのかな? それならば……」


「違う! か、彼女は僕に手を伸ばしていたんだ、僕に助けを求めて、それなのに……」


「なるほど、優畄は僕が殺した事を責めているのか。でも授皇人形なんて人を模して作られた人形だぞ? 代わりなぞ幾らでも作れる」


「そんな事を言っているんじゃない!なぜ殺したかて話なんだ!」


「う〜ん、勝手に殺した事は謝るよ。でもそんなに起こる事なのか?」


「……」



ああなるほど、分かったぞ。この人には僕の言葉は通じない。自分の考える世界だけが全ての人なんだ。


そして彼女の命なぞ、地べたを這う虫螻と同じ程度にしか感じていない。


僕は理解した、この者とは決して相容れないということを。



気付いてみれば彼女の遺体はおろか、血の一滴まで綺麗にされている。


まるで最初からあの子が居なかったかの様に……



(な、なんなんだこの家は?! なんなんだコイツらは、なんでこんな事が…… ぼ、僕はもう嫌だ!こんな場所には居たくない!)



そうだ、こんな場所に居るから行けないんだ。桜子が居る埼玉のあの町に帰ろう。



そうだあそこに帰るんだ!


僕は踵を返すとこの施設の出口に向かう。



「優畄様、どこに行かれるつもりですか?」


僕が施設の出口に向かおうとすると、それをボーゲルが止めた。



「…… 僕は帰るんだ、もうこんな所には居たくない!」


「それは困りますね優畄様、貴方様には当主候補としての役割があります。それを放棄なさるおつもりですか?」



「そんな事知るか!僕の事はもうほって置いてくれ……」


ボーゲルの静止の言葉を振り切り、僕が施設の出口の扉に手を掛けたとき突然、僕の視界が暗転する。


ボーゲルが一瞬で僕との距離を詰めて首筋に手刀を放ったのだ。



「それでは困るのですよ優畄様。貴方様には貴方様の役割があるのです」



薄れいく意識の中で「ちきしょう……」と一言、吐き捨てるのが僕に出来た唯一の抵抗だった。

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