第13話 悲しき人形


優畄が黒石家の力に目覚めたその頃、高山稲荷神社裏の別次元に存在する世界で、ある出来事が起きていた。


その世界は四季に関わらず年中草花が咲き乱れる幻の桃源郷。ここに黒石の血族に仇なす狐仙の一族が住んでいる。


話の始まりは今から1200年前。


彼の地に黒石の血族が住み始めたのが発端だった。初めは良き隣人ならばと共存の道も考えられたのだが、彼等黒石の者達は違った。



先制攻撃、狐仙族からの和睦も虫けら同然と蹴散らし、黒石の者は虐殺を厭わぬ鬼畜の所業で、次々と彼等の領土を奪って行ったのだ。


その暴挙な振る舞いに奮起し立ち上がった狐仙の一族だったが、その戦力差は圧倒的だった……



彼等は1000年の長きに渡る黒石との争いでその数を減らし、今では絶滅の危機に瀕していた。


明日は我が身とそれを重く見た他の惟神たちも争いに加わり、何とか今日まで生き延びて来たのだが、戦局は思わしくない。


それは何より黒石の血族の者が強過ぎるのが原因だ。


特に本家筋の者の力は桁違いで、かつて武力に優れた鬼族の全てを、たった1人の黒石の者の手によって全滅させられた事実もあるのだ。


そんな彼等の世界で起きる事なく眠り続ける者がいた。



「姫はまだ目覚めぬか?」


その姫と呼ばれる者を案ずる狐仙族の老人。



「はい…… 夢見の秘技の後遺症でしょうか」


「うむ、後一歩のところでかの者に繋がっていたのだが…… 黒石の結界を越えて技を使ったのだ、生きていただけでも良しと思わねばな」


夢見の秘技、この術はかける対象が眠っている事が前提で、範囲は術をかける術者の能力で決まり、この狐仙族の姫様なら半径10km圏内と広範囲に及ぶ。


しかし対象が乗り物などに乗っており、移動している状態となると難易度は格段に跳ね上がるのだ。


「我等と同様に他の惟神の皆様も苦戦している現状、一体どうすれば……」


(先日、土蜘蛛の里が黒石の者等に落とされたのが痛かった……)



再び床に着く姫を見る老人の顔には色濃い疲労感が。


「いざと成れば姫だけでもお逃げいただく。それしか我が一族が生き残る術はないのだからな……」



ーーー



一方、授皇伎倆で力を授かった僕はまた新たな場所に案内されていた。


(もう、本当にどれだけ歩かせるつもりだよ……

これじゃあ新しく覚えた能力を試す暇もない)



それでも黒石の能力に目覚めて身体能力が上がったのか、心なしか体が軽い気がする。


今ならあの嫌だった学校のマラソン大会でいい記録がだせそうだぜ。



今度の付き添いはボーゲルさんだけ。


マリアが着いて来たそうにしていたが、ドゥドゥなんとかという変な名前の不気味な人形の調子が悪いとかで、着いては来なかったのだ。


(人形に調子が良いも悪いもあるのかな? 本当に変な子だよな……)


そんな事を考えながらいつも通り廊下をグニグニしていると、今度は屋敷の外にある今までとは違う近未来的な施設に案内された。


なにかの不気味な肉塊が浮いた透明のガラスケースや、放電している謎の機械が乱立している未来チックな施設で、白衣姿の研究者と思われる人達が忙しそうに行ったり来たりしている。



そこで僕を迎えてくれたのは黒石陣斗さん。僕の兄にあたる人だ。


ちなみにこの人は二系統の力を授かっている。


風の能力はとにかくとして、鑑定眼の能力は研究者として大いに役立っている様だ。



「よく来たね優畄君、君が授皇伎倆の儀で変化の能力を授かったて話題になっているよ」


まあきっと広めたのはお爺ちゃんで間違いないだろう。


(あの後もお爺ちゃん、1人喜んでいたもんな)



「そ、そうなんですか」


「変化の能力なんて凄いじゃないか、それも父さんと同じ獣器変化だからね」


「僕もあまりよく分からないもので……」


「そうなのかい」


(曲者が多そうな黒石家の人で、この人はまともそうだな)


最初はそう思っていた僕だったけど、この後大きくその考えを修正する事になる。



「陣斗様、ここに優畄様をお連れしたのは優畄様の授皇人形を受け取るためでございますので……」


「分かっているよボーゲル、すでに準備は出来ている」



(授皇人形?また変な名前が出てきたぞ……)


授皇人形がどんな物なのか気になったが、突然の陣斗の顔の変化に困惑する。


陣斗の顔が先程までの親そうな顔から一変、自分の目的のためならば親殺しも厭わないマッドサイエンティストのそれへと変わる。



「優畄君の体の情報は魔皇石から来ている。あとは授皇装置を起動するだけだ」



陣斗の言うようにこの黒石の敷地内の全ては、あの黒い石と繋がっている様だ。


そして陣斗が近付いたのは、円形の魔法陣を取り囲む様に配置された、黒曜石の様な光沢が有る機械とも遺跡とも取れる装置の前だ。


陣斗が装置に手を触れる事なく空間に浮かぶ幾何学模様を操り装置を起動させていく。


この機械とも遺跡とも取れる装置は、彼の鑑定眼で扱い方が分かっている。


そして彼の鑑定眼の能力とリンクして動くのだ。



「ふむ、優畄の情報量だと成功率は30%か、成功率が低いほど良い錬成体が出来るから面白い事になりそうだ」


陣斗の操作が終わると共に、僕の情報を読み込んだ機械が動き出した。


機械の周りを幾多にも折り重なった幾何学模様が舞い動く。それと共に凄まじい光の波が施設内をみたし、バチバチと何かがスパークする音が響き渡る。


光が眩しくてよく分からないが、機械に囲まれた魔法陣の上に人体と思わしい肉塊が生まれ蠢く。そしてその肉塊がスパークに触発され徐々に人の形を模っていく……


5分後、全身真っ白で前髪パッツンの、日本人形みたいな髪型をした女の子が魔法陣の上に立っていた。


まるで産まれたての子猫の様なひな鳥の様な女の子。


もちろん生まれたままの姿で服は着ていない。出るところは出ておりメリハリのある美しい体だ。



そんな彼女を見ても不思議とイヤラしい気持ちにはならなかった。


1mほど離れた魔法陣の上、その女の子と目が合った。


自然と保護欲がわく真っ白な女の子。


僕の情報を取り入れて作られた彼女から以心伝心の不思議な感覚が伝わってくる。



「……あ、あう」



女の子が僕の存在を認めると、まるで僕を求める様にその真っ白な手をゆっくりと伸ばしてくる。


僕もなぜかそれに応えようと手を伸ばす。そして2人の指が触れ合おうとしたその時、


パンッという乾いた音と共に僕の目の前で彼女の頭が砕け散ったのだ。






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