第7話 黒石のお屋敷




ボーゲルに起こされリムジンの外を見ると、そこには信じられない程に広大な黒石家の屋敷があった。


大きさ的には国会議事堂に匹敵する規模の屋敷は、所々増改築を繰り返したのか凸凹と不規則な形をしている。


そしてこんな時間にも関わらず窓に明かりが伺える。


暗くてはっきりとは伺えないが、石の灯籠の灯りがうっすらと灯り、屋敷の周りの至る所に有るのが分かる。


だけど何故だろう、この屋敷を見ていると僕の胸中は不安に苛まれるのだ。


止めどなく不愉快になる……



「さあ優畄様、お降りください」



僕が惚けてリムジンの窓から屋敷を眺めていると、ボーゲルが再び車の扉を開けてくれた。


「あ、ああ! すいません……」



僕は相棒のリュックを胸に抱きながら慌てて車の外に出る。すると僕の体を生暖かい風が撫でていった。


頭を降り、間近に屋敷を眺めて見ても、やはり気分は優れない。それよりも一層悪くなるばかりだ。


(……この感覚は幽霊とかの仕業じゃない、もっと別の禍々しい何かの……気配………)


まるで僕の体内で2つの異なる力がせめぎ合っているようなそんな感覚。



「優畄様、どうかなされましたか?」


僕の異常に気付いたのかボーゲルが声を掛けてくれた。


「あ、いえ、なんでもありません……」


「そうですか。では参りましょう」


「は、はい」



考えてみても頭が働かず考えがまとまらない。一先ずはこの不愉快な感じに慣れる事から始めよう。



チラッと時計を見れば時刻は11時を回っている……


(あの石碑の峠道からここまで2時間以上かかったということか? この屋敷はどれだけ人里から離れたいんだよ……)


夜の闇に鎮座する様に建つ屋敷は、より一層の不気味さを醸し出していた。



(ハア…… これからしばらくこの屋敷で過ごすのか……やっぱり帰省するのを断ればよかったな……)


後悔しても今更遅い。僕は相棒のリュックを背負うと、屋敷に向うボーゲルの後に続く。



辿り着いた玄関前、屋敷の玄関は和風なのだが、その両開きの扉は西洋風というか、魔王風な見た目でなんともチグハグだ。



そして頑強そうにその入り口を閉ざしている。


決して1人では開けられそうにないその扉を、ボーゲルはいとも簡単に開け放ってみせた。



「……」


そしてボーゲルが開いた両開きの扉の先には驚愕の光景が広がっていた。



「!!」



アホみたいに大きな玄関の扉を抜けると、夜の11時過ぎにも関わらず、屋敷の召使いと思われる100人の者が、ズラっと縦に一列で並び僕を出迎えてくれていたのだ。



「………」


(ま、まさかこんな時間まで僕を待っていたというのか!? こ、この屋敷、どれだけブラックなんだよ……)



召使いたちは頭を下げたその姿勢のままに、一言も発する事なく僕たちを見送る。


下を向いているため顔は伺い知れないが、無性に彼らに申し訳ない気持ちでいっぱいになる。


だが何故だろう、外で感じたあの不愉快さは、今はもう感じられない。



そしてどれ程歩いただろうか、召使いたちが立ち並ぶひたすら長い廊下の先に、大広間と思われる明かりの灯った部屋が見えてきた。



そして、その部屋の中を見てさらに僕を驚愕が包み込む。



なんと学校の体育館程もある大部屋に、100人を超える黒石の血族の者たちが、所狭しと集まっていたのだ。


さらに部屋の一番奥、床の間の前にはこの屋敷の大旦那と思われるお爺ちゃんが胡座をかき鎮座している。


そのお爺ちゃんと思われる大旦那が、低くはあるがどこまでも通る渋いローボイスで僕に話しかける。



「よう来たな優畄よ。お前が来るのをずうっと待っておったぞ」




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