ありがとう

勝利だギューちゃん

第1話

「偶然ですね」

「ええ、残念ながら・・・」


寂しそうにする少女の背中を見送る。


「・・・ごめん・・・もう・・・」

心の中で、そうつぶやく。


彼女の名前は、高田さくら。

小学校低学年まで、この町に住んでいた。

そして、よく遊んでいた。


幼稚園くらいだと、男女関係なく遊ぶ。

互いに異性としての、意識はそれほどない。


しかし、小学生に入ると、悪い意味で異性として意識する。

男子は男子、女子は女子。

完全に、別れてしまう。


僕も彼女も例外ではなかった。


しかし、親同士が高校時代の同級生ということで、最低限の会話はあった。

級友たちが、冷やかしてくれば、「いとこだよ」と、ごまかしていた。


そして、小学2年生の3学期に、彼女は両親と一緒に、引っ越しをした。

遠い外国だ。


以来、連絡は取っていない。


両親には、来ていたみたいだが・・・


そして、高校生となる。


「ねえ、良」

「何?母さん」

「さくらちゃんって覚えてる」

「ああ」

「戻ってくるって・・・」

「そう」


それだけ返事をした。


戻ってくるといっても、引っ越しではない。

日本が恋しくなり、一時的に帰ってくるそうだ。


両親と共に・・・

両親は旧友との再会を楽しみにしている。


でも、僕は・・・


彼女たちが帰ってくるという数日間、僕は友達の家に泊めてもらう事にした。

そして、その途中にある児童公園に寄る。


ふたつあるブランコの、一つに座る。


「よくさくらちゃんと、こいだっけな」

懐かしく想う。


余韻にひたっていると、一人の少女が近寄ってくる。

そして、声をかけてきた。


「あのう・・・良くん・・・桜井良くんだよね?」

さくらちゃんだ。

すぐにわかった。


外見は全く変わっていない。


でも・・・

さくらちゃんは、あの頃のさくらちゃんでは、なくなってしまった。


「・・・すみません・・・人違いです」

「良くんじゃないの?」

「はい」


さくらちゃんは、悲しそうな顔をする。


「すみません。初恋の人に似ていたもので・・・ごめんなさい」

「ええ・・・他人の空似です」

「じゃあ、偶然似てたんですね・・・」


さくらちゃんは、頭を下げて去って行った。


「さようなら、僕の初恋の人」


こうして、今は小さくなったブランコを静かにこいだ。


さくらちゃん一家が帰国した後、僕は自宅に戻る。


「良、さくらちゃんから、手紙だよ」

母から差し出された手紙を受け取る。


中には一言だけ、書かれていた。


「良くん、ありがとう」

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ありがとう 勝利だギューちゃん @tetsumusuhaarisu

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