12. 死屍累々と終わらない悪意と歪んだ教義
最後の一人が床に倒れ伏したのを見届けると、モモは予定通りといった様子で踵を返す。
「最初にこれ経験する人はみんな気絶しちゃうんすよね。お勤めご苦労さま、
そして耳元の髪を掻き上げ、装着しているインカムに向かって話す。
「リン、武装グループは十一人、もう全員ヤりました。こいつら目ェ覚ます前に簀巻きにして、大阪湾から輸出してください」
返答は無い。
「……あれ? おーい、無視すんなー。私の方が早かったからって妬いてんじゃないっすよ。え、マジで聞こえてない?」
返答は無い、かと思いきや、急に音声が返って来た。
『あ、あの……今ここに端末あるから、出れないと思うんだけど』
困惑気味なヒロトの声だった。
「
……まーいーや、とにかくこっちの仕事は終わったから、もう来なくて良いって言っといて」
『……殺したの?』
「あ?」
『ヒナさんから聞いたんだ、お前のこと。やっぱり、お前は魔法少女じゃないか』
モモはヒロトの言葉を耳にして、明らかに不機嫌そうな顔をする。
「余計なこと言いやがって……」
焦ったようなヒナの声が遠く聞こえる気がした。
「ま、バラされたところで変わりは無ぇや。私はこれからそふぃあちゃ……忙しいんで、もう話しかけて来ないでください」
『お、おい。ちょっと待て!』
「いま行くよぉそふぃあちゅわぁ~んいっぱいちゅきちゅきしてあげるからね~~~」
『おい、聞け!』
突然耳元で大声を出され、モモも一瞬怯んでしまった。
「うるせぇ! 声掛けんなっつったでしょ!」
『エレベーターがもう一台来てる! 中央縦貫リニアエレベーターの一号機だ!』
「……え?」
反射的にホールの方を見た。空調が出すホワイトノイズに混じって、金属同士が潤滑油越しに擦れ合う音が微かに聞こえる。
音は、もうすぐそこまで来ていた。
『一号機の監視カメラ、またさっきと同じのが映ってる! でも、何か変だ……』
「何でこんな時に限って……ああもう!」
モモは癇癪を起こして泣きそうな声を上げる。
「……リン、やっぱり来てください」
九三七階、やっと半分を越えた。コンクリートの床に何度も落下しているせいで、脚の骨が軋んで痺れたように痛む。
酸素が足りない頭で必死に思考を巡らせる。『神と人間の魂のための会』、いつか、どこかで聞いたことがある名前だ。さっきヒロトは直訳した名称だと言っていた。なら、意訳だったら?
神……魂……大陸奥部、単語を組み合わせ、変換し、記憶を辿る。気を取られて呼吸のリズムが崩れ始めた。
あと一歩の所で思い出せない。だが、おそらく間違いないだろう。襲撃した連中は『あの中』の一派だ。
魔法少女の身柄を狙う世界中の秘密組織の中でも、宗教的な大義の下で拉致を試みる武闘派集団は日本国政府によって複数指定されている。中亜からの刺客で、タワー全体のインフラを停止させる事すら厭わない存在と考えれば、強烈な宗教的信念と歪んだ正義を掲げて行動する組織というペルソナが浮かび上がって来る。
しかし、たとえどんな武装勢力に襲われたとしてもモモが死亡することはまず考えられない。異端すぎるあの能力に、単純な暴力で立ち向かう事など絶対に不可能だ。
本当に最悪なのは、あの能力で相手が死亡すること。周囲に人間が多くなるほど生命力の吸収も強力になる傾向が確認されているため、短時間の接触でも急激に気力を失う事もある。
さらに、万が一魔法少女によって『殺された』場合、ほぼ間違いなく彼らはその事実を利用する。無意識下でも人を殺せる程の力を持つ存在が、数十万の市民の頭上に巣食っているという事実、さらに実際に死者が出たという事実を偏向的に拡散されれば、自分たちの立場は地に堕ちる。取り返しのつかない事態になる前に、彼ら、そして彼女を止めなければならない。
九三〇階。階下から、複数の人間の物々しい足音が反響して聞こえてきた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます