第2話 よく行ってたラーメン屋に珍しく行列ができてた
映画は名作だった。ただしそれは2時間だけの楽園。月曜からはまた仕事だ。この前あれほど叱責した上司は俺をこき使う。おい、俺がポンコツなのはわかっているだろう。そしてやはり失敗してしまう、それで怒られる。負のサイクルというべきか、スパイラルというべきか。
結構言われていたと思うが、自分の席に戻っても肩をすくめてちっちゃくなっている俺に声をかけるやつはいなかった。もう職場では浮いちゃってるのさ。視線が怖くていづらくなった俺はたまらず席を離れた。
会社の屋上で点を仰ぎながら俺は煙草を吹かせた。ここから飛び降りる奴がいるのだろうか、俺は怖くてできない。そんなこと考えていたらスズメバチが飛んできた。あれに刺されたら、死ぬのかなあ。せめて当分出社できない状態になりたいな。動きたくないな。戻りたくないな。消えたいな。金網越しに『自分が落ちていく先』を見下ろした。人が列をなしていた。
それを目で追っていくとラーメン屋が見えた。この瞬間、俺の頭の中の感情が絶望から驚きに変わった。そのラーメン屋は俺が会社に入ったころからの行きつけのラーメン屋だった…といっても最近は気持ちが沈むことが多く、行く機会も減ったが。ただちょっと寂れた老舗のラーメン屋でおしゃれなピザ屋や牛丼チェーン店に埋もれているような所なのになぜ…。
気になるから今晩行ってみよう。久々に醤油チャーシューメンを頼もう。俺に死ねない理由ができた。
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