俺に死ねない理由ができた

しげた じゅんいち

第1話 かつて見た番組の新作映画が公開になった。

 最悪だ。また仕事でやらかした。もちろん上司にはみっちり絞られた。その声には怒り以上に呆れが入っているように聞こえた。


 終わった。俺の中で何かが切れた。辞めたって30手前の俺に再就職先なんてありゃしない。いっそ死のう。消えたほうが社会のためなのだ。さあどうやって死のうか。そんなこと考えながら俺はボーっとテレビを眺めた。何も入ってこない。


 思えば俺の人生いつからおかしくなったのだろうか。働き始めたころは理想も熱意もあった。ただ現実の壁に阻まれ、思ったようにいかなくなり、いつしか俺はただの無気力な業務遂行マシーンとなった。ただ身が入らず失敗ばかりの日々。家に帰ったら寝るだけ。休みの日も寝るだけ。何のために生きているかわからない。もう一度子どもに戻りたい。日曜にヒーロー番組を見るためにテレビにかじりついてた、あの頃に。


 そんなこと考えているとちょうどテレビにかつて見ていたヒーロー番組が出てきた。なんと放送から25周年記念で映画化するそうだ。すぐさまネットで調べたらいろんな情報が入ってきた。今度の土曜日公開であること。そして入場特典のステッカーがあること。


 今日は水曜日。明日明後日はなんとか仕事をやりすごせそうな気がした。彼は少年時代の心の支えだった。何があっても絶対に視聴していた。この映画も絶対に見に行く。死ぬのはそれからでもいいじゃないか。当分、俺に死ねない理由ができた。

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