3 大きなお風呂、です!
次の日。
「ん〜〜……ねむい……」
昨日はあんまり寝付けなかったから、まだねむいんだけど、ママがもう朝だから起きなさいって。
「でもすごかったなあ、あの魔法……」
寝付けなかったのは、昨日キリオンお兄さんが見せてくれた魔法のせい。
村のみんなはもちろん、冒険者の人だって魔法を使ってるところを見たことなかったわたしには、とっても衝撃的だった。
「わたしも使えるようになったりしないかなあ?」
うーん……キリオンお兄さんが何才なのか聞いてなかったけど、若いと思うなあ。見た目はこの前結婚したヘンリーお兄さんと一緒くらい? だったら20才とかかな?
「……今からまじめにお勉強すれば使えるがしてきた」
ネルくんたちが読んでた絵本では、魔法使いさんは杖や本を使って魔法を出していたって書いてあった。
杖はよくわかんないんだけど、本はきっとパパやママが読むみたいな難しいお勉強の本のことだよね。
わたしは今年で7才!
だからええっと…………
「今からやればきっと大丈夫! 何をお勉強したらいいか、さっそくキリオンお兄さんのところに聞きに行こう!」
昨日オーグおじさんたちが、キリオンお兄さんのために木を切り倒した場所はちゃんと覚えてる。
だからわたしは今日も、みんなに見つからないように洞窟のお外へ出ることにした。
「んえっ!? 何このお屋敷!!」
思わず叫んじゃったけど……場所間違えてないよねわたし!?
みんなのいる洞窟の出入り口から少し離れたところにある
「村のみんなが頑張っても、1日でこんな立派なお屋敷建てられないよね?」
今はもうなくなっちゃったけど、村長のおじいちゃんのお屋敷と同じくらい立派だよ! あの時は確か、9ヶ月くらいかかってた気がする。
もしかして、お、お化け屋敷かなにかかな。
なんて思っていると、立派なお家にあんまり似合ってない飾りっけのないドアが開いた。
「すごい声が聞こえたと思ったらノエルちゃんか。こんな早い時間からどうしたの?」
中から出てきたのはキリオンお兄さん。
起きたばっかりなのかな? 服は昨日着てた物よりもだぼっとしてるし、髪の毛だって……
「……ぷくく」
あまりにもすごい寝癖だから、思わず笑っちゃった。
「……あー、まだ髪を直してなかったな。自分でも酷いのはわかってるけど、そんな笑わなくたっていいじゃない」
くしゃっとキリオン先生も笑って、右目を手で押さえてる。変な笑い方だなあ。
「“探知”……ノエルちゃん、1人で来たの?」
「うん、パパもママもお外に出ちゃいけませんって……でもね! わたし、大魔法使いさまのキリオンお兄さんに魔法を教えて欲しいの! あの、うるふ? を倒したやつみたいな!」
こういう頼み事をするときは勢いが大事ってパパが言ってたから、わたしは頑張ってキリオンお兄さんにアピールする。
「うーん……まあいっか。お家の中見せてあげるから、おいで」
キリオンお兄さんはわたしのアピールの途中から髪をいじいじしてたけど、最後には笑って手招きしてくれた。
「おじゃまします!」
キリオンお兄さんに着いて、お屋敷の中に入ってみる。中も村長のおじいちゃんのところみたいに豪華なのかなあって思ってたんだけど、
「思ってたのと違う! でもすごい!」
豪華じゃなくてものすごく不思議なお屋敷だった!
キリオンお兄さんが着てた上着は勝手に壁掛けに掛かっちゃった。
その奥ではフライパンとかお鍋が誰もいないはずなのに勝手に動いてる。いい匂いもするし、キリオンお兄さんの朝ごはんかな?
そんな不思議すぎるお部屋の中で一番目立つのは、入ってすぐの壁ぞいに置かれてた、
「大きなお風呂、です!」
「違う違う、それは“錬金釜”っていう錬金術の道具だよ」
「これもれんきんじゅつの道具、です? というかれんきんじゅつってなに? です?」
「ご飯を食べた後で……あ、ノエルちゃんはご飯は食べた?」
キリオンお兄さんの言葉に、わたしはハッとする。
「その顔はまだみたいだね。じゃあ“一人前追加”しておくから、テーブルに座って待っててね」
キリオンお兄さんが手を差した方を向くと、今度は椅子がひとりでに動いてわたしが座りやすいようにしてくれた。
それにお皿やフォークも食器棚からふわーっと登場。わたしがこれから座るイスの前でスッと止まった。
「……ふへえ」
ほんとに何から何まですごすぎて、あたまがぼーっとしてきた。とりあえずあのイスに座ろう。
こんな不思議なお屋敷なのに、イスとかテーブルとかフライパンは雑貨屋さんとかで売ってるのと見た目は一緒くらい。違うのは座るところにクッションがあるくらいなんだけどなあ……よいしょっと。
「……ふへへへえ」
ごめんなさいキリオンお兄さん、はしたない声出しちゃって。
でも、このイスが悪いんだよ。普通の見た目でこんなに気持ちいいなんて、不意打ちってやつだよ。
「こんなすごいもの持ってるなんてぇ……キリオンお兄さんは、ちょー大魔法使いさまなんだあ……」
「うーん、魔法使いじゃないんだけどなあ。というか、ちょー大魔法使いさまってなんのこと?」
わたしがつい言ってしまった言葉に反応されて、わたしはビクッと背筋を伸ばす。
「な、なんでもないの! です!」
「そう? じゃあとりあえずご飯にしよっか」
そう言いながら、わたしの向かいに座るキリオンお兄さん。あんなにひどかった寝癖ももうすっかり直って、昨日とほとんど同じ髪型になってた。
もしかして、その寝癖直しも魔法だったりするのかな?
そんなことを思ってると、フライパンさんとお鍋さんがやってきてお皿の上にお料理が……次々と!?
「こ、こんなに食べていいの!?」
わたしのお皿に並べられたのは、私の6才のお誕生日のご飯と同じくらいの種類のお料理! でも多分わたしでも食べ切れるくらいの多さだと思う。
肝心のお料理は、サラダ以外はなんだか全然わかんないけど、匂いだけでももう美味しい。
「勿論だよ、そのためにこの子たちが作ってくれたんだから」
そうキリオンお兄さんがフライパンたちを手で紹介してくれる。フライパンさんたちもえっへん、と誇らしげな感じで柄から上の部分を反らせてわたしの方を見てる……気がする。
「作ってくれて、ありがとう!」
お礼は忘れちゃダメ。パパとママもよく言ってたことだからしっかり言うよ。
フライパンさんたちはお辞儀をするみたいに、柄から上を今度は曲げて倒してからキッチンまでふわーって戻っていく。
「ねえねえキリオンお兄さん! わたし生きてるイスとかフライパンとか初めて見た、です!」
「まああんな小さな村に住んでたんだから、見たことなくて当然だよね。後で教えてあげるから、まずはご飯を食べよっか」
キリオンお兄さんが両手を合わせる。私もそれにならって、手を合わせる。
「「いただきます!」」
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