4 ついて行ってあげて
「ごちそうさま! です!」
「美味しかった?」
「うん!」
フライパンさんたちが用意してくれたご飯はどれもこれもすごく美味しくて、食べるのがもったいないって思ったのは6才の誕生日ケーキ以来かも。
「さて、ノエルちゃんがここに来たのは、俺がウルフにやったみたいな、魔法を使いたいってことだよね?」
「そうだよ! あと椅子さんとかフライパンさんとかがどうやって動いてるのかも知りたい!」
「それなら早いかな、両方とも元々は一緒だから。……こっちにおいで」
キリオンお兄さんは立ち上がると、れんきんがま? の前に歩いてったの。私ももちろんついていく。
「家に入る前にも言ったけど、俺が使うのは魔法じゃなくて、錬金術って言うんだ。だいたいはここに置いてある錬金釜を使うんだ」
「え? そうなの?」
わたしはその錬金釜の中を覗いてみることにした。ちょっと高いけど、飛び乗れば大丈夫!
「あれれ? 水だけ?」
中には透明な水と、それをかき混ぜる棒みたいなのがあるだけ。おうちにあった水瓶の中身をもっと綺麗にした感じ。
魔法使いさんが使うような、特別製! みたいな感じがなくてちょっと残念。
「まだ何もしてないから、中身はその水だけなんだよ」
そう言って、キリオンお兄さんはわたしにお話を続けてくれた。
「それでね、錬金術はフライパンや椅子とかの、道具を作ることができるんだ。魔物を倒したのは、魔法みたいなことを起こせる道具を作って、それを使ったからなんだよ」
「うーん……?」
わかるような、わからないような。
「大工さんとかと違うのは、そういう魔法みたいな効果がついた道具を作れることなんだ。って言ってもあんまり分かってないみたいだね」
「うーん……だって大工さんは椅子を作る時に木を切ったりするし、金物屋さんはフライパンを作るのにどろどろの鉄を流し込んだりするんだよ? このお家にそんな場所ないよ?」
わたしのぎもんに、キリオンお兄さんは髪をいじりながら感心したみたいに、ほーっ、と言って笑顔になった。
「よく見てるね、すごいよノエルちゃん。でも錬金術はそんなもの必要ない、この釜だけで十分なんだ」
「そうなの?」
「そうだよ、よく見ておいてね。あ、でも危ないから一旦降りててね……来い、“コンテナ”」
わたしが床に着地して、キリオンお兄さんが何か呟いた。
すると、右手の上になんだか丸とか三角とか文字でいっぱいの光が現れた!
かと思うと、今度は鉄のかたまりがその中からボトッと出てきた!
その鉄のかたまりをキリオンお兄さんは、錬金釜のなかにぽーいと投げ入れた。
「わわっ!」
だぽん! ってすごく大きな音がしたけど、このお釜壊れたりしない……?
わたしが思っている間にも、キリオンお兄さんは光から右手に落ちてくる木、葉っぱ、色のついた水、丸い玉、本、顔のないお人形なんかを次々に入れていく。
「??」
わたしの頭の周りを“?”があっちこっち飛んでる。鉄とか木とか葉っぱはまだわかったけど、そこから先はなんで入れるのかもわかんない。
もう入れるものは全部入れたみたいで、今度は棒で錬金釜の中をぐるぐるかき混ぜ始めた。
結構つよく回してるけど、すごく静か。というかキリオンお兄さん目を閉じてない? 本当に大丈夫??
「“抽出”よし」
キリオンお兄さんが目を開けて何かを呟くと、今度はおかまの中から真っ白な光が出てきた! なんだろう、すごく綺麗……
「“成形”よし」
次にその光が夕焼けみたいな赤色、黄色、緑色……と次々に変わって、
「“注入”……よし」
最後に絵の具みたいな紫色に変わって光がおさまった。それからもキリオンお兄さんは少しおかまの中を回し続けて少し。
「さて、完成だよ」
そう言ってキリオンお兄さんがかき回し棒を取り出すと……!?
「何これ可愛い!!」
棒の先にフライパンがくくりつけられてた!
しかもお母さんやキリオンお兄さんの家にあるものじゃなくって、絵本みたいな柄がたくさん入ったとっても可愛いフライパン。
なんだろう、高級なお茶の容器みたいな感じ?
「ちゃんと動くよ、ほら」
キリオンお兄さんがそう言うと、フライパンさんは自分でかき回し棒から離れて私に向かって礼をするように柄から先を下げてくる。
「ど、どうも、です……?」
これであってるかな? フライパンさんに挨拶するのはこれで2回目なんだけど大丈夫かな?
ちらっとフライパンさんの方を見ると、満足したみたいに真っ直ぐになって、キリオンお兄さんのところに戻って行った。
「ああ、俺じゃなくて彼女の方について行ってあげて。それと、彼女の前以外では勝手に動かないようにね」
するとふわーっと動き出して私の左手のところにくるフライパンさん。
どうぞ、って感じで私の方に持ち手を向けてくる。
「これ、いいの??」
「錬金術はこんなこともできるっていう、説明と記念にどうぞ」
恐る恐る持ち手を握ってみると、とっても軽かった。ママが使ってるのと全然違う。
「うわあ……!!」
近くで見ると、細かな絵とか模様のふくざつさ、綺麗さに感動しちゃう。本当に料理に使っていいのかなこれ。なんだかとてももったいない気持ちになりそう。
「とまあこんな感じで、材料とイメージ、それに加えたい性質があればなんでも作ることができるのが錬金術だよ。今回はフライパンが、俺の家で使ってるものと同じように“勝手に動いたりできる”ようにしてみたんだ」
「ふわぁ……錬金術ってすごいんだね……わたし絶対忘れないし、このフライパンも大切にするね」
「ありがとう。俺も覚えてもらえると嬉しいな」
わたしが顔を上げると、微笑むキリオンお兄さんの顔が見えた。
……どうしてなんだろう。
わたしにはなんだか、笑ってるキリオンお兄さんが泣いているように見えた。
涙なんかちっとも流れてないのに。
「……?」
「? 何か俺の顔についてた?」
「ううん、多分気のせい! です!」
気のせい気のせい。だって悲しいことなんて何もないから!
「さて、俺が魔法使いじゃなくて、物を作るのが仕事の錬金術士ってのはわかってくれたかな?」
「はい!!」
やってることは正直よくわかんなかったけど、ってのは言わないほうがいいよね。
口は災いのもと……だったよね。あってる?
「うん、いい返事だ。——ちょっとまってねノエルちゃん、“探知”……いやもっと。“レーダー”」
突然真剣な顔になったキリオンお兄さん。
ドアを開けた時と同じように、片目を押さえて後ろを向いちゃった。
「どうしたの? もしかして目が痛いの?」
「ん? いや、そういうわけじゃないんだけどね」
キリオンお兄さんはちょっと笑うと、また真剣な顔に戻ってわたしの肩に手を置いた。
「村のみんなが危ないかもしれない。ノエルちゃんはここで待ってて」
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