2 どこか余ってるか
「あそこが、わたしたち村のみんながいる洞窟、です!」
「おー、やっとか。ノエルちゃん結構歩いたんだね」
「マーくんのために頑張った、です」
わたしが帰りたいって言ったら、大魔法使いさまのキリオンお兄さんは村のみんなのところまで送ってくれるって言ってくれたの。
足も痛いって言ったら、おんぶもしてくれた。キリオンお兄さんはほんとに優しい。パパも時々しかおんぶしてくれないのに。
村から洞窟までオオカミさんみたいな怖い動物にはもう会わなかったから、わたしも一安心。もうここまで来れば大丈夫!
って思ってたんだけど……
「どうしたの? ノエルちゃん」
「うーんとね……もしかしたらわたし、怒られちゃうかも、です」
「そういえば、あの洞窟から村に行ったことは誰にも言ってなかったんだよね。大丈夫、怒られる時は俺も一緒に怒られてあげるから」
「……いいの? わたしのパパとママ、怒るととってもこわいんだよ、です? あれ? こわいんです、だよ? ううん……?」
うーん、なんか言い方がそわそわする。
パパやママは、知らない人や村の外から来た人とお話する時は、言葉の最後に“です”をつけなさいって言ってたんだけど、なんだか変な感じがするなあ。
「それはちょっと嫌だけど、お兄さんもたくさん怖い人に怒られてきたから大丈夫だよ」
キリオンお兄さんが笑ってくれた。
……言いたいことはわかってくれたからもういいや! わたしの中のもやもやを、どっかに放り投げた。
そう思っていると、洞窟の入り口が近づいてきた。
「皆! ノエルちゃんだ!」
洞窟の入り口に立ってたオーグおじさんが、洞窟の中に向かって叫んだ。相変わらず声が大きいなあ。
「男は構えろ!」
「ヒィ!!」
オーグおじさんがわたしに向かって叫ぶと、木の影からクワとかスキを持った男の人たちがいっぱい出てきてあっという間にとり囲んだ! なんなのこれ、怖いよ!!
「怪しい奴め! ノエルちゃんを離せ!」
「……だって。ノエルちゃん、もう自分で歩ける?」
「だ、大丈夫、です」
怖くて足が震えるけど、キリオンお兄さんがずっとおんぶしてくれてたから足はすっかり痛くなくなったの。
そのまま歩き出して、オーグおじさんのところに行く。
「洞窟の奥に隠れてな」
オーグおじさんはひそひそ声でそう言って、手に持った……ええっと、確かヤリってのをキリオンお兄さんに向けた。
(奥に隠れてって言ってたけど、ここならいいよね?)
わたしは奥に行くふりをして、岩の影からキリオンお兄さんを見ることにした。わたしは村の中でも小さいから、きっとバレたりしない。
「素直に村の子を離したことは誉めてやる。どうしてここに来た」
「ノエルちゃんが、村の皆のところに戻りたいと言うから連れてきた」
「お前が連れ出したりしたわけではないというわけだな?」
「もちろんだ」
「そうか……と言って信じるとでも?」
オーグおじさんはそう言って、ヤリをずいっとキリオンお兄さんに近づけた。
「うん?」
「誰かが村に魔物の群れを手引きした、まず間違いなくな。そして若い衆に王都に救援を出して1週間。王都にそいつが入ってたにしても、こんな短期間で助けが来るとは思えん。そして我らが村に訪れた旅人は過去1年間でほぼゼロだ。だったら村の誰も知らぬお前が魔物を手引きした犯人だろう」
「……すごい杜撰な理論だけど、ノエルちゃんを連れて来なかったらならそう思っても仕方ないな。ノエルちゃんの件はどうするんだ?」
「人数差に怖気付いたんじゃないか? 村の結束力を侮ったな、人殺しめ」
そしてオーグおじさんがヤリを引いたかと思うと、
「死ね!」
それを勢いよく突き出した! それに周りのみんなもクワとかを振り下ろしてる!
「キリオンお兄さん!!」
わたしは叫ばずには居られなかった。このままだとキリオンお兄さんはきっと……ううん。
オーグおじさんたちが、キリオンお兄さんに殺されちゃう。
今のオーグおじさんたちは悪者だ。わたしに優しくしてくれたキリオンお兄さんを傷つけようととしてるから。
大魔法使いさまは、悪者をやっつけるのがお仕事。だったらきっとみんなは……!
「“痺れろ”」
わたしの目に映ったのは、オレンジ色に光るキリオンお兄さんの指輪と、突き出す途中で止まったオーグおじさんのヤリ。
よく見たらオーグおじさんだけじゃない、周りのみんなも腕を上げたりしたまま止まってた。
(でも、あの時みたいに周りは灰色になってないし……なんだろう?)
「ただの“麻痺”、10秒ほど動けなくなるだけだ。……あんたら命拾いしたな、ノエルちゃんに感謝しろよ」
キリオンお兄さんが声をかけても、周りのみんなは全然動かない。
うーん? って思ってると、後ろからわたしの横を通って洞窟の外に出ようとしてる人が。
「村長のおじいちゃん! みんななんか変なんだよ、怖いよ……」
「おおそうじゃな、儂に任せておけ……皆、武器を下ろすのじゃ」
村長さんの一言で、みんなが手に持ったものを空に向かって立てる。これでキリオンお兄さんに武器は向かなくなった。ほっとした〜……。
「旅のお方、申し訳ございませぬ。村の者らが武器を向けてしまい……」
そう謝る村長さん。そうだよそうだよ、わたしを助けてくれたキリオンお兄さんに危ないもの向けるなんてみんなひどいよ!
……いま叫ぶのは怖いから、心の中だけにしておくけど。
「続けて」
そんな中でもキリオンお兄さんは、みんなみたいに怖い顔は全くしてない。さすが大魔法使いさま。これくらいはへっちゃらなんだね。
「はい……村の者やノエルから話は聞いておるかもしれませぬが、1週間前に我らの村が魔物の群れに襲われました。ウルフ、兵隊ラビット、ゴブリン、レッサーオーガー……もっと種類がいたかもしれません。そんな事は過去になかった事ですから……魔物は無理にしても村の者ではない人間を洞窟に通すなど厳命しておりました」
「その結果が、こうなったってことね」
「その通りです。そして重ね重ね大変申し訳ございませんが……ノエルを救っていただいて感謝しております。ですが村がこの状況故我らから出せるものは何も……場合によっては、儂の死だけでどうか許しては貰えぬだろうか……」
村長さんの言葉に、周りのみんながあたふたし始める。村長さん死んじゃうの!?
「ふうむ……」
キリオンお兄さんが、また髪をいじいじし始めた。
そしてすぐに、両手をパンっと叩いた。まさか村長さんに死ねって言わないよね??
「じゃあこうしよう。土地はどこか余ってるか? 少し腰を据えて調べたいことができた。この洞窟からそう離れていない場所だと有難い」
よかった、村長さんはまだ長生きできるみたい。
「それは魔物をけしかけた者を……!?」
キリオンお兄さんが、手で村長の言葉を止めた。
「それを含めて、色々調べたいんだ。洞窟の中は俺はいつ襲われるかわかったもんじゃないし、村長方も部外者は入れたくないし差し出せるものもない。ここら辺が落とし所だと思うんだが?」
「は、はい! すぐにご用意します!」
わわわっ、みんなが村長さんに合わせてすごい勢いで動き出した! 斧で木を切り倒してる!
あんまりよく聞こえなかったんだけど、キリオンお兄さんはいろいろ調べるって言ってたよね?
何が気になってるんだろう?
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