1 大魔法使いさまだ!
「見つけた!!」
わたしの名前はノエル。
ここにあった村に住んでた女の子。今年で7才になるの。
わたしが住んでたここの村に、たくさんの魔物たちからやってきたのは4日前の朝。
魔物はあっという間に村に入って、家をぜーんぶ壊して燃やしちゃった……。
その日の夜は泣いた、とっても泣いた。
だってすごく仲の良かった隣のシアちゃんところのトンプソンお兄さんや、お向かいのフェンおじさんがわたしたちを逃したまま帰ってこなかったから。
でもそれと同じくらい悲しかったのは、お家にくまのマーくんを置いてけぼりにしちゃったこと。
マーくんはぬいぐるみで自分で歩けないから、わたしが助けにいかなきゃ!
そう思って、村のみんながいる洞窟から抜け出してここまでやってきたの。足が痛くて大変だった。
わたしのお家があったところは覚えてたから、マーくんを見つけるのは簡単だったの。
「マーくん!! 無事で良かった……」
真っ白な毛並みのほとんどが黒くなっちゃってたけど、このお顔は間違いなくマーくん。
「もう離さないよ……」
嬉しくて、どこにもいって欲しくなくて、ギュッとマーくんを抱きしめる。
どれくらいそうしてたかな。
あんまり時間は経ってないと思ったんだけど、わたしの後ろでガサッ、と誰かが地面を踏む音が聞こえたの。
もしかして、トンプソンお兄さん? それともフェンおじさん?
そう思って振り向くと、そこに居たのは5匹の大きなオオカミさん。
でもすごく怖い顔をしてる。きっと普通のオオカミさんじゃない!
「きゃああああ!」
きっとこのオオカミさんたちも、村を襲った魔物の仲間なんだ!! わたしもエサにされちゃうんだ!!
そう思うと、怖くて怖くてとっても大きな声が出た。
「あああああ!?」
「あ、もう着いた? そんなに遠くなかったみたいだ
ね」
そんなわたしの前にさっそうと現れたお兄さん。ほんとに突然のことでビックリして、腰も抜けちゃった。
「ヴォヴ!!」
(ひぃ……!!)
わたしが聞いたこともないような、恐ろしい声で鳴くオオカミさん。
目も血走ってて、やっぱり怖いよう……。
お兄さんは怖くないのかな?
お兄さんの目は糸のように細くて、髪の毛はすごい癖っ毛。こんな人は村で見たことはないから、村の人でもいつも来る商人のおじさんでもない。
1回しか来ない人を確か、村のみんなは旅人って言ってたっけ?
「お兄さん、旅人さんです……? 助けて欲しいのです……!」
「女の子に助けを求められる……まるで物語みたいだな」
「お、オオカミさんが!!」
お兄さんが何か言ってたみたいだけど、わたしはオオカミさんたちがお兄さんの後ろから走ってきたことに怖くなって叫んでた。
思わずマーくんを強く抱きしめる。
「俺は今この子とお話中なの。ちょっと“ストップ”ね」
お兄さんがオオカミさんたちに話しかけると、オオカミさんがピタッと止まった。
それだけじゃない。オオカミさんの周りで上がる煙とか、風で揺れてたぼろ切れとかも全部全部止まっちゃった。
動いてるのはわたしとお兄さんだけ。
「あの……何が……??」
わたしは何が何だかわからなくて、とりあえずお兄さんに話しかけてみた。
「とりあえず、ウルフたちには待ってもらったよ。ちょっとおちついてお話できるかな?」
「え、えええぇぇ……??」
待ってもらった、ってお兄さんは言ってるけどわたしはますますワケがわからなくなった。
だってオオカミさんたちは走ってる途中で止まってるし、空中で体が全部浮いてる子もいたから。あんな風に止まるなんて村のみんなは誰もできないと思う。
「落ち着くおまじないをかけるから、じっとしててね」
お兄さんの手で、“?”でいっぱいのわたしの頭が優しく撫でられる。どうして今なんだろう?
でもなんだか気持ちよくて、とっても安心する。
さっきまで怖かったオオカミさんのことが頭の中からぼや〜っと消えていって、なんだか普通に話せる気がしてきた。
旅人のお兄さんのおまじないは、すごい。はじめて知った。
「……あ、落ち着いたの、です」
「それは良かった。まず、君の名前は?」
「ええっと、ノエル、です」
「じゃあ、ノエルちゃんはどうしてここにいるの?」
「あの、この子を探しに……」
そう言って、わたしはマーくんをお兄さんに見せる。取られるのはいやだから手からは離さないよ。ごめんねお兄さん。
お兄さんはさっきわたしを撫でてくれた手の指で、癖っ毛をくるくるしたりねじねじしたりしてる。
なんだろ? でも、ステファンおばさんが困ってる時に、手のひらをほほに当てるのと同じ感じがする。
「ということはここは元々ノエルちゃんの家だったってこと?」
「そう、です」
「よくその子を見つけられたね。頑張って探した?」
「ううん、どこにしまったか覚えてたからそんなに時間はかからなかった、です。でも見つけて振り返ったらオオカミさんたちが……」
オオカミさんたちから吠えられたこと、怖い顔を思い出して、また怖くなってきちゃった……。マーくんも震えてるみたい。
「ノエルちゃんは、みんなの所に帰りたい?」
帰りたい。
わたしは上手く声が出せなかったから、とにかく激しく頭を上下に振った。こうしたらきっと伝わってくれる!
お兄さんはちょっと微笑んでくれたあと、
「じゃあ、まずはこいつらを倒しちゃうね」
なんでもないように、お母さんがご飯作るねって言ってくれるような感じで、わたしに話してくれて立ち上がった。
背中からだとよく見えないけど、またお兄さんは髪の毛をいじいじしてるみたい。
でもすぐにそれをやめて、指輪のたくさんついた左手を前に出した。
「よし、“戻せ”」
お兄さんがつぶやくと、オオカミさんも煙も一斉に動き出した。
オオカミさんがすごく早い! このままじゃお兄さんにぶつかる!!
「“冷えろ”」
小さくて聞き取れなかったけど、お兄さんが何か言うと指輪の1つが青く光った。真っ青な光なんて初めて見たからなんだろうと思ってると、
(……えっ)
お兄さんから前、オオカミさんや村だった場所が全部全部真っ白になった。
えっと、絵本で読んだことあるけどこれって雪?
確かすごく寒いところにしか降らないんだよね?
(あ、あれ??)
わたしが瞬きをすると、真っ白な世界は夢のように消えてなくなってた。煙とかぼろ切れもそのまま。でもオオカミさんだけは固まったまま動けないみたい。
(やっぱりこのお兄さん、魔法使いさんだ! それもきっと、大魔法使いさまだ!)
隣の隣の家のネルくんとか、柵の一番近くに住んでるマルクくんが読んでた絵本にそんな人が出てた!
その人はわたしたちができないような、杖から火や雷を起こして悪者をやっつけるんだって。そんな人を“魔法使いさん”って言うんだ。
そして、その人は自分の先生のことを“大魔法使いさま”っていってたんだ。
さっきお兄さんが見せてくれたのは、火や雷を起こすのよりも、きっともっとすごい。だから大魔法使いさま。
そんな絵本の中から出てきたすごい人が、わたしの近くに顔を寄せてくれる。
「ノエルちゃんから名前は聞いたけど、俺の名前を言ってなかったね。俺はキリオン。旅する錬金術師だよ。短い間かもだけど、よろしくね」
大魔法使いさまで、れんきんじゅつし? のお兄さんはそう言ってまたわたしの頭を撫でてくれた。
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