第25話
日も暮れて、ひぐらしの声があたりを包み始めました。
ゆうちゃん「さ!遅なったから帰ろか!」
あき「うん。」
そう言ってゆうちゃんは私を自転車の後ろに乗せて走り出しました。
ゆうちゃん「明日はちゃんと部活できるか?」
あき「うん。」
ゆうちゃん「よっしゃ、無理はせんでええけど、せっかくやから新人戦、全員で出られるように頑張ろうな!」
あき「うん!」
少しでも前向きになれる言葉をかけてくれるゆうちゃん。
ゆうちゃん「あき~!」
あき「うん?」
ゆうちゃん「電車来てるからちゃんと捕まっとけよぉ!」
あき「え~?電車来てても吹き飛ばされへんやろ!?」
ケラケラ笑う私に、尚もゆうちゃんは声を掛けました。
ゆうちゃん「ちゃんとしがみついとけって~!!」
あき「もう!意味わからん!!」
そう言いつつもゆうちゃんの胸にしがみつき、背中に顔をくっつけました。
電車が隣を並走する瞬間に
ゆうちゃん「あき~!好っきゃでぇ!ずっと一緒におろうなぁ!!」
そう言ってくれて、
もう一回聞きたかったから
あき「え?なんか言ったぁ?聞こえんかった~!なにぃ?」
って聞き返したけれど、
ゆうちゃん「何も言うてへぇん!」
ちょっと顔を赤らめているゆうちゃん。
あき「絶対なんか言うたもん、何?」
どうしてももう一回言わせたくて聞こえなかったフリを続行。
ゆうちゃん「何も言うてへんって!」
そう言いつつも
ゆうちゃん「好きやなんて言うてへんからな!」
顔を真っ赤にしていうゆうちゃん。
あき「なに~?大好きやって言うたって事?」
そう聞いたら
ゆうちゃん「あほ!」
そう言われて、でも、胸に回した手をグッて引っ張られて、
ゆうちゃん「ちゃんとしっかり捕まっとけよ?」
そう言ってくれました。
しばらくして反対から電車が来た時に
あき「ゆうちゃ~ん!」
ゆうちゃん「ん?」
あき「うちも大好き!」
そう伝えると
ゆうちゃん「知っとる!」
照れ隠しのように強がって言うゆうちゃん。
2人でケラケラ笑いながら帰路につきました。
『大丈夫、まだ笑える。』
『大丈夫、ゆうちゃんが居てたら乗り越えられる。』
おじぃが亡くなってからずっと響いてたあの『人殺し』って響く男の人の声が、どんどん小さくなっていくのを感じました。
ゆうちゃんの胸はドキドキと鼓動を立てていて、『生きてる人の鼓動の強さ』を思い出させてくれました。
ゆうちゃんの背中は思ったよりも大きくて、頬を付けるととっても温かみがありました。
『生きてる』
『生きてるってこういう事や』
温かくて、力強い鼓動が感じられて・・・。
大好きなおじぃは亡くなってしまったけれど、大好きな家族、大好きな友達、そして大好きなゆうちゃんが傍にいてくれる・・・。
『大丈夫、頑張れる。』
ゆうちゃんの鼓動を聞くたびに、力が少しずつ戻ってくるかのように感じました。
家に着くころには、『人殺し』の声は限りなく小さくなっていて、ゆうちゃんが家に着く寸前に周りを見渡しながらこっそりとしてくれたキスで完全に止みました。
あき「消えた・・・。」
思わず声に出てました。
ゆうちゃん「ん?何が?」
あき「なんでもない!」
ゆうちゃん「なんやねん、気になるやん?」
あき「長い間耳鳴りみたいなんがしてたんやけど、いきなり止んだから・・・。」
さすがに『人殺し』って聞こえてるとは言えなかったので、『耳鳴り』と表現しました。
ゆうちゃん「なんかようわからんけど、ゆうちゃん特効薬が効いてんな?」
あき「そうみたい。」
ゆうちゃん「よっしゃ!耳鳴りしたらいつでも言えや?特効薬すぐに届けたるからな!!」
多分ゆうちゃんは『耳鳴りの原因』がおじぃの死だと分かっていたのでしょう。
そんな軽口をたたきながらも、心配してくれたのは言葉の端々からくみ取れました。
何度思っただろう・・・。
『ゆうちゃんで良かった』
『この人ならきっと一緒に正しい道を歩ける。』
そう、私の中でゆうちゃんはヒーローでした。
嬉しい事も悲しい事も、ゆうちゃんと居られればきっとどんな困難も乗り越えられる。
そう心の底から信じられるほどに・・・。
ゆうちゃんは、本当に頼もしいヒーローでした。
ゆうちゃんを見送って家に入ると、心配そうに見つめるおかんとおとん・・・。
いつもなら『こんな遅くまで!門限何時やと思てん!!』って怒られるのに、何も言って来ませんでした。
あき「おそなってゴメン、ただいま!」
笑顔で言うと、ホッとしたように
おかん「おかえり!」
おとん「はよ着替えてこい、もうご飯の時間ぞ?」
2人の顔も安堵に満ちていました。
『いっぱい心配させてもぉた・・・。』
『もっとしっかりしよ!』
そう心に誓いました・・・。
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