第21話
タクシーの中で考えてたのも
『お金足りるかなぁ?』とか、『足らんかったら待ってもろてておとん読んだらええかぁ・・・。』とか呑気な事ばっかり・・・。
結局お金は無事に足りたので聞いていた病室に行くと、頭に白い包帯を巻いたおじぃが寝てました。
おかんの目はすでに真っ赤。
病室の雰囲気と、おかんの目がただ事じゃない事を物語っているのに、それでも何事かわからず、ただただポカンとおとんを見ました。
おとん「おじぃな、自転車で高いところから落ちて頭打ったんや・・・。ちょっと危険な状態ってお医者さんに言われてな・・・。おじぃはあきの事大好きやから声聞きたい思てると思うぞ?声かけてあげ?」
目の前の状況を目の当たりにしても、おとんの言葉を聞いても、理解できませんでした。
大好きな大好きなおじぃが、今朝まで一緒に寝てたおじぃが、無機質な病院のベットで呼吸器に繋がれて『ヴォ~、ん~、ゴー』と、変な呼吸してる。
頭には白い布が巻かれ、一部分が変な形してる。
目の回りは腫れぼったくなってしまってて、いつもあききちを抱っこしてくれてた腕にはたくさんの管が繋がれていました。
あききち「おじぃ?」
おじぃの傍に行って声をかけながら手を握りました。
おじぃの手は既に冷たく、冷水の中に入れているたかのように冷え切っていました。
それでも握り続け、『私の体温全部上げるから、おじぃの身体温めて!』って思いながら握り続けても、おじぃからの返答は
おじぃ「ンゴ~、グコ~」
という、おかしい呼吸音だけでした・・・。
でも、声に反応したのか少しだけ指先が動いたのです。
あききち「おじぃ?起きて?」
あききち「おじぃ?なぁ、おじぃ!」
動いた手を必死でさすりながら、温めながら、何度呼び掛けても、おじぃは目を開けてくれませんでした。
あき「おじぃ、どうしたら起きるん?」
おとんに向かって聞いてもおとんも目を逸らすばかり・・・。
お医者様が丁寧に説明してくれました。
医師「あんな、あきちゃん、おじぃさんな、転んだ拍子に頭打ってな、脳内に血の塊が出来たんや。それが原因で脳が腫れてしもてな、骨と脳の間にホンマはある隙間までいっぱいになって死もうてね、脳がもっと腫れたらパンパンになってまうから、頭の骨を外して腫れが引くのをまってんねや。」
あき「骨やか外して大丈夫なん?」
医師「大丈夫とは言い切られへんねんけどな、外さんとパンパンになった脳の血管が詰まってしまうんや。」
医師「腫れが引いたらちゃんと骨を戻すから、今は別のところに大切に置いてんねん。」
『大丈夫とは言い切られへん・・・。』
お医者さんの精一杯の優しさから出た言葉だったのでしょう・・・。
簡単に説明するには『脳の血管が死んでまう』って言うたら良いのに、『死』を連想させる言葉もなるべく使わず、親身に説明してくれました・・・。
頭の骨を外していたおじぃの頭の形はイビツでした。
その後も『脳の腫れが収まって、出血が止まれば後遺症があっても助かるから・・・。』
そんな説明を受けた気がします。
でもごめんなさい。
実のところあんまり覚えてないんです。
ショックすぎて、この頃の記憶は曖昧です。
ただ、覚えてるのは、出血は止まることなく。
再度手術室に入ったおじぃはその後ICU(集中治療室)に入る事となりました。
ICUから出て、元の病棟に戻った時、私は『出られたから治る!』そう思ったのですが、本当は『もう手の施しようが無いなら一般病棟に戻って、お孫さん(私とおねぇ)が見守る中で逝かせてあげたい』
そう言う両親の願いの元、出て来ただけで・・・。
大好きなおじぃは、そのまま目を開けることはありませんでした。
ここからもうろ覚えではありますが、亡くなったおじぃを家に迎える準備のためにあききちとおかんとおねえは先に家に帰ることになったと思います。
その記憶も曖昧ですが、おかんが無言で車を走らせたような気がします。
昨日まで・・・。いや今朝まで元気だった人の突然の死・・・。
想像もしてませんでした。
きっとおかんも一緒でしょう。
この帰り道位から、あききちの心に黒い、真っ黒いシミとコダマする声がありました。
『お前が泊まりに行ったりしたからこんなことになったんや、お前が泊まりさえせんかったらおじぃは死なんかったんや、おじぃを殺したんはお前や、人殺し、人殺し、人殺し・・・』
どこからかずっと耳鳴りと一緒にそんな男の人の声が響いてきていました。
『そんなこと無いわ!違うわ!!』って言いたいのに、言おうとするたび声は大きくなっていき、どんどん頭の中で反響を続けました・・・。
未だに怖くて
あの朝、なんでおじぃは八幡さんに行ったのか・・・。
八幡さんに朝参りに行くのは毎日している日課にだったのか・・・。
誰にも聞けません。
日課じゃなかったなら・・・。
あききちが泊まったのが嬉しくて、八幡さんに報告に行ったとかだったら・・・。
そう考えると未だに怖くてたまらなくなります・・・。
このシミは今も消えることなく、心の中に居座り続けています・・・。
大好きなおじぃの死は、何十年もたった今でさえ、思い出すと心が苦しく、息が詰まるような出来事でした・・・。
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