第14話


木野くんとの電話が終わり、ゆうちゃんに報告の電話をすべきか悩みましたが、当時はまだ携帯も無く、電話=家電だったのでちょっと躊躇し、結局かけませんでした。



『翌朝10時に駅で・・・』と、ゆうちゃんが電話で言ってたので、とりあえず歩いて駅に向かいました。



ゆうちゃんは原付で現れ、駐輪場に原付を止めて近づいて来ました。



ゆうちゃん「あき!おはよ!」



あき「おはよ、あの、昨日・・・。」



ゆうちゃん「昨日、あきとの電話切った後の木野から電話かかって来て全部聞いた!ちゃんと頑張ったな!」



頭をポンポンしながら誉めてくれました。



あき「うん、頑張った・・・。けど、迷惑かけてばっかでごめんなさい。」



ゆうちゃん「アホか、お前なんも悪ないって言ってるやろ!」



そう言ってくれて、しばらく頭ポンポンは続きました。



ゆうちゃん「よっしゃ!ご褒美や!遊びに行こ!」



あき「せやな!ほな今日は誰呼ぶ?」



ゆうちゃん「ん?今日は2人でええんちゃう?」



ビックリしました。



それまで2人きりで遊んだことなんて無かったし、今日も遊ぶとしたらもちろん誰か呼んで一緒にってなると思ってました。



ゆうちゃん「なんや、いやか?」



嫌なはずありません。



あき「ううん。嫌じゃない。」



気持ちがばれるのが怖いってのはありましたが、嫌なはずありません。

好きな人と2人きりでおでかけ・・・。



デートではないけど、誰にも邪魔されない2人だけの空間・・・。

心臓がもつかどうかが不安な位にドキドキしていました。



とりあえず電車で街まで出る事になり、横並びに座って電車に揺られながら、手が触れてもおかしくない距離間だったので、もう心臓が破裂しそうでした。



ゆうちゃんが座りなおした時に少し手がふれ、思わず『ビク』ってなってしまい



ゆうちゃん「あ、ごめん。」



謝られてしまいました。



『もし積極的に手をつなげてたらどうなったんだろう?』

そんな風に思いましたが、そんな勇気はありませんでした。



ゆうちゃん「俺、朝飯食べてへんから腹減ってんねんけど、あきは?食べた?」



あき「食べてはないんやけど、なんやろ?緊張してんのかな?お腹空けへん。」



ゆうちゃん「なんに緊張してんねん(笑)残ったら俺食うからなんか頼も?」



そう促されたものの、本当に食欲がなく、『胸がいっぱいで何も入らんってこういう事?』って思う位で、とりあえずシェイクだけ頼みました。



ゆうちゃん「ホンマそれだけ?」



あき「うん、なんや今ホンマに入りそうにないねん。」



ゆうちゃん「まぁ、夕べの木野の件があるから、なんや緊張ほぐれてへんのかな?」



あき「そうやと思う。」



ゆうちゃん「一口だけ食べ!」



そう言われ、ポテトを口元まで持って来られて



ゆうちゃん「ほら!」



ゆうちゃんに促されて『あーん』状態で食べ、もう、そのポテトでいっぱいいっぱいになって、結局シェイクはゆうちゃんにほとんど飲んでもらう羽目になりました。



『ゆうちゃん、うちの気持ちに気付いてんのかな?』

『もし気づいててしてんねやったら・・・。どういうつもりなん?』

『やっぱりただの友達としか思てへんからこんなん出来るんかな?』



いろんな考えが頭に浮かんでは消え。



でも、実際に目の前でゆうちゃんが居る・・・。

戸惑いつつも幸せでした。



そして、ご飯を食べた後は街ブラして、雑貨とか見てたら、いきなりゆうちゃんの手が私のオデコに置かれました。



ビックリしましたがされるがままにしていると



ゆうちゃん「おかしい思たら熱あるやないか!」



あき「え?熱?」



ゆうちゃん「結構熱いぞ!あかん、なんか冷やすもん。」



自分すらも気づいてなかったんですが、昨日の疲れと、今日の緊張から知恵熱を出していました。



ゆうちゃん「ちょっとここで待っとけよ?」



当時はまだ『冷えピタ』とかも無く、ゆうちゃんがタオルを買って来てくれて、水で濡らしてくれました。



ゆうちゃん「・・・こんなんしてても根本的な解決にはなれへんから、今日はもう帰ろ?」



あき「え?・・・大丈夫やで?」



ゆうちゃん「あかん!遊びに来るんはまた来たらええねん!無理したらあかん!」



そう言われて、『でも、2人きりで遊ぶなんてもう2度とないかもしれへんのに・・・』って思ったらどうしても帰りたくなくて



あき「ほんま大丈夫!まだ帰らんで良いよ!」



そう伝えてもゆうちゃんの気持ちは揺らぎませんでした。



ゆうちゃん「またいつでも来れるから、今日は言う事聞け!な?」



強めに言われたらもうその言葉を受け入れざるを得ず、残念ながらその日はそこで強制送還されました。



でも、ちゃんと家まで送ってくれて



ゆうちゃん「じゃあ、また月曜日にな!」



と、原付で去って行く後姿を、見えなくなるまでずっと見続けていました。



信号で止まり、後ろを振り向いたゆうちゃんがジェスチャーで私の家を指さしながら『早よ家は入れ!』みたいにしましたが、見送るのをやめずにいました。



すると、原付で戻って来て



ゆうちゃん「心配であかんから先に家に入れ!」



あき「見送り位さしてや」



そう言ったけど、コツンと頭をたたかれ



ゆうちゃん「あかん!・・・また月曜日に元気になって会えるんやから!」



そう促され、渋々家に入りました。


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