信じられたワケ(2)

 あまりの迫力に隼人は

 気圧されたようだったが、

「うんとね」と口を開いてくれた。



「村の人たちには

 水神様が見えないんだって。

 目の前にいるのに

 きづいてもらえなくて、

 ずっとひとりだって言ってた。


 人間以外の友達はいるけど、

 種族がちがうから

 そんなにいっしょにいられないんだって。

 それに、気持ちは分かっても

 言葉をかわせないのが

 何よりも辛いって言ってたよ」



 傍に、近くにいるからこそ、

 苦しさが増すときがある。

 在るからこそ、

 もっと欲しく感じられて、

 手を伸ばしては心苦しくなるのだ。


 水神様の心境に

 感情移入できそうではあったが、

 彼にはそれよりも

 気になることがあった。



「村の人たちには見えないって

 どういうことだ?」


「うん、水神様が言うにはね、

 村の人たちは水神様のことを

“しんこう”してないんだって。

 存在を信じてないとかも

 言ってた気がする。


 とにかくね、

 水神様はいないって

 思い込んでるから

 水神様のことが見えないんだってさ。


『思い込みは人の目を曇らせます。

 見えるはずのものまで

 見えなくしてしまうのですから、

 あれは一種の呪いですよ』


 って言ってたよ。

 だからね、すいにいちゃんと

 りんおねえちゃんに

 水神様が見えたってことは、

 水神様を信じたしるしなんだよ。


 それに、ぼくの話も

 信じてくれたってことだね」



 隼人は威勢良くにかっと笑った。

 二人を信用している証なのだろう。



「なるほどな。

 邪心や先入観が神聖なものを

 見せなくしてるってことか。

 

 その法則でいくと、

 俺はまだ幾分か綺麗な心を

 持ってる方ってことだな」



 隼人に続き彼も悪戯っぽく笑った。


「水さんがですかー?」



 椿は小馬鹿にするような笑みを

 彼に見せたが、どこか楽しげだ。


 彼はそんな椿を

 生意気だと窘めたりもした。



「ああそれで、水神様とは

 どうやって親しくなっていったんだ?」



 問い掛けると、

 隼人はまた嬉しそうに微笑んだ。


 誰かが自分の話を聞いてくれること、

 大事な友達の話ができることが

 それだけ貴重なのだろう。



「うん、それでね、

 ぼくには綺麗な女の人が

 見えますって答えたんだ。

 そしたら水神様はふふって

 おかしそうに笑って、

 私は男ですよって言ったの」


「「えっ!?」」



 衝撃的な事実に

 彼も椿も思わず声を

 漏らしてしまった。

 その後も「あっ」と声を上げ、

 顔を見合わせる。


 優艶な水神様がよもや

 男性だとは思わなかったのだ。



 隼人は彼のそんな様を見て、

 隼人の語る水神様のように笑った。

 自分だけが知っていることを知って

 得意げな気持ちを顔に表している。

 それを口に出すことはせず、

 隼人は水神様語りを続ける。



「ぼくおどろいちゃったけど、

 笑った顔もきれいでね、

 優しそうに見えたから

 なかよくなりたいって思ったんだ。

 だから、あなたは

 水神様ですかって聞いたの。

 水神様はやっぱり

 おどろいた顔をしてね、

 私のことを知ってくれている人が

 まだいたのですねって。


 ぼく思い切って言ってみたんだ。

 水神様を探してたんですって。

 そしたらね、水神様泣いちゃった。

 誰かに必要とされることが

 ひさしぶりすぎて、嬉しかったんだって」



 出逢いを語る隼人は輝いて見えた。

 

 大切な存在になった相手との

 出逢いはそれだけ偉大なのだ。

 あの水神様がそんなにも

 取り乱したところを想像して、 

 彼は込み上げた笑いを寸前で抑えた。



「で、それからどうしたんだ?」


「うんとね、

 また会いに来てもいいですか

 って聞いて、水神様が

 うなずいてくれたんだ。

 私ならひまだから、

 いつでも遊びにおいでって。

 その後で名前を聞かれて教えたの。


 それからぼくは毎日水神様の所へ

 通うようになって、

 いーっぱい色んなお話をしたんだ。

 学校のこととか、家のこととか。


 水神様に話してないことは

 ないんじゃないかなってくらい」



 隼人は身振り手振りを付けて語る。

 それはさながら冒険小説を

 読んだ後の興奮に似ていた。

 やや興奮気味の隼人を前に、

 彼はある疑問を抱える。



「色んな話って、

 友達がいなかったことや

 母親のこともか?」


「うん、そうだよ。

 そうそう、水神様はそのことを知って、

 ぼくに色々アドバイスしてくれたんだ。

 友達の作り方を教えてもらって、

 友達ができたんだ。

 また無視されるように

 なっちゃったけどね……」



 隼人はしょんぼりと

 肩を落としてしまった。


 嫌なことを思い出させた。

 これ以上深入りするのは

 よくないと分かっていたが、

 彼は質問を止めない。



「母親とのことについても

 アドバイスされたのか?」


「水さん!」



 椿は思いやりのない発言をする

 彼を叱るが、やはり彼は止めない。



「なあ隼人、どうだった?」



 二人の物々しい雰囲気を察してか、

 隼人はいくらか怯えているようだ。

 しかし、律儀にも隼人は口を開いた。


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