事情聴取


 二人はまず、

 女将に

 詳しそうな人物に着目した。



「女将さんについて

 知っていることを

 教えてください!」



 女性とくれば

 手を出しそうな彼に代わり、

 椿が質問を行っていた。

 彼はその後ろで見守り役だ。



 一人目の聴取相手は

 ベテラン仲居の鷺島

 という女性だった。


 鷺島も女将に負けず劣らず

 美しい容貌をしている。



 鷺島の場合は

 キツい雰囲気があり、

 菖蒲のようだが。



「え、女将さんのことですか?

 そうですねえ……」



 二人は女将のことを

 ほぼ何も知らない。


 同じ職場の仲居や従業員から

 情報を得るのが

 手っ取り早いのだ。


 ベテランそうな仲居が

 首を傾げていると

 傍にいた別の仲居が

 横から口を挟んできた。



「女将さんと言えば、

 女将さん目当ての

 お客さんが結構いるんですよ」



 割って入ってきた仲居は

 藤寺というらしい。


 藤寺はまだ働いて

 数年と経たない

 若手の仲居のようだ。


 キャピキャピという

 言葉がよく似合う。


 髪色は焦げ茶で

 そこまで華美ではないのだが。



「こら」



 鷺島は躾のなっていない

 子どもを叱るように

 藤寺の発言を非難した。



「だってー、

 女将さんに何かあったから

 こうして話を聞きに

 来られてるんですよね。


 だったら、知ってることは

 包み隠さずお伝えして、

 この二人に女将さんの捜索を

 お伝えするべき

 なんじゃないですか?


 私は女将さんに

 帰ってきてもらって、

 安心したいです」



 藤寺の言うことは尤もだった。

 しかし藤寺は知らないのだ。


 女将はもう亡き者に

 なってしまったことを。


 伝えるべきか彼は悩んだ。


 いつの日かバレる

 そのときまで

 口を噤んでいようか。


 でもどうせいつか知るなら、

 早い方が傷は浅いだろう。

 それに……。



「実は、女将さんは

 遺体で見つかりました」



 彼の言葉に

 二人は目を丸くしたり、

 口元を覆ったりする。


 藤寺は

「そんな……」と

 項垂れるように声を漏らし、

 鷺島は青白い顔をした。



 次に繋げようとした

 言葉を椿が横取りする。



「ところでお二人は

 昨晩業務が終わってから

 今朝方まで

 何をなされていましたか?」



 椿の言葉に鷺島は「まっ」と

 強い批判の音を吐く。



「あたしは賄いを食べてから

 風呂に入って、

 女将さんと

 世間話をしてから

 部屋に戻りました」



 鷺島に対し、

 藤寺は何のことはなく

 答えてみせた。


 自分が疑われるであろうことを

 告げても平然としている。



 これ以上椿に

 敵意を向かせないよう

 彼は藤寺の言葉に便乗する。



「そうです。

 椿が聞きたかったのは

 そこなんですよ。


 女将が何時まで

 生きていたかなんです。


 なにせ、封鎖されていて

 鑑識も何も

 ありませんからね」



 彼は平然と嘘を吐いた。


 おおよその

 死亡推定時刻は分かっている。


 だから、

 訊きたいのはそこではない。



 いつ頃まで複数人で

 行動していたか或いは、

 旅館にいたのかだ。



 その最終目撃時刻以降に

 女将は誰かと会い、

 殺されたのだろう。



 それらしい嘘が功を奏したのか、

 そういうことならと

 鷺島も口を開く。



「女将さんと会ったのは

 食事の片付けが最後です。

 それからは一人でいました」



 鷺島は暗に

 自分が女将と最後に会った

 人間ではないと

 述べているのだ。



「そうでしたか。


 では藤寺さん、

 女将と世間話をしたのは

 いつ頃のことでしたか?」



 藤寺は斜め上を見上げる

 仕草をして、

 顎に手を当てる。



「確かー午後十時頃

 だったと思います」


 簡単な問いは終えた。


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