異世界ミシュランガイドの調査員

ちびまるフォイ

低評価つけるなんてこの世界を見捨てる気か!

空にゲートが現れると村の人達は天を仰ぎ見た。


「おお! 勇者様だ!!」

「やっとこの世界にも異世界勇者が来るぞ!」

「世界はこれで救われるんだ!!」


と、思ったらやってきたのはスーツを来た男だった。

新しい世界になんら動じることなく、地面を触ったり草を観察している。


「あれ勇者か?」

「なんか全然らしくないな……」

「ちょっと声かけてみよう」


理想とかけ離れているとはいえこの世界の救世主を無視できない。

おずおずと男に声をかけた。


「ああ、私は異世界勇者ではありませんよ。

 異世界転生先を調査して評価するモニター調査員です」


「も、モニター……? 世界を救ってくれないのか?」


「そうですね。あくまでも調査だけです。

 この世界がどれだけ追い込まれているのかなども含めて調査しています」


モニター調査員は仕事に戻ると、草の成分を調べたり地質を調べたりしている。


「ふむふむ。魔導地脈はこれくらいか……。

 文明的にはやや低め。人口はあれくらいで、敵の強さはっと……」


調査員はなにやらモンスターに近づくとそれとなく攻撃しては観察を続けている。


「難易度は高め、か。初心者にはおすすめしづらいなぁ」


村の人は調査員を遠巻きに観察こそすれ関わろうとしなかった。

調査員は来る日も来る日もさまざまな場所にでかけては、モニター調査を進めていた。


そんなあるときのこと、また空にゲートが開かれた。

今度こそは誰か来るのではと期待していたが、単にモニター調査員が帰るためのものだった。


「それではおじゃましました」


「お、おい! モニター調査は終わったのか!?」


「ええ。この世界は★0.7ですね」


「はぁ!? なんでじゃ!!」


「魔導地脈もあまりなく、空気中のエーテル成分が他の異世界に比べて低い。

 チートを求めてやってきた勇者が無双するには環境が整っていないんです」


「うちの世界はそれだけじゃないだろう!?」


「他にも敵の強さ、支配度、文明、人口などなど調べました。

 どれも難易度が高くて整備されてないものが多いです。

 よほど覚えのある人でもない限り、この異世界には行きたがらないでしょう」


「おい待ってくれ! そんなことを報告されたらうちの世界はどうなる!?

 今でもこんなに追い込まれているのに★0.7なんかつけられたら

 ますます異世界勇者なんて来てくれないじゃないか!!」


「それは知りませんよ。私はあくまで客観的に評価するのが仕事です。それにーー」


調査員はまだ話していたが、ぐらりと前のめりに倒れた。

その後ろからは村の若い男が血のついた武器を持っていた。


「お前、いったい何を!?」


「★0.7なんかつけられたらこの世界は終わりだ! だからぶっ殺してやったんだよ!!」


「ばかもの! この調査員は仕事で来てたんだぞ。いつまでもこの世界の評価が届かなければ怪しまれる!」


「だったら俺たちが調査員として評価してやればいい! 失うものなんてなにもない!」


「そうか……それもそうだ……な」


村の人達は調査員の服や道具をはぎとって、異世界モニター調査員になりすました。

幸いだったのは異世界は無数に乱立していて、モニター調査員ひとりひとりを把握しているわけではない。

ひとりくらい顔が変わってもばれないということだった。


「ようし、この世界の評価を最大まで高めてやろう」


なりすました男と、村の人達は協力して自分たちの世界の評価を釣り上げた。


評価:★★★★★


・異世界初心者でも大歓迎!

・転生した段階でチートを保証!

・魔法も使い放題!

・美女もたくさんいます!!

・モンスターは弱くてちょろいです!

・物価は安くお金使いたい放題です!

・アットホームな世界です!


>> 異世界転生者 大募集!! <<


出来上がったモニター結果はすぐに現実世界の転生雑誌へと掲載された。


「これで転生者がいっぱい来て、世界を救ってくれるぞ!!」


村の人達はまだ転生者が来てもいないのにバンザイ三唱。

掲載されてからまだ少ししか経っていないのに、空には転生ゲートがいくつも開いた。


「おお! 来たぞ!! 転生者さまがおなりになった!」


転生者は次々に転生してくると最初の村へと足を踏み入れた。

村の人達は待ってましたとばかりに助けを請った。


「転生者さま、どうかこの世界を救ってください。

 この世界は魔王によって支配され、我々はもう限界なんです」


世界の惨状と、村の人達の涙の訴えを聞いた転生者たちはそれぞれに答えた。


「そんなことより、美女がいるんだろ? 早く出してくれよ」

「モンスターが弱いんだってな。いっぱい殺せるところ案内しろ」

「さーーて、何して遊ぼうっかなぁ!」


遊園地に来た子供のような表情に、村の人達は絶望した。


大量にやってきた転生者たちは誰ひとりとして世界を救うことなく、ただ自分の快楽を満喫し村の人達はそれに奉仕するだけとなった……。

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