4 黄金の麦酒を渇望すること。そして、無貌のものの顔を認識すること。

夕方。

妙な疲れがどっと押し寄せる。いつもの帰り道も歩みが重く感じられた。

私の足はイアラのいるバーへと向かっていた。強い渇きがあった。

あのビールが飲みたい。


カランカラン


バーのドアが開く音が心地よい。

そして、微笑むバーテンダー。褐色の肌に黒い髪、快活な笑顔。イアラだ。

「ビールをもらえないか」

カウンターの席に着くと同時に注文する。イアラは微笑みながらビールを入れる。ビールサーバーは以前と同じように黒い輝きを放っていた。


「そのビールサーバーって変わってるよね」

前回からの疑問を口にする。イアラがきょとんとした目で私を見た。

「普通、バーのビールサーバーって金色とかじゃない?」

この言葉を聞いて、イアラはニッといたずらっぽい笑みを浮かべた。

「このサーバーはねぇ」

そう言いながら、サーバーの蛇口の先端を見せた。黒い、顔のないスフィンクスのような四足の怪物が彫刻されていた。


ん? どこかで見たような?

私はジャケットのポケットをまさぐる。顔のない、黒い怪物の陶像があった。思わず、取り出して見比べてしまう。


「あの時のナイアルラトホテップ、ですね」


私の手に握られた彫像を見て、彼女は笑顔のままそう言った。

蛇口に形どられた彫刻と見比べてみる。なんとなく似ているような気がするし、顔がないにもかかわらず、そのデコボコがどことなく印象が違うようにも思える。


「どちらも同じものを表現した彫刻なのよ。ただ、制作者が違うせいか、少し表情が変わっていて、それぞれの印象があるの」


私の抱いた疑問を先回りしたかのようにイアラが答える。

同じもの、か。

そう言われてみると顔のない怪物にも表情があるように思えてくる。


ふふふ。

そんな私の様子を見てイアラが声を上げて笑った。

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